表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GOD CHAIN  作者: Noah
1章
2/8

コルニス



リリアン大陸は二つの信仰神が創ったとされる大大陸である。

力学の神『イリファ』と、魔学の神『ディムルニア』。

そして、リリアン大陸は《リデーリア公国》と《ドルガニス帝国》の二つの国によって統治されていた。


前者の国はイリファを信仰神とし、後者の国はディムルニアを信仰神として分断されている。


もちろん両国互いに手を取り合い、仲良しこよしという訳ではない。

近年では信仰神に対する信仰の薄れや、無信仰などの文化も増え睨み合う事も少なくはなって来てはいるが、半世紀前に起きた革命戦争では両国共に半分の民を失うような殺し合いをしたのも事実であった。


しかし、まだ水面下での睨み合いは未だに続いている。


そんな中ドルガニス帝国で、二人の生命が産声をあげた。



上流階級の家に産まれた二人の子供、母はその二人の名前をこう付けた。


男の子は『コルニス』、女の子は『リニス』。

名前に近いものがあるのは双子だったからである。


「コルニス、貴方ももう七歳。そろそろ本格的に魔学を学ぶ年頃です」


黄金に輝く柔らかな絹をも想像させる髪に、コバルトブルーの目、毎日の手入れを怠らない肌は四十代には到底見えないであろう気品に溢れる淑女は、目の前に立つ自分に良く似た男の子に優しく話しかけた。


「はい、お母様」


コニルスは柔らかく透き通るような声で、軽く頭を落としつつも目の前の女性が視界に入るような姿勢で答えた。


「コルニス、貴方はとても優秀な息子です。まだ七歳とはいえ独学で魔学を学び、そしてその年で小魔法を幾つも使う事が出来るのです。貴方はドルガニス帝国でも百年に一人との逸材と言われる程、底の知れない魔学をもって産まれたのですよ」


「いえ、お母様。私がこの様に恵まれた魔学を持つことが出来たのも、お母様やお父様の愛情があったからこそだと私は思っております」


コルニスは少し目を細め、軽く口角を上げて微笑むように母親に笑いかけた。


「十歳になれば帝国魔学隊へ入隊出来る資格も与えられます。貴方なら神官候補として確実に合格出来るでしょう」


魔学というのは魔法の事である。

魔学は大まかに分類したら、《小魔法》《中魔法》《大魔法》の三つに分類される。


大魔法の上に《界魔法》《暝魔法》そして人が到達出来るか分からないとされている《神魔法》があるが、ドルガニス帝国の中でも界魔法と暝魔法を使えるのは帝国魔学隊の上、五人しかいない最高位魔学機関の《イソリューシャン》のみである。


魔学は基本的には自己の精神から生み出される力であり、精神が弱い者や、魔学に関心がない者は小魔法すら使う事も出来ない。

魔学が芽生え出すのは、自我を持って頭で考え始める頃からである。

その為、頭が柔らかい子供のうちに魔学を芽生えさせようと親は必死になる。


帝国魔学隊への入隊条件は十歳までに最低でも小魔法のうち、基盤となる《炎系》《水系》《雷系》の一つが使えることだ。

しかし、百年に一人と言われるコルニスは七歳にして三つの系統を使い、更に実戦で使えるような小魔法まで使えるのであった。


実際、コルニスが初めて魔学を使ったのは3歳の時であった。母親であるリシーアはその時を覚えている。

いや、覚えていると言うより恐怖で忘れる事が出来ないと言った方が正しいだろう。


子供部屋はまるで氷河期の様な寒さで、玩具やカーテン、部屋の何もかもが凍っていた。その中で母親を不思議そうに見つめる小さな息子の瞳には、その場で感じた寒気よりも冷たく深い感情が渦巻いていた。


リシーアは愛する息子のその瞳が忘れられないのだ。


「お母様、私は少しやりたいことあるのでそろそろ部屋に戻っても宜しいでしょうか?」


「そう、じゃあ自室に戻りなさい。くれぐれもやりたい事に没頭して、家族での夕飯に遅れることの無い程度にしなさいね」


「はい、お母様」


リシーアはコルニスに微笑みながら、愛する息子の柔らかい頬を軽く撫でた。


コルニスが礼儀正しくリシーアの部屋を出た後、リシーアは軽く深呼吸をした。


「デイニー、あの子は今どこ?」


「はい、リシーア様。リニス様は裏庭でリシーア様のご命令通りに噴水の掃除をなさっております」


デイニーと呼ばれたリシーアの側にいたメイドは頭を深く下げたまま答えた。


「終わり次第私の元に来るように伝えなさい」


「畏まりました」


デイニーが後にした部屋はリシーア一人となった。

そしてギリリと歯を食いしばる音が微かに鳴った。


「アレさえ産まれて来なければ、コルニスは……我が一族は何も汚点が無かったのに……」


リシーアの顔はコルニスを相手にしていた時とは別人と言っていいほど歪んでいた。


「アレは外には出していけない。どうにかして手を打たないと……」


アレの顔を思い出す度にリシーアの歪みは酷くなる。


「……リニスめ、何も持って産まれて来なかった屑同然の子。コルニスだけで良かったのに……」


リシーアは怒りと憎しみの間の息を微かに漏らした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ