第二十二話《ハイルの因縁》
第八試合は疑心暗鬼のまま始まった。それは、ななしと<うぬす>が作ってしまった前例による。試合内容の選定。このルール自体に意味はない。
全員が気付き始めていた。
この戦いは結局、"負け"さえ言わせればいいのだから。
しかし、だからと言って手段にバリエーションが富んでいくのは難しい。最後は殴り合いになる。
「第八試合勝者、ルイスマン!」
誰かが勝った。特に試合自体に興味はなく、その事実が実況によって聞かせる。
喧嘩の強さ。これもまた真理。
もしもの話。<うぬす>の初戦の相手が名無しだったら、会場を利用する前に勝負は喫している。強さは正義。その上で弱者は反撃を策する。
第九・第十試合も同様に。疑心暗鬼と殴り合い。
しかし、その硬直が動いたのは第十試合だった。
「俺は剣を使うぞ……!」
そう宣言していた男と、武器を持っていなかった男。可哀想な結果だ。適当に振られた剣が当たっていた。
武器なしの男は、致命傷には至らない袈裟斬りを喰らい、絶叫する。
「負けだ……!負けだ! 許してくれ…………」
急いで待機していた警備隊に連れ出さていた。治療さえ受けれれば助かりそうだが、心に切り傷が刻まれたのだろう。
「行ってくるわ、僕の試合次だし」
ハイルが聞こえる様に、少し大きな声で言った。緊張感が垣間見れる。それもそうだ、死を感じる試合内容だった。その第十試合の後。
ハイルの出番だ。
「負けんなよ」
「たりめーよ! 僕が負けるとでも?」
心配そうに<うぬす>は、初めての同年代の友人を送った。勝ってくれ、身勝手に願うしか出来ない。だが、ハイルが負ける想像はなかった。
自信と言うのは一朝一夕では身につかない。立ち振る舞いのアホさ加減に似つかわしくない、それを持っているからだ。
「第十一試合 ハイルvsオルドシ開始!」
ハイルの集中しているところを初めて見た。無音だ。その姿に、サヤもキリエも驚愕している。<うぬす>はこっそりと、サヤたちの席の近くに向かった。
「二人ともお疲れ様〜……あはは、」
「うぬすか? 中々酷い試合だったなー、お疲れ様だよーう」
キリエの適当な返事に癒される。サヤも侮蔑や軽蔑をする事なく、近くにいることを許していた。ハイルの相手は……フードを深くかぶっていてわからない。腰の曲がり方や、顔の部分に皺が観察でき、おそらくは老人だろう。
しかし、なんだろう違和感がある。
「それじゃあ、対戦よろしく」
棒立ちで、握手を求めたのはハイルだった。その余裕の振る舞い。しかし、相手もだ。
「えぇ、もちろん」
ハイルとオルドシの握手。……違和感の正体はこれだった。<うぬす>は気づいてしまう、その手に。
「サヤさん。ハイルの相手、手が妙に若くないですか?」
「……確かに、私も何か変だと思ってたの。顔あたりの皮膚はシワシワなのに」
「本当じゃん! キリエあんな人初めて!」
違和感を感じた人たちが盛り上がり始めた時。会場に砂埃が舞い、二人の姿が隠れる。ハイルは警戒態勢で立ったまま。
これはオルドシの仕業である。
「くくく、はっははぁぁーーーーーーー!」
オルドシが妙に甲高い笑い声を上げた。老人の出すそれではない。男声なのに、女性よりもはるかに高音。それが数十秒続き、最後に掠れていく。
まだ、ハイルは姿勢を崩さない。
オルドシは砂埃を剣で切り裂く。姿が見えた時、誰もが恐怖した。
まさにお面。被り物。老人の皺が首あたりでめっきり無くなっている。それ以降はずっとツヤのある、若い皮膚。
おもむろに手を振り上げたオルドシが、自身の顔を鷲掴みにした。そして捲り上げる。べっとりと張り付いた、老人の皮が剥がされ、血のような赤黒い何かが垂れている。
オルドシ?はそれを拭き取った。
「やぁ、久しぶりだねハイル」
「まさか……、アルベルドォォォォ!!!!!」
みたこともない怒りの表情。ハイルからは考えられないほどの咆哮。憎悪や憤怒、殺意すら<うぬす>でもありありと読み取れてしまった。
サヤとキリエは何か難しそうな表情を浮かべている。
「あの男を二人は知ってるんですか?」
「知ってるって言うか、この町に向かう馬車で聞いた話なんだけど……」




