第三十八話《次なる冒険》
キリエによって眠りから起こされると、辺りが明るくなりかけていた。<うぬす>はあくびをしながら、姿勢を直す。
キリエが暇だというので指スマを教えた。
十分と経たずに飽きる。しかたない、しかし雑談で繋ぐにも寝起きだから頭は回らない。
二人の指スマ大会で、<うぬす>が40勝36敗となった時。窓から太陽の光が差し込む。
もう他の試験生は帰っていた。
町に活気が見え始めた時間帯。拠点に誰かが入ってくる。ようやくハイルの登場。
「おかえり〜」
「ハイル遅いぞっ!!!」
うぬすとキリエは眠い目を擦りながら、元気いっぱいに出迎えた。ハイルはきまりが悪い顔をしながら、笑っている。
「すまねぇ! とりまサヤも連れて飯いくか!
次は全員に戦い方を教えてやるよ!」
またご飯を食べに行くことになった。<うぬす>とキリエはいつものハイルで安心した。とりあえずサヤを迎えに行こう。
「キリエについて来て!」
<うぬす>たち3人は拠点を後にした。
◇◇◇
宿に着くと誰も居なかった。サヤのいるはずの部屋の扉は開きっぱなしで、そして冷たい。窓が開け放たれたまま放置されていた。
玄関に立ち声をかける。
「サヤ〜?」
「おーい!」
「試験終わったから飯いくぞー」
応答はない。ハイルと<うぬす>は玄関で待ち、キリエは部屋の奥に入っていく。
「サヤ〜いる? いたら返事してー!」
「もしかしてお風呂で寝ちゃってるー? ダメだっていったじゃーん!」
「違うのかな、トイレとか! ……いないかぁ」
「じゃあもう寝室に入るからね!」
ここにいる3人はサヤが返事を返してくれないだけだと、まだ考えていた。部屋の奥に入って行ったキリエから発せられた言葉ではない声。玄関で残っていた二人も、ただ事ではないと気付かされた。
「何があったんだ!」
キリエは紙切れを一つ、強く握りしめている。どんな感情だろうか。表情には涙を浮かべていた。
その紙切れを覗き込むと、「ごめんね、ありがとう。ばいばい」とだけ書かれている。
<うぬす>には全くわからない。首を傾げてしまった。何に対する謝罪であり、何を思ってこの置き手紙を残したのか。ハイルもあまりピンと来ていない様子だった。
しかし、キリエだけは違って見える。二人にしか分かち合えない事なんだろう。
「……二人でって約束したじゃん。サヤ……」
キリエが崩れ落ちた。普段のおだらかな明るさには混じりようの無い物をあらわにしている。
<うぬす>は悩んだ。サヤとキリエ、二人でしか共感できない事がありそうだからと1次試験の時は口を挟まなかった。
今、サヤの姿はない。
だったら、どうにかするしかない。出来るかはわからないけど価値はあると思いたい。
「キリエ……。俺たちもサヤが心配だ、だから、もしだけど、何か心あたりとかは?」
「わからないの。キリエはサヤを支えられていると思ってた。だけどキリエは! キリエは!」
ハイルが近くで宥めた。
異常がわかるが、対処法の糸口さえ掴めない。困惑顔を見せる<うぬす>とハイルに、呟くようにしてキリエが話し始めた。
「多分だけどサヤは……ううん、違うキリエはサヤの事をわかってない。だから助けて欲しい。
キリエだけじゃサヤは見つけられないから……」
「もちろん! 僕たちに任せなって!」
「俺もサヤを探すの手伝うよ。二人の目的も北の故郷。俺の目的も北にある国だし。旅は道連れよ!」
キリエは涙腺を堪えながら、一回だけ顔を袖で拭った。その後、何もなかったようにいつもの笑顔に戻る。
「ありがと〜! キリエが泣いてたら尚更ダメだからね! 本当に、ありがとう……」
サヤからの置き手紙が残されていた机の上には食べかけのセジェールガルニ。そして律儀に、その側には「美味しかったです。いつかまた食べに行かせてください」と手紙。
3人は改めて確信する。サヤは自ら命を断つほど弱くない。だから、どこかに居る。
小さな少年少女の、大きい一歩が部屋から踏み出された。
宿を後にしてまず向かったのは飯だった。町に慣れているハイルに同行しながら、今後の動向を決めながら。
キリエはすごいと思う。無理をしているのは見て取れるが、すでに元気だった。それを突くほど子供でも、解決してあげるほど大人でもない。
<うぬす>もテンションを元に戻した。
「とりあえず軽くすませるか。食後は武器を見に行かないか? うぬすなんて武器持ってなかったろ? 試験の銃も借り物っぽかったしな」
「それは流石に最高っ……。ハイルは銃の事とかわかる?」
「全くだな。ちなみにキリエは?」
「知らない! 弓一筋ですから!」
振り出しリスタート。試験の終わりと置き手紙。
<うぬす>がこの町に来て初めて食べた屋台の串焼きを食べながら、それぞれの胸に強く信念を握りしめて。
試験編 完!




