↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/13

盾の分



二本目は、次の日に、前腕の棒の残りから打った。

三本目は、その次の日に、二の腕の棒から。


どちらも、一本目と同じ手順だ。切って、叩いて、平らな面を出して、溝を回す。蝋の型と並べる。

作業台の布の上に、二本が並んだ。


困るのは、その次の日からだった。


残っているのは、二の腕の棒の残りと、前腕の棒の最後の端と、肘の蝶番。蝶番は、軸の頭を落とすと、羽根が二枚と軸一本に分かれた。

全部、瓶に沈める。


水は、二本目の線に、ちょうど届いた。


「二本ぶん、あるね」


リタが言う。


「線の上では。でも、どの切れ端も、一つでは一本に足りません」


ばらばらの切れ端を、一つの塊にしなければならない。

鉄なら、沸かして付ける。白く光るまで焼いて、重ねて叩けば、二つが一つになる。


「うちの人も、言ってたよ。鉄を沸かす、って」


桶の上で、ハンナさんがうなずいた。


「星銀を沸かしたことは、ありません。付くかどうか、分かりません」


だから、まず爪ほどの切れ端を二つだけ使った。継ぐ面をやすりで光らせて、火箸で挟んで炉に入れる。


「もっと?」

「もっとです」


リタが、ふいごを押す。炉の奥が、黄色から白に近づいていく。

引き出して、金床の上で叩いた。


かん、と鳴って、切れ端は二つに戻った。


足もとに転がったのを、拾う。熱が足りなかったのか、面が汚れたのか。

もう一度、面を光らせた。今度は、さっきより長く焼く。


二度目は、叩いても離れなかった。


冷めてから、継いだ所を金床の角に掛けて、槌で曲げた。曲がるだけで、割れない。

伸ばし直して、残りの切れ端と一緒にした。


その日は、塊を一つ作るだけで暮れた。


「一日に、一本は、守れませんでした」


その晩、門でダリアさんに言った。ダリアさんは、何も言わずにうなずいた。


◇


四本目は、その塊から打った。


日暮れ、リタと塔へ上がって、一つ目の穴の留め具を抜いた。代わりに、四本目を差す。

継いだ物で、地の力が渡るか。それを確かめたかった。


しばらく待つと、台座の奥が唸りはじめた。水晶の奥に、白い点。一本目のときと、同じ大きさだ。


「渡ります」

「じゃあ、二本とも差しとけばいいのに」

「差したら、光が伸びます」


リタが、首をかしげた。


「伸びたら、どこまで届くか、みんなに見えます」

「見えたら、だめなの?」


俺は、答えなかった。


抜いた一本目は、布に包んで持って帰った。


五本目を打ったのは、次の日だ。

塊は、一本ぶんしか残っていない。やすりは、いつもより少しずつ当てた。


蝋の型と、並べる。

平らな面。先細り。根元の溝。足りた。


金床のまわりに残ったのは、白い粉だけだった。


「……六本目は」

「ありません。少し、は、やすりの粉になりました」


リタは、布の上の四本を、指で一本ずつ数えた。塔に、もう一本。


その晩、門でダリアさんに会った。五本目のことは、言わなかった。言えば、灯す日を決めなければならない。


◇


空き家に戻って、卓の上で見積書の束をほどいた。


塔を見た次の晩に書いて、金額の欄を空けたままの一枚がある。

「八本打つ」の横に、「五本」と書き足した。材料の行には、「ダリアさんの添え木から」。


金額の欄に、銅貨六十枚と書いた。


それから、注意書きを書く。


――八本のうち、五本。届くのは、たぶん町の真ん中まで。東の畑と牧草地には、届きません。

――


二行目の頭で、炭筆が止まった。


いつもなら、ここに書く。持ち替えること。強く閉めないこと。油を差すこと。

光の届かない家に、書くことがない。

灯せば、どこまでが明るく、どこからが暗いか、町じゅうに見える。その線を引くのは、俺だ。


四日たっても、その行は白いままだった。


リタは毎朝、戸を叩いた。


「書けた?」

「まだです」


ダリアさんは、毎晩、門から塔の明かりを見ている。そう、リタが言った。


一度だけ、門で聞かれた。


「何本だ」

「打っています」


ダリアさんは、岩山の小さな明かりを見上げて、それ以上は聞かなかった。


◇


四日目は、朝から雪がちらついていた。


夕方、作業場に、門番の若い衆が駆けこんできた。


「修繕屋さん。東門に、乗合で来た男がいる。でかい盾を背負って、あんたを出せって」


門へ走った。


くぐり戸の前で、松明の火が揺れている。その横に、大きな背中があった。

大盾の左下が、火を受けて銀色に光る。


「……ギド」

「バルドさん」


ダリアさんが、松明を持ったまま、俺とバルドさんを見比べた。


俺は、道具袋の底から革袋を出した。中で、銀貨が鳴る。


「これを、お返しします」

「盾の分だ」

「盾には、まだ何もしていません」


バルドさんは、背中から大盾を下ろした。俺の前に、立てて置く。


「なら、見ろ」


松明を借りて、盾の前にしゃがんだ。


銀の継ぎ目は、どれも割れていない。裏の革帯は、新しい。

左下に、知らない跡が二つあった。浅い、尖った窪みだ。


「いつ、どうやって壊れましたか」


「灰岩の、中層。蜥蜴の牙だ」


バルドさんは、少し間を置いた。


「レオンの剣が、根元から折れた。そのときだ」


俺の指が、窪みの上で止まった。


「どこから、折れましたか」

「鍔から、指三本」


欠けを、何度も直した所だ。


「組合は、使用者の扱いによる破損だと言った。保証は、きかん」


ダリアさんの右手が、左腕の添え木に触れた。


「レオンは、二本目を分割で買った。金貨二十枚だ」

「手首は」

「返すな、と言ってきた。聞いたかは、知らん」

「見積書は」

「読んだ。折れたあとの、野営の火で」


俺は、牙の跡を指でなぞった。窪みは浅い。奥までは、届いていない。


「割れていません。これは、仕事の傷です。直すところは、ありません」


バルドさんは、黙って盾を背負い直した。

それから、目を上げた。町の向こうの岩山に、白い明かりが小さく一つ、ともっている。


「あれは」

「塔です。留め具を、一本だけ差してあります。五本、打ちました」


ダリアさんの松明が、こちらを向いた。何も言わなかった。

バルドさんが、塔を見上げたまま言った。

「なぜ、全部差さん」


俺は、見積書の束から、あの一枚を抜いて渡した。


バルドさんは、松明の下で、ゆっくり二度読んだ。白いままの行で、目が止まる。


「書けんなら、言え」


紙を、俺の手に返す。

それから、ダリアさんのほうを向いた。


「門の手は、足りているか」


ダリアさんは、雪の向こうの森を見た。


「足りん」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。