情けない自分に腹が立つ!
「朋花×航」の3話目です。
ではどうぞ。
「航あのさ、葵姉の進路聞いてる?」
教室移動の合間に、聡太がこう声をかけてきた。
「・・・本人に聞けば?」
あの時から持て余してる暗い感情のままに、そう返事をした。
俺だって、ねーちゃんからそんな話、まったく聞いてねーから知んねーし。
推測で適当な事を言う気もねーし・・・俺なんかに聞くより、本人に聞いたほうが確実だろう?
別に、聞いたっておかしくも何ともない関係になった訳だしさ。
・・・ただでさえ今、聡太と話すのきついんだ。
「お前等仲いいんだろう? 帰りにでも捕まえて聞いてみればいいじゃねーか。でも、そのまま家に上がり込んでいちゃつくなよ?」
別に聡太のせいじゃないけど・・・聡太見てると苛ついてしまう。
だからつい、今みたいに余計な事を言ってしまう。
「誰がお前の家でいちゃつくか・・・今日は弟殿の言う通り、昼にでも葵姉を誘うよ。」
トゲのある声で言った聡太は、俺を追い抜いて先に理科室に入って行った。
・・・まったく、何やってんだ俺は?
「へー、喧嘩してたんだ。それで聡太くんとギクシャクしてるのか。あんた達も喧嘩するんだね?」
昼休みの教室で、弁当を食った後の朋花の疑問に、弁当に追加してのコロッケパンを食いかけの俺が答えた。
選択教科の違う朋花は、あの時あの場におらず、不自然な俺達二人の態度に疑問を感じたらしい。
まぁそうだろうな・・・
朋花は自分の席で片肘をついて、さも可笑しそうなものを見るように俺を見ている。
「前はしょっちゅうしてたさ、あいつ結構短気だからな。最近はずっと朋花が一緒で、そういう事は減ったけどな。」
かなりの割合で三人一緒にいる事が多い。
そうだ、朋花と二人でいるより、三人でつるんでる時間の方が長い・・・。
「二人ならどうだったんだろうな? ・・・もし、もっと二人でいる時間がもっと長かったら・・・聡太に先越されてなかったかな?」
写真を見てから、一人でそんな事ばっかり考えて・・・結局、聡太に八つ当たりをしてしまった。少し時間が経った今、実はかなり後悔している。けど多分、今の俺は謝ろうとしても、逆に拗らせかねない。
腹の中のモヤモヤとした気持ちのせいで、あいつの顔を見たらどうせまた余計な事を言ってしまう。
聡太はきっと今頃、屋上でねーちゃんと仲良くやってんだろう。俺がそう言ったんだ。
その想像は、俺の複雑な気分をさらに増幅させていた。
「何それ!? まさか喧嘩の理由ってそれ?」
朋花は急に大きな声を上げて、腹を抱えて笑い出した。
それからしばらく笑い続け、その声が止むと厳しい目を向けてきた。
「あーおかしい・・・それで、聡太くんに八つ当たり? やっぱり航はバカだ。」
「分かってる。頭じゃ分かってるんだ! けど・・・なんか、胸の中がスッキリしないんだ。それに、俺等は付き合い出して結構経つけど・・・その、全然何も・・・。」
俺は自分の彼女に何言ってんだ!?
パニくる気持ちと、どこか冷静な部分との間に挟まれて、それ以上言葉が出てこなくなった。八つ当たりだって事は分かってる。羨ましがってどうなる事でもないって分かってる。だから、言い訳の言葉も途切れた。
そんな俺に朋花は、溜息を吐きながら水筒の蓋を捻って開けた。
そしてその水色の水筒を傾けて、口をつけると中身を流し込み、そして蓋を戻した。
俺は黙ってその様子を見ていると、一度ひどく睨まれて、右手で俺のネクタイを掴まれ引っ張られた。
・・・これは、しっかりしろって殴られるのか? いや、利き手じゃねぇな。
じゃあ、このままネクタイを締め上げられるのか?
姉から受けた数々の仕打ちが染み込んだ悲しい弟の思考は、そんな事ばかりを考えてしまう。
・・・だが、そんな事態は起きなかった。
「本当に航はバカだな? そういうのは時間の長さじゃなくて・・・動かないと意味が無いって知ってるか?」
突然反対の手で目を塞がれて、静かな声を聞いた後・・・さらにネクタイを引っ張られた。
訳が分からないまま身を乗り出す形になると、次の瞬間驚く事が起きた。
唇に、温かく柔らかいものが触れた。
すぐ側で息がかかり、麦茶と朋花の匂いがした。
そして・・・少ししてその温もりは離れた。
俺はそのまま呆然として固まり。
「・・・しっかりしろ。」
隠された目の所をそのまま押され、後ろの席をひっくり返しそうになった。
「これでイーブンだろう? さっさと仲直りしてこい、バカ。」
心なしか赤い顔を逸らし、強い口調で言う朋花はとても可愛いかった。
・・・そして、俺は本当にバカなんだなと・・・腹の底から情けないと思った。