第二十一話《初めての戦い》
「第七試合 シーシvsうぬす。開始!」
盛り上がり方がすごい。多分、これまで戦って来た人たちも浴びていた物だ。ルールの設定が上手くいくかが勝利に直結する。
「先に試合内容を決めておきましょう。まず前述の通り嘘はなし。そして武器は使わない。嘘をついた方はこの勝負を負けたと認める。こんな所でどうですか?」
「わっ、わかりました」
了承は得た。肺を大きく膨らませ、<うぬす>は横隔膜を緊張させる。観客たちも変わり始めた空気に静まり返った。
嵐でも巻き起こしてやろうじゃないか。
「勝負で嘘はなし! 武器もなし!
条件はこれで決めさせて貰う。了承も得た!!!
盛り上がっていけよぉぉぉぉ!!!!」
観客たちの感情爆発。野太い歓声。彼らの心にある闘争心に火がついた。本来、どんな生物にもある戦いの本能。社会や羞恥に抑え込まれたそれを、一言で<うぬす>は解き放させた。
「あぁ……うぅぅ、」
シーシは異様なほど盛り上がりを見せる雰囲気に呑まれ始めていた。間髪入れずに、作戦を継続させる。
「観客のみなさーん! このヒョロが勝てると思いますか〜??」
プロレスだ。とにかく全てを煽り続けろ。冷静な判断を奪え。奪って、騙して、生き残る。勝ち筋はただ一つ。
茶番自体<うぬす>は苦手。しかし、アドレナリンが後退を許さない。ゲーマーのプライドと言い換えられる。
「馬鹿かお前ー!」
観客の気分が乗って来た。始まりのヤジが、大きな言葉の波を寄せ始める。好機……。まさしく狙い通り。
「女に負けんじゃねーぞ! 男だろー!」
「ねぇちゃんもあんなのに負けんなー!」
「どっちもヒョロヒョロじゃねーーか!」
「皆んな、わかったわかった。ありがとう!
この"勝負"ぅ〜、負けちゃうかも!」
道化師だ。馬鹿にされるが、それで良し。
かっこよさもロマンもない。あのハイルですら、<うぬす>の姿に引いていた。そして惹かれていた。これぞ余興。圧倒的なショー。
シーシは崩れた笑みと涙を浮かべていた。
「シーシさん、よろしくお願いします」
左手を差し出した。とても紳士的なピエロ。シーシは固まってしまって動けない。
ランウェイの様に歩く<うぬす>は笑い者。敵意を隠す事。本来、戦いを経験しないと得られない技術。粗をこの会場が隠したのだ。
くるくると回って、舞う。シーシの後ろ側にピッタリと。
「負けと言え……!」
右手で強く握られているナイフ。もちろん、勝負には負けだ。<うぬす>の敗北。それは観客も理解している。条件を宣誓したのは自身だ。
試合が終わった訳ではない。
まだ"負け"と言っても、言わせてもない。
「うっ、うぬすさん? 武器の使用は……?」
「勝負の負けは認めるよ。だけど試合はまだだ」
熱気が奪われていく。くだらない幕引きに。手に握られたナイフは、シーシが試合前に落としていた物。武器すら相手からの奪い物。
強欲な弱者。この会場の全てを強奪してしまった。それは期待と信用すら。
「ずりぃぞ!!」
「クソ野郎!」
「死ね!!!」
無視を貫く<うぬす>は、淡々とシーシに告げる。
「負けと言えば刺さない」
シーシの首元で輝くそれは、<うぬす>の汚い勝利を写していた。それでも、勝ちまで一歩。退がるなんてあり得ない。一生に一度のチャンス。
「言ってくれ!! 頼む!!!」
「うっ、うぅぅ。負けましたぁ……。あぅうぅっ」
勝者に浴びせられる資産にしては残酷。事実、残当である。大号泣を背に、<うぬす>はスポットライトの真ん中から去った。
「ええと、……第七試合勝者、うぬす!」
◇◇◇
観客席についた。……しかし、これは心が痛む。
「流石にあれは……まぁ、良くやったよ」
ハイルに本格的に避けられるとキツい。普段おちゃらけている奴が、ふざけないレベルだ。<うぬす>も後悔はしたが、時間を戻したいとは思わない。
勝利したいなら、持てる限りを捧げろ。
それは信念ではなく、執念に近い。
「……ありがとう。でも、俺は絶対に勝たないと行けなかったんだ。ハイルも試合頑張れよ」
「僕の負けはあり得ないから、安心しとけって。これはマジな?」
この3つ次の試合がハイルの出番だ。
軽蔑の視線を受けるのは自分だけにしないとな。<うぬす>は急いで立ち上がる。
「ハイル、一発殴ってみてくれ」
「なんでだ? あ……あぁ、わかった」
腹部の安全な場所に一撃。それなりに重い。どっしりとした痛みが内部で響いている。
他の奴らが殴りに来たら一溜りもないので、一応ハイルの視界の中で座った。もし何かがあれば止めてくれるだろう。
不安をよそに、次の試合が始まった。
<うぬす>の想像よりも、みんなは他に構っている暇はなさそうだ。警戒すべきはシーシだけだろう。
第八試合が開始されていた。




