第六話《ライ》
慣れない煙に咳き込む。その巨大な鉄塔の影は、辺りを包み込んで、昼の明るさをかき消してしまっていた。ゲームの「シニスト」で言えば武器屋に属する場所だろう。
バオックスの町については、全クリを目指す上で中継地点でしかなかったから、そこまで記憶に定着しなかった。
重厚な鉄扉の前に立ち、肩をこわばらせながら引くが中々開く気配がない。そりゃそうだ、スライド式だったんだもの。
「すみません〜」
少し錆びついた鉄と、塗料の匂い。眼前に並ぶ武器の魅力が溢れ出る並び方。その奥にある大剣が、<うぬす>の姿を鏡のように反射させ、手入れの素晴らしさまで体感する。
現実で見て、触れた事すらないが、見惚れてしまう美しさ。触れたら金属特有の冷たさが手にじんわりと馴染むのだろうか。全能感に近しい高揚が、身体中を駆け回る。
「お客様、何かお探しでしょうか?」
「……。あっ。えーとライさんから、この塔にと」
「うぬす様ですね! ライから話は聞いております。どうぞこちらに」
歩いて着いていく。途中階段があって、少しつまづいてしまった。……まだだろうか、階段の終わりが見えない。外観からして相当大きな建物だったが、本当に長い階段だ。
それを案内の人は涼しい顔で進んでいく。
俯いた頭を上げた時、艶のある赤混じりの黒い色をした、木製の扉があった。その上には、副社長室と記されている。
「失礼します」
案内の人は丁寧なノックをして、扉の先に進む。
ライと<うぬす>に深くお辞儀をして、下階に戻っていった。
出会いの時とは違って、整った正装姿のライがこちらに向かってくる。
「こんなに早く来てくれるとは」
「寄れる場所がここしかなくて……。はは」
「そうか? ランジェ拠点に行ってると思ったわ。生物に対する知識量、ランジェじゃねーと言っていたが、試験を受けるために勉強した類かと思ったぜ」
拠点には行ったが、入り直すのが恥ずかしくて塔に来た、とは言えない。足踏みするように一歩引く。ライは何となく察しがついたのか笑っていた。
「そーかそーか。で、1つ確認させて欲しい。ランジェになりたいのか?」
「ならないと出来ない事ばかりだから」
「そうだな。ちなみにバオックスでは試験は受けられないぞ。ここから南の中央都市バルーナで2週間後に試験がある。年一だから気ーつけな」
綺麗にまとめられた書類が手渡される。少し開くと、そこには几帳面な文字で要項がまとめられていた。しかし、一番目に留まったのは最後のページ。
「色々聞きたいって前言ったよな? まだ質問は終わってないぜ」だと。……汗が滲む。
「えーと、最後のページは?」
「まだ知ってる事沢山あるだろ? 無駄話でも何でも良いんだ。商人は話も武器になるって訳よ!」
「お世話になってばっかりで悪いし、もちろん知っている事は何でも話す」
快諾以外あり得ない。森ではライたちに命を助けられたのだ。その後も多く補助された。
ライは<うぬす>の持っている情報そのものに面白さを見出している。だから、自然に塔に来るように招待したのだ。
「単刀直入にだが、ランジェしか知り得ない情報はどこから仕入れたんだ? 知り合いか?」
「一番難しい質問……。んー、例えるなら、知識が詰まった遊べる本のような物」
「意味わかんねー。ちなみにどの程度の知識があるんだ?」
「ベテランの警備隊ぐらいの知識量だと自負できる。けど、コマン語の読み書きは出来ないんだ……」
「さらに不思議だな! また機会があれば教えてやるよ。そんで気になってたのがニホンって国の話」
なんだか同級生と会話をするってこんな感じなのかな。<うぬす>にはわからない。だけど心のどこかで求めていた繋がりの一つだと思う。
祖国の思い出に浸りながら、語った。
進んだ技術。それはライにとっては魔法と変わらないのか、常に驚いていたし、仕組みを聞かれた。それは答えられないが、楽しさは伝えたい。
盛り上がりのピークは飯の話だった。
「カレーライスって知ってっか?」
「なんだそれ?」
「スパイスが効いて良い匂いでさ! そんで辛味がアクセントになって止まらない、やめられない。ビーフカレーは肉がほろほろだと最高なんだよ!」
「作ってくれよー」
「材料がなぁ……。少ない材料で済む料理ならフライドポテトとか! 気になるか?」
<うぬす>はこちらの世界に来て以降、飯を食べていなかった。……爆音で腹の音が鳴る。
「気になるな! とりあえず厨房に連れてく。着いてこい!」
ライが部屋から飛び出した。足早にとにかく目的に向かっていく。<うぬす>の料理経験は深夜食を自分でたまに作るぐらいだ。
一抹の不安が残る。そして扉の裏で警戒、待機していたシエラはライの突然開けた扉に頭をぶつけて、倒れていたのでした。




