第二十九話《2次試験》
警備隊拠点には数人ほど先に人が来ていた。まだまだ日が昇るには早い。どんな試験が行われるのか見当もつかなかった。
ハイルたちはまだ来ていない。
「どんな試験なんだ……?」
「わかんねぇ。けど、少し不安だな」
「朝早くて嫌だわぁ」
あちこちから色々な声が上がる。人が続々と集まり出すが、やけに少人数だ。ハイルとキリエも既に来ていた。
真夜中で暗い。この場の空気だけが違う。熱された期待感が漂っている。
「ハイル〜、キリエ〜。こっちこっち!」
「おー、うぬす。早くから来てたのか?」
「時間がわかんなくてさ」
適当な話で夜を笑い飛ばす。キリエは別の方向を何度も見つめながら、深呼吸していた。
寝不足や疲れで凝り固まった体をほぐしながら、<うぬす>は問う。
「どうしたの?」
「……あいつは、ルーナン」
<うぬす>とハイルも、ふと視線を移した。そこには、あの女がいた。コロシアムと違って近くで見ると異様に小柄。その体格に似つかわしくない大剣を横掛けで背負っている。強い輝きを放つ銀髪と、対照的な夜闇に溶け込む黒い剣身。
「あいつすげーわ。僕が全力でも勝てるかわかんない」
ハイルの実力を知っている二人は、唾を飲み込んだ。一人は警戒し、一人はライバル視。しかし、立ち姿でわかるものなのか。<うぬす>には強者の凄みは理解できないらしい。
「なんで強いんだ?」
顔をぐっと前に出し、キリエが飛び出す様に質問した。自身がライバル視している相手が、全然格上だと考えたくはないだろう。
「ちゃんと説明できないけど、僕は自分と同格かそれ以上の奴はなんとなく判断できる。……あとはまぁ、筋肉量だな。小柄だけど詰まってる」
ハイルが指差したのは足だった。言いたいことが少し読み取れた気がする。サヤと戦った時のスピードに納得がいく物だった。
集まった者たちは、一斉に振り返ったまま固まる。
メリゼルナ含めて数人の警備隊が拠点から出てくる。その圧によって動けない。
「時間通りだ。ここで2次試験の参加を区切らせて貰う。次なる試験は魔獣との実戦だ。心して参加するように」
1次試験で大怪我を負った人たちは居ない、ハイルが超人すぎるのだろう。そもそも、なぜ彼は動けているのか。<うぬす>やキリエにも不思議な事。
当の本人は何も考えていない顔をしていた。
「今回の試験では武器を持って居ない者もいるだろう。武器支援の協力者として、バオックス商会に付いてもらった。紹介しよう、バオックス商会副会長のライ様だ」
「ご紹介にあずかりました、ライです。みなさんよろしくお願いします。武器は数種類ほど用意しておりますので、お好きな物を」
ライがにこやかに、商人の笑みを浮かべる。バオックスの町で見た表情とは違う。その笑顔は仕事人としての武器なんだろう。
並べられた武器たちは試験前、ライに試させてもらった武器種と全て同じ。<うぬす>は迷う事なくリボルバーを選んだ。
久しぶりに持ったリボルバーは、前ほど重く感じなかった。<うぬす>にも筋力が少しだけ付いてきている。それは本人が気づかないほど微々たる物。
ライと目が合うが話しかけなかった。
腕を組んだままメリゼルナがルールを話し始める。夜の空気を吹き飛ばす声だが、町を起こさない声量に抑えられていた。
「武器を持って居ない者はいないな。ルールを説明する。ここに集まった23名。それぞれ4名ほどで組み分けさせてもらった。そこに一人ランジェを同行させる。基本ランジェは関与しない。
そして合格条件は、ミミキキオオカミを5匹狩り、首を切り落として持ってこい。
難しい事ではない。だが、"油断"はお前たちを内側から殺す」
メリゼルナが語り終わると圧倒的なほどの威圧を放ちながら、後方に戻っていく。
少しだけだが<うぬす>はメリゼルナがずっと威圧感を出し続けている理由がわかった気がする。
大きな紙を持ったランジェの人たちが出てくる。紙が広げられると組み合わせが書いてあった。ハイルやキリエとは別々に分けられてしまっている。
「よろしくお願いします」
すでに<うぬす>以外のメンバーは集まって居た。グループ3は、<うぬす>、ニック、ジル、ボイラーの4名で構成されている。
そこにランジェとしてメリゼルナが入った。
「問題が起これば対処する。安心して試験にかかれ。目的地は南の森。すぐに出るぞ」
ニックはやはり飄々としている。ジルは借りた武器を眺めながら足が震えていた。ボイラーは……自信を覗かせた表情とメリケンサックを付けている。
◇◇◇
森に着くと昼間通った時とは違い、嫌な湿気と共に鬱蒼としている。
かくして、2次試験は始まった。




