第七話《厨房にて》
厨房にて。ライの指示はすぐに広がり、あるだけの種類、食材が並べられた。見た目から考察出来ない物を除くと、豆類、にんじん、かぶ、そして芋など。パンなども数種類あるみたいだ。肉は……何の生き物から採れたのかわからない以上、触れたくはない。
「芋があるならフライドポテトは作れる。カレーの方はスパイスが有無によるな」
「そうか。……総員、スパイスの用意を!!!」
そう言い放った途端、奥の方から壮絶な音を立てて厨房に入る影があった。鼻を抑えながら、イライラと向かってくる赤髪の女。シエラだ。
どすどすと、本当に足音が鳴ってると思わせる圧に、料理人たちはスパイスや薬味を抱えたまま引いていた。
「ライ! こんな得体の知れない奴の料理を食べるの? こいつの料理を食べるぐらいなら私が作るわ!!」
おっと、ライバル登場と来た。<うぬす>はここで引き下がる訳には行かない。料理、飯に関して対決しようと言うのだから、日本人として負けられない。食材についての知識というハンデすら覆してやろうという意気が、無限に湧き出る。
「ほほーう。なら、そっちの得意料理での勝負でも良いけど?」
「その調子がいつまで続くかしらね。なら、魚料理よ!」
シエラの自信はその顔が語っている。
そして……挑発したは良いものの、こちらの世界の魚なんて知らない。さっきの食材たちの棚の下に、冷えた箱があった。おそらくその中に。
開けてみると、海の宝石箱やった。とにかく豊富な魚が大量に入っている。キッチリと種類別に分けられているが、どれがどれかは知る由もない。
「私はもう料理に取り掛かるわ」
シエラは迷わず一番大きな箱から、巨大な魚を持って厨房の奥へと、料理長を無理やり連れて消えていった。残されたのは、<うぬす>、ライ、数人の料理人だ。
「すみません。少し魚の味の特徴と捌き方などをサポートして欲しいです」
料理人たちは目の輝かせて頷いた。ライはこの戦いを邪魔しないようにと口を閉ざしているが、シエラを心配そうな目で見つめている。
「どーしたんだよ、ライ?」
「いやー、シエラさ。プライドと自信はあるけど、料理してるところ一度も見たことないんだわ」
察した。だけど料理長が付いているし、多分大丈夫だとライは言っていた。
「オレは上で見てるから。楽しみにしてるぜ」
「任せとき!」
早速料理に取り掛かる。<うぬす>の包丁捌きはプロではない。それは自身も知っている。今回目指す料理の性質上、身が小さい魚は避けたい。それ以外にも色々と条件がある。
「身がそこそこ大きくて、小骨が少ない。生で食べられる魚。ありますか?」
料理人たちが少し悩んだ末に出てきたのは、鮭のような魚だった。しかし、鮭よりも一回り大きいと思う。そして野生の匂いが多少……。
こちらの世界の包丁は、少し持ちずらい。仕方のない事だけど、この包丁捌きに左右される料理だ。慎重になるのも無理ない。
動かないでいる<うぬす>に一人の料理人が近づく。
「まずは鱗を削いで、腹を裂き、内臓を取り出しましょう。処理の時間が経てば経つほど臭いがキツくなります」
「わかりました!」
一度手本を見せてもらえば覚えは早い。ゲーマーとして相手の動きを理解する速度は重要だから。<うぬす>は合計2匹ほど捌いた。1つはまだ使わないため、塩を塗って冷やしておく。
骨を綺麗に取り除いて、身だけにする。それをよく洗い、少し汁を拭き取る。
綺麗な切り身にした。それでも臭いが気になる為、塩とスパイスをベースにタレを作る。
切り身の表面だけを軽く炙る。
米が無いのが惜しいが、異世界炙りほぼサーモン完成だ。寿司にして食べたかった……!
そして残りの身のほうは、良い感じに水分が抜けている。どんな技術が使われているのか、想像も出来ないが、一瞬で熱っされるフライパンがあるらしい。この町の特産品だと。
塩を塗った鮭に、お酒と砂糖を少しかける。それをフライパンに乗せ、蓋をする。少し蒸したら酒を足す。美味しい焼鮭の出来上がりよ。
「色々手伝ってくださってありがとうございます」
<うぬす>は料理人の人たちに深々とお辞儀をした。自分の作った料理の匂いによって、腹の音が鳴ってしまったのでカッコ良くは締まらなかった。
料理人の一人が言う。
「うぬすさんよ、少し味見してみたらどうだ?
あと……ちょっと食べさせて欲しい!」
ネタだけ寿司、焼鮭でそれぞれ3皿盛り付けた内、1皿をみんなで食べてしまった。とても美味しかった。みんな満足そうだったし、料理法をメモする人もいた。これにはガッツポーズ。有頂天だ。
「出来たわ!!!」
シエラの声はやはり響く。だいたい同時刻にお互いの料理が完成したらしい。元気いっぱいのシエラとは対照に、この1時間でやつれ切った料理長が追従していた。
シエラの持つ大きな鍋には、ドデカイ魚が贅沢に煮付けにされていた。これを捌く大変さは想像を絶するだろう。途中で倒れた料理長が、料理人たちに運ばれていった。シエラとサシの状況下……。
「早く持っていくわよ! ライもお腹減ったでしょうし!」
デカすぎる鍋を持ち歩くせいで、シエラの歩く音は重低音を響かせていた。これは比喩では無い。
上階に着くと、ライがウキウキしながらエプロンを付けていた。それぞれが盛り付けた皿を机の上に置く。
「良い匂いだろ?」
「私の方を先に食べなさいよ!」
紆余曲折あって、気絶した料理長がまた連行されてきた。味の審査は一人だと公平じゃない、とのこと。ライ、料理長、そしてミーイが審査員となったのだ。
「楽しみだぜ!」
「もう少し寝させてください……」
「うぬす久しぶりだな。あんたって意外に料理できるのか!」
<うぬす>の料理がまずは口に運ばれた。シエラは悔しそうな顔をして見守る。
食べた人たちの表情からしても大成功。
「これは……中々。魚を半生で食べるなんて正直初めてだったんだが、良いぞ、これは!」
「こちらの焼いてある方も最高ですね……外は香ばしく、中は……」
料理長は倒れた。とりあえず仮眠室にまた運び込まれる。流石にもう帰ってくることはなかった。関係ない話だが、後日、3日間休みをもらったらしい。
<うぬす>の料理の評価は良好。さて、次はシエラの作った巨大煮魚だ。ライが一口食べる。
「うん。これも美味しいぜ! 仕事終わりとか、暑い時にぴったりかもな。ナイスだぜシエラ!」
シエラの表情は緩くなっていた。ミーイは口をもぐもぐと動かしながら、グッドサインを贈っている。
「いやぁ〜、シエラが料理できるとはアタシ知らなかったっす。ま、どっちも最高っした! じゃ午後の仕事行ってくるんで、ばいばーい」
緑色の髪を高速でなびかせ走り去っていった。机の上には両方100点満点と書かれた紙切れ一つ。
<うぬす>もシエラの料理を口にしてみた。ちょっぴり塩辛くて、確かに仕事終わりには良さそうだ。
「シエラさんの料理、美味しいですよ!」
<うぬす>の一言によって、シエラは満足して帰っていった。ライもわざわざ甲乙つけなくて済んだので、ホッとしている。
「色々と時間をかけてしまって悪かった。次の仕事でオレたちもバルーナに向かうんだ。乗っけてくぜ」
「お言葉に甘えて……ありがとな!」
その後、二人の料理はライ一行のみんなで食べたと言う。そして、シエラは<うぬす>への扱いを少しだけ、本当にわずかだが改めようと思ってみたのでした。
次回! 出発前夜 乞うご期待!
あっても良いよね?こんな間話。
関係ないけど、少し厚めの柔らかいズボンをマフラーみたいに首周りに置いて寝ると心地よい




