第三十一話《不慣れな協力》
ボイラーは気絶したまま。それを囲い守るように3人は陣形を取っていた。メリゼルナの姿は見えない。どこか安全圏から戦いを確認しているのだろう。
断崖絶壁を背に構えた。背後からの奇襲を防ぐ為だ。リスクはあるが、ミミキキオオカミ特有の動きを少し抑えられる。
「ニックさん、ジルさん。ボイラーさんが起きるまで耐久できますか? 作戦があります」
「わかった! ……私は良いけど」
「構わないさ。君の考え方は幾分かマシだろうしね。それと一つ。ボイラーは一人で守る。周りに人がいると戦いに邪魔なんだ」
長い片刃剣を抜きながらニックは笑う。装飾はなく、質素な外観。大太刀とも呼べる代物。確かに、これでは周囲に人が居ればいるだけ戦いづらい。
<うぬす>はニックに耳打ちし、すぐに場所を変えた。
「ジルさん、俺たちは少し離れていましょう」
「わかりました! どこに向かうんですか?」
<うぬす>は森の中の開けた場所に視線を送った。
二人は走って場所に向かう。途中木の根に転びそうになるも、なんとか立て直した。
広場の中心に着くと二人は背中合わせになる。
ジルは短剣を、<うぬす>はリボルバーを抜く。戦闘態勢になった事に警戒をしたのか、ミミキキオオカミは姿を現さない。
「来ませんね?」
「油断しないでください! すぐに気づかれてしまいますから」
陣形を崩そうとしたジルを制止した。
ミミキキオオカミはと言うと、一人孤立しているニックに狙いを定めている。
空では雲が流れていた。ニックの表情がなくなっている。大太刀から放たれる圧がだんだんと増していた。
「来ないのかい?」
ミミキキオオカミが一匹走り出す。それを皮切りに四方八方へと散らばり出した。ニックはそれを深追いせず、淡々と構えたまま。
月明かりが隠され始めている。
「ニックさん! 作戦通りに!」
「そんなに物忘れが酷くはないよ。君も冷静にね」
無音。それを切り裂きながらミミキキオオカミがニックに爪を振り下ろす。大太刀の刃と、爪がぶつかり合い高音が響く。開戦の幕開けは告げられた。
激しい攻防が繰り広げられる。ミミキキオオカミは爪や牙を使った攻撃と、数的有利による奇襲。ニックは捌き続けているが体力的にも底はある。
しかし、ミミキキオオカミもニックもお互いダメージを与えてられていない。
ボイラーの腕が微妙にだが動いたように見えた。
「ジルさん、そろそろ作戦に」
「まずは誘導でしょ? うりゃ!」
石を投擲したジルは森の奥へと消えていく。その石は一匹のミミキキオオカミにぶつかる。一匹だけの注意を引く事に成功した。
ここから先は失敗を更に恐れるんだ。鳥肌が立ち<うぬす>の身体中に緊張が走る。言葉も丁寧さを失っていった。
「ニック! ボイラーを叩き起こしてくれ!」
ボイラーはニックに軽く蹴飛ばされた。その衝撃が丁度良かったのか、痛がる様子もなくボイラーは起き上がる。
「俺様は一体……?」
「説明は後だボイラー! とりあえずあんたは崖の近くで待機していてくれ!」
「誰が命令なんてしやが……」
「うるさい! 今は指示を聞け! そしてこの作戦はあんたに掛かってるんだ!」
言葉の圧と状況。そして自分の起こした事を理解したボイラーは指示を渋々受ける。
<うぬす>はリボルバーの照準を合わせる。その先にはジルが注意を引いているミミキキオオカミ。
トリガーに引っかけた指先が震えているのがわかる。……怖いんだ。外す事や銃の反動、そして痛み。
<うぬす>は自身の頬を全力で叩く。
「食らえぇぇぇ!」
リボルバーは見事命中。ここに<うぬす>の技量など介していない。神の気まぐれ、そう運が回ってきた。弾丸はミミキキオオカミの足を貫いている。
ジルが倒れたミミキキオオカミを持ち上げる。
「受け取ってーー!!」
それは遠くに待機するボイラーに投げ渡される。ミミキキオオカミは息をし、仲間を高い遠吠えで呼んでいる。作戦は成功だ。
「シニスト」においてミミキキオオカミは仲間を守る習性がある。それは現在のHPに参照され、低い仲間を守る。現実的に言い換えるなら、瀕死の仲間を必ず守りに来る。
「さぁ! こっから好きなだけ殴ってくれよ!」
崖側のボイラーが笑う。もう奇襲はされない。真正面から突っ込んでくるだけの的を叩き落とすだけのゲーム。
「ふっ、そういう事なら俺様が必要だよな!」
鬼神の如く、ボイラーの拳は伸び続ける。超高速で乱れ打ちされたメリケンサックは、ミミキキオオカミたちに引導を渡していった。
一匹、また一匹とどこかの内臓が潰されたミミキキオオカミが地面に転がる。
「最後だ!」
ボイラーはミミキキオオカミの首根っこを掴み、逃げられないようにした。そして渾身の一撃。
群れを倒し終わった。<うぬす>たちグループ3は安堵する。合計7体の討伐。文句は言われないだろう。
「ふん。俺様の実力がわかったか!」
「あぁ、力だけはね。チームのリーダーは君じゃなれないよ。おそらくは彼さ」
珍しいニックの賞賛は本人には届いていない様子だった。ボイラーは納得がいっていないのか、また喧嘩を始める。
<うぬす>はジルと話していた。今回の成功を祝いながら、彼女の事を気にかけながら。
「迷惑をかけなくて良かったです……」
不器用な笑い顔。みんなが嬉しそうだからと、貼り付けた物に見える。
「迷惑なんて1つもなかったですよ。だってボイラーもニックも。そしてジル。君だって欠けていたら勝てなかったかも知れない。ありがとう」
ジルの笑顔が一瞬だけ崩れていた。とても自然な笑顔に崩れていた。少しして戻ってしまったが、<うぬす>も何か嬉しくなっている。
またまたメリゼルナが急に現れる。
「よくやった。あとは素材の剥ぎ取りだ。専用のナイフを支給する。ここまでが試験だ。
心して取り組むよう」
この後も紆余曲折があった。細かい動きが苦手すぎるボイラーをニックがまた煽ったのが、一番大きな原因なのは、グループ3だけの思い出である。
警備隊拠点に戻ると、他のグループは居ない。一番乗りだ。
「うぬす、ニック、ボイラー、ジル。
この4名を実技2次試験合格とする。あと2グループが合格圏内だ。戻ってくるまでは拠点でくつろいでいてくれ」
拠点に入る時、メリゼルナから睨まれた気がした。再び肩に力が入ってしまう。
それでも一旦クリアだ。休もう。




