第二十七話《飯時》
さんざん泣き終えたサヤは寝てしまう。
<うぬす>たち合格組は油断していられない、4時間後の2次試験に備える必要がある。
近くの料理屋に入った。
「らっしゃせー」
店員の気の抜けた声だ。緊張が解け腹の音が鳴る。数日の間<うぬす>はしっかりと飯を食べていなかった。理由はわからないが、それでも生きていたのは確か。
今までの反動のせいか、その音は店内によく響き渡っていた。
「僕たちも席に座るか」
「だな!」
「あそこの広い席にしよ! サヤをゆっくり寝かせてあげたいの」
顔を合わせて頷く。満場一致だ。
店の端っこの席、長椅子にサヤを横たわらせる。安心したのか、泣き顔は収まっていた。
「うぬす、どした?」
メニューが読めない。
しかし、今は頼れる人がいる。
「なぁハイルとキリエ。注文を任せていい?」
言葉に食い入るように手を挙げたのはキリエだった。ハイルは少し驚いて固まっている。
店内を見渡すと、肉料理の注文が多かった。鼻腔をくすぐる匂い。期待できそうだ。
「キリエのおすすめは〜これっす!」
「どんな料理?」
「うまいやつ! 肉とパン! キリエたちがこの町で初めて食べた料理!」
よくわからないが、そのまま注文した。この待ち時間がさらに期待値を押し上げる。<うぬす>たちよりも早く注文した人たちの料理が提供され、次はこちらかと考えている。
暇な事には変わりない。
「なぁなぁ。その足どうすんだよ?」
ハイルの折れた足を指差す。奥の荷物にまとめられた松葉杖と目があってしまう。<うぬす>は心配していた。
「大丈夫だな! 今の僕だとしても、うぬすとキリエじゃあ倒せないよ。協力してもね」
「本当に〜? 後で試すか、うぬす!」
そうこうしていると料理が運ばれて来た。これは期待以上だ……。いい焼き加減の肉が、パンに挟まれている。滴るソースが美しい。
間近で嗅ぐと、肉本来の強い旨みが鼻を伝って脳に届く。一口かじると世界が変わった。
焼いた肉の香ばしさの中に、生のような溢れる肉汁が詰まっている。ソースは見た目に反してあっさり。しかし、口当たりの強い肉とパンを最高に繋ぎ合わせている。
「うめぇ!」
「言ったでしょ! 確かバルーナの名物……」
「セジェールガルニだな。町で一番旨い肉料理の一つ。僕の得意料理でもある! どうだ!すごいだろ?」
最後の言葉がなければ完璧。ハイルの性格的に、自尊心がでしゃばってしまうのだろう。
この場合取る選択は一つ。<うぬす>とキリエで新しい会話を始めた。
「セジェールガルニなら何個でも食べれる!」
「1個で辞めといた方がいいんじゃない〜? この後試験だし!」
「おい、無視するな! ねぇこら! なぁ……」
楽しい晩御飯が終わる。試験まではあと2時間。
<うぬす>とハイルは先に会計を終わらせて店を出た。キリエは後から来る。
サヤの分のセジェールガルニを買っておくらしい。待つ事に不満はなし!
◇◇◇
歩き始めて満腹が収まり、キリエが言葉の調子を取り戻していた。
「……ハイル〜。さっきの言葉本当?」
「ん?」
「負けないって」
「あぁ。まじの本当」
危機を察知した<うぬす>は後方で観戦に徹すると決めた。本気の勝負じゃなくても、巻き込まれたら動けなくなる。本能が告げていた。
武器はもちろん無し。試験に響かない範囲。
サヤ&料理は<うぬす>に任される。夜の大通りにて戦いが始まった。
足の折れたハイルvs腹部が痛むキリエ。なぜ満身創痍なのに手合わせをするのだろうか。
<うぬす>達をよそに、試合が始まる。
「どこからでも来い!」
キリエが飛び上がる。右往左往と縦横無尽。動きの制限がかかったハイルに対して、死角を取り続けるのは合理的であった。
実際、ハイルは体で追うことを諦めた。
「ここぉ!」
完全に死角からの足攻撃。それを、振り向きもせずにいなされる。松葉杖だけが地面に倒れ、ハイルは片手しか上げていない。
キリエの足を掴み、放り投げる。
「威力は良い! けど隙が多いね。蹴りの時に体の力を使えてる部分は評価できるけど……」
「何様!?」
「僕様だ! 一発で終わりじゃないだろ?」
キリエの闘志に火がつけられてしまった。ハイルはまだまだ余裕を見せている。腕についた砂を払い、ゆっくりと振り向く。
落としていた松葉杖を拾い上げ、指揮棒のように振り回す。
「松葉杖使う?」
「武器はなくて良い。キリエはキリエの力で勝つ!」
深呼吸。そして拳を握り締める。キリエが目指すは正面突破の乱撃。しっかりと当たればハイルにも届きうる。数を打つのだ。
回し蹴りは避けられ、拳はいなされる。別々だと躱わされ続ける。ならば、攻撃の隙を攻撃で隠すのみ。連続攻撃。単純な戦術だが、高い身体能力とセンスによって成立している。
「うりゃ! うりゃ!」
ハイルが押されている。脇腹の部分のガードが甘すぎる。狙われるに決まっている……決まって。
キリエは無比な精度で狙った。
しかし当たらない。
「捕まっちゃったね〜。惜しい!」
ハイルの誘い込み。脇腹目掛けたストレートに対し、足を引っ掛けていた。踏み込みのまま倒れそうになるキリエは完全にホールドされていた。
ハイルの圧勝だった。ここまで強いのかと、<うぬす>は思う。そして戦わない選択は正解だったとも。
「うぬすもやるか?」
「俺は……辞めておくよ」
ホールドの固めの強さに、キリエが気絶しかけている。ハイルは話しながらこんな芸当をしているのだ。その後、みんな別れて2次試験の準備に取り掛かる。
◇◇◇
路頭に迷うしかない<うぬす>は、ふらふらと歩いていた。宿を取るにも数時間だけだ。勿体無い。
「おーい! うぬすだろーー?」
暗くて良く見えない。街灯の灯りの下で<うぬす>は目を細めていた。




