第三十七話《試験の終わりと追試と》
警備隊拠点でハイルの帰りを待っている時だった。なぜかメリゼルナに声をかけられる。奥の部屋に三分後……か。
<うぬす>は一旦背伸びを終わらせて、体をリラックスさせる。考えられる可能性は2つ、ババロアの事か、筆記試験の出来の悪さ。
前者なら最悪だ。<うぬす>の眠気は一瞬で吹き飛ばされていた。緊張していたら、嫌なほど早く進む時間の流れ。
まだ元気そうなキリエに一言かける。
「とりあえず呼び出しされたし、行ってくるわ」
「おっけ」
色々と疑うべきだが、とりあえず歩く。自分以外の皆んなが手渡されていた金属製の板。合格証なのだろう。予想は出来る。
部屋に入ると、刑事ドラマの取り調べ室みたいな配置で机と椅子が並べられていた。奥の椅子にはメリゼルナが鎮座している。
促されるままに、<うぬす>は手前に座った。
「時間通りだ、始めさせてもらう。
お前は実技試験は合格に達している。しかしだ、筆記試験に置いて歴代最低点。1問も解かれていない白紙を提出したな」
「……はい」
「そこで追試とする。私たちランジェに頭脳は必要だ。会話が成り立ち、指示が聞ける。この最低限が出来れば問題はない。
試験内容を見る限り、会話の最低限は感じさせられた。口頭試問として追試をする」
「はい!!」
勝ち確演出が脳内で流れる。逆転! 激アツ! 虹演出! とにかく最高だ。ババロアの事でもない。そして試験は会話で済ませられる。
文字を書かなくていい!
<うぬす>の顔は気持ち悪いほどニヤけていた。
「設問はランジェに関する基礎的な部分だ」
「わかりましたぁぁぁ!」
内心どころではないガッツポーズ! 人前で変なテンションになってしまった。目の前に座るメリゼルナも少し引いている様に見える。
しかし、この興奮は止まらない。ゲームの知識がそのままに転用できる。この世界に来て初めてそんな気配がした。
「やる気はあるようだな。設問1。
ランジェのランクについて答えろ」
「ランジェには1〜7までのランクがあります。ランクを上げるには、基本的に昇格試験を受ける事。それ以外にも実績を積み上げれば特別な認可が得られます。ランク6以上になるには認可でしかいけません」
頷きながらメリゼルナは手元の紙に文字を書き入れている。そして次の質問。
「設問2。巨獣と魔獣の違いについて」
「巨獣は国に大きな被害をもたらす超危険な生物。単独行動を好む。五獣という巨獣はそれぞれの大陸に住まう特別強い巨獣。そしてこの町の地下にも一匹封じ込められている。
魔獣は巨獣の近くで成された生態系によって生まれる。行動原理は生存と攻撃性。稀に友好的な魔獣も確認できる」
「このバルーナに沈められた五獣の事を説明してみろ」
「はい! ……あっ」
言葉の撤回すでに遅し。メリゼルナには警戒と、好奇の眼差しを向けられている。
五獣……それはレベル6以上の警備隊にしか詳細を知らされない。それを意気揚々と答えると宣言してしまった。
バルーナの五獣。まさに「シニスト」のラスボスである存在、巨獣の王の封印。
ゲーム本編では各地の巨獣が連動して暴れ出し、最終的に王が放たれてしまう。その進行を食い止め王を討伐してクリアとなる。
「ほう、巨獣の王を知っているんだな」
白々しい嘘を貫けるほど<うぬす>に嘘の才能はない。ここはブラフを挟もう。
薄暗い月光が部屋に差し込んでいた。
「はい……。俺の出身地には高位のランジェの人がいて、その人から少しだけですが聞かせてもらいました」
「そうか。そのランジェはどこに?」
「すでに、もう……」
完全な嘘ではない。ゲームの中の<うぬす>は高位のランジェ。そして死んだのも事実だ。ゲームの世界で何度も、現実の世界では1度だけ。
回答を聞いたメリゼルナは放ちかけていた圧を和らげた。
「そうかそうか! もし生きていたら厳格な処分を下してやろうかと。ここまでの情報漏洩は見過ごせないからな」
不穏な笑い方だ。それは嘘をついた<うぬす>にとって。王に関する詮索は終わった。
苦笑いを浮かべながら頭をかく。質問に続きがあるのは、メリゼルナの雰囲気からわかった。
「最後の設問だ。本来なら聞くべきことはもっと多いが、これ以上は不要だろう。どちらにせよ、問題があれば私がどうとでも出来る。
聞かせてもらおう、人と任務。どちらを優先するか」
知識だけでは切り抜けられない質問。
「人だ。その中には俺もいる」
考える前に言葉が溢れていた。それは本来の<うぬす>が持って生まれた人間性としての欠片の一つ。メリゼルナは手元の紙を机に置く。
「悪くない答え方だ。だが、任務で救われる人がいるのも忘れるな。私個人の考えだ、覚えなくても良いが言わせてくれ。
危機に陥った時、救いたい奴のことだけを正面から見ていろ。他の全てを捨ててもだ」
「わっ、わかりました!」
メリゼルナが金属製の板を手渡してくる。金属特有の冷たさと手触り。その光沢を眺めていると、裏面が彫られている。ローマ数字の1が刻まれていた。レベル1のランジェという証明。
やっぱり安心すると疲れが一気に出てくる。
「もしババロアの事で情報があったらいつでも教えてくれ。あと、ペンチの件は解決した。安心してこの町で過ごすが良い」
「はい……あ! ありがとうございます!」
忘れかけていた問題も解決でき、この部屋から出る事も許可された。
……ようやく試験に合格したんだ。キリエが椅子に座って待っててくれている。<うぬす>は合格の嬉しさを共有したいが、やけに眠い……。多分あれだ。
【アバターの疲労中度。機能の一部停止を実行します】
嫌な予想が大的中したが、最後に少しでもキリエに伝えよう。
「とりあえず俺も合格……。筆記試験が悪すぎて追試だった。……あっ、アナウ……」
アナウンスの声。強制的に眠らされてしまう。仕方がない実技試験の緊張、そして慣れない戦い。<うぬす>にとって限界だった。




