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第三十三話《震える剣:ハイル視点》

 ハイルの構えには一切のブレもない。覚悟は決まっている。対照的なのはユーファだった。悔しそうな表情のまま、自身の伸ばした剣先を見つめている。


「本当にやるか?」


 ユーファは答えない。剣による突きが回答だったから。空から舞い落ちる枯葉が、突きによる風圧だけで砕け散る。

 ハイルは松葉杖で受け流した。


「この程度なら防げるわけね」


 姿勢を立て直しながらユーファが呟く。ハイルの松葉杖は少しづつすり減っていた。決着は手早く決めないといけなさそうだ。それでも、折れている足は簡単に動いてはくれない。


「来いよユーファ。少ない記憶だけど、こんな程度じゃなかった気がする」


 ユーファは歯を食いしばる。ようやく全力で剣を握った。ハイルも集中を増し応答する。


 それは正しく鬼の戦い。二つの修羅がそれぞれの道の交点で争っていた。振り抜かれた松葉杖は離れた大木を両断する。木が枯れていたとしても、並々ならぬ凄さだ。

 ユーファも遅れを取っていない。その剣は美しさを極めている。舞いを見るが如く、しかし無駄がない。洗練された動きが優雅さに繋がっている。


 鉄製の剣と、木製の松葉杖がぶつかり合う。聞こえたのはなぜか、金属同士が当たった時に生み出される音。


 ユーファは正面から剣戟だけで攻め続けていた。しかし、決め手にあぐねている。まだまだ余力を残したハイルには手が届かない。

 ユーファは後退する。


「はぁはぁ。鍛錬を怠っていた訳ではないんだな。ならハイル! なぜ覚えていない!

思い出して欲しいだけなんだ! 私を! 私を……」


「許してくれとは言えねぇーけど、今の僕も僕だって認めて欲しい。その上で僕は過去を知りたい。

それはダメなのかな?」


 ハイルの質問を聞くまでもなく、ユーファは姿をくらませた。しかし彼女が臆し、逃げることはない。過去の薄れた記憶が教えてくれる。

 背面から問答無用で振り下ろされる剣。矜持を傷つけながらもユーファは剣術だけの戦い方を諦めた。


 しかし、その振り下ろしは異様に弱い。直前にハイルが投げかけた質問に起因する。


「うるさいうるさいうるさい!

私は8年間ずっと待ってた! ずっと休む事もなく鍛えてた! ハイル……あんたが忘れたら誰が認めてくれるの」


「誰だって認めてくれるさ。僕も今本気なんだ。

約束を、そして君を思い出せなくてごめん」


 剣は優雅さを失っていく。焦りと恐怖にまみれた剣筋に変わる。松葉杖を折るために一点だけを狙っていた攻撃が外れ続け、次第に腕を振る速度まで落ちてきていた。


 ベランと試験官は眺めている。


「試験官さん、止めなくていいのか?」


「……恥ずかしいが、俺なんかが止められる戦いの次元じゃない」


 二人はまた静かに、戦いの結末を待つ。一介の試験では済まされない戦い様。止められるランジェはバルーナの町全体でも少ない。


 ハイルが松葉杖を撫でる。消耗は確かに、そして酷いものだった。ユーファとハイルの心はまだ届き合えていない。


 力なくよろめきながらユーファは歩く。ハイルもユーファに向かって折れた足を引きずりながら近寄る。


「よく頑張った。ユーファ、また手合わせして欲しい」


 ほとんど握られていない、落ちかけたユーファの剣がハイルを貫いた。ハイルの肩から血が流れる。


「少し落ち着いた……か?」


 右手で頭を撫でながら、左手でユーファの背後に迫ったミミキキオオカミを叩き落としながらハイルは微笑んだ。

 激しい戦闘と、心に出来た不安がユーファから判断を奪っていた。辺りを確認する事なく、ただハイルだけを見つめていた。


「思い出したなんて言えないけど……。でも僕の為に本気になってくれてありがと」


 肩に剣が刺さったまま、ハイルは襲い来るミミキキオオカミの群れを片付けた。しかし限界は来る。

 ハイルは気絶した。

 捌ききれずに残ったミミキキオオカミは、ベランがスコップで強打し倒す。


 ユーファは地面にへたり込んだまま。安心した顔で眠るハイルに抱きついている。ぐしゃぐしゃに泣いて、ずっと泣き止まない。


 ベランは試験官にミミキキオオカミの討伐確認を取った。


「これで試験は合格でいいのか?」


「あっ、はい! とりあえず町に戻りましょうか」


「先に行ってて大丈夫っなんで。二人が魔獣に襲われないか確認してから戻ります」


「それじゃあ俺も残りますか」


 落ち着いたのは朝方になってからだった。ハイルが起き上がり、ユーファも涙が止まった。

 ハイルは泣き疲れたユーファを背負って歩こうとしたが、それはベランと試験官に制止された。


◇◇◇


 すでに2次試験は終わっている。3つまでのグループが合格範囲。グループ6は落ちてしまった。


「また来年受けるかぁ」


 ベランがスコップの汚れを拭きながら帰宅する。試験官も仕事が終わった達成感。それと、ハイル、ユーファ、ベランの実力を認め特別にランジェになれないか進言する書類の制作に向かう。


「無理なお願いをしてもいい?」


 ユーファが問う。


「聞いてからだな!」


「……私もハイルと一緒に強くなりたいの」


「それならいつでも手合わせするから安心しなって!」


「そうじゃなくて……いっしょに……。

ううん、また手合わせお願いね」


 ハイルはユーファと別れを告げた。自分に残された記憶。"あの日"を知る為にアルベルドを超える実力を手にする為に放浪する。

 一度、ランジェ拠点に入る。


「おかえり〜」

「ハイル遅いぞっ!!!」


 キリエとうぬすが待っていた。この時間が続けばいいのに。しかし、ハイルも停滞していられない。強くならなくては。


「すまねぇ! とりまサヤも連れて飯いくか!

次は全員に戦い方を教えてやるよ!」


 またご飯を食べに行くことにした。

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