第二十話《コロシアム》
第二試合はボクシングの様だった。ルールは前の試合と同じ。ただ今回はお互いの実力が同程度だったのか、長い殴り合いになっていた。
最初のニックの様な戦い方は他に居ない。皆、自身の肉体にだけ興味がありそうだ。力任せに殴るだけの余興だ。
次の試合のコールが始まる。
「第三試合 フィングvs……えーと名前が非公開!? ななし?の試合。開始!」
ななし。その異様な光景に観客全員が固まった。警備隊拠点で資料を作らないと、そもそも出場資格すら得られない。
なのにだ、どうやって名前を明かさないまま参加したのか。甚だ疑問である。
「名無しでどうやって参加を? って顔してるなうぬす。僕の予想を教えてやるぜ!」
「ハイルか。……それは気になる」
「簡単な事よ。ランジェの上層と繋がりがあるんだろうよ。ま、これで負けたら……って思うけどな」
そうだ、そうだった。ここはゲーム「シニスト」ではない。繋がりやコネがある生きた世界。人脈か……。深い思案中、その沼に<うぬす>がハマる直前だった。
「負けを言え」
名無しが、対戦相手のフィングの首を掴んでいる。まだ対戦条件すら定めていない。
いや……その認識を改めるべきだった。メリゼルナは形式は自分たちで決めて良いと言うが、しかし勝利条件は"負け"を言わせることだけ。
そこに手段は問われていない。
「まっ…負けだ。くそっ」
フィングはあっけなく認めた。
外野からのブーイングが名無しにぶつけられる。それは群れた弱者の遠吠えだ。初めからルールだけに拘るしかない、自分を含めた弱者だからこそ、これに不満を垂らすしかない。
<うぬす>は思う。性格の悪い試験だと。
<うぬす>の視界がぐらついて来た。とうとう、限界が間近となっている。
「一つ頼んでもいいか?」
「どしたんだ、うぬす?」
「少し仮眠を取りたい。第五試合の時に起こして欲しいんだけど」
ハイルは満天の笑みで了承した。人を信じきるのはよろしくない。だけど、こいつは信用できる。うざいが悪意が一切感じられない。
<うぬす>はハイルを信用していた。
【身体の機能を停止しますか? YES/NO】
YES。一度休ませてもらおう。
<うぬす>はハイルに肩を預けて眠ってしまった。身体の機能を停止すれば、雑音はすぐに聞こえなくなる。意識は睡魔に消えた。
◇◇◇
「おーい、起きろー」
頬を軽く叩かれている。ハイルの声だ。
【身体を完全に起動しますか? YES/NO】
YES。アナウンス睡眠って優秀だ。一瞬で眠れて、起きる時はスパッとする。限界まで試合は観戦していたいので、すぐに目を開けた。
「起こしてくれてありがとう。今は何試合目?」
「ちょうど六試合目の始まりって所だな! 中々起きないお前が悪いんだぞ。とっとこ降りて試合の準備してきな!」
背中を結構強く叩かれた。
勇気は確かにもらえる。こいつがいる高校に通えてたら、自分も真っ当に学生生活が送れたかも。<うぬす>はそう思った。
観覧席から立ち上がり、どんどん歩き進める。
また階段。さっきより急で、少し転びそうになる。降ると、そこには選手待合室があった。
「あっ…次の試合よろしくね……」
後ろで手を組んで、待ち合わせ場所の彼女みたいに待つ女がいる。シーシだ。武器は持っているのだろうか……?
この時点で<うぬす>の試合は始まっている。
「次の試合のルールを先に決めておかないですか?」
「あっ……そ、それ、いいですね。えへ」
これなら押し切れる。まず、こちらが優位だと薄ら思わせるのが一番だ。拒絶されるのはダメだ。相手からいかに情報を出させつつ、こちらが勝てそうな条件を飲ませるか。その下地作り。
「武器はどうします?」
「えっあえ、武器……ですか?」
「はい。お互いこの先の試合もあるので大怪我は避けたいですね」
第二試合のボクシングを見て確信した。トーナメント形式であるのに、最初から全力を果たせば、コンディションは落ちていくばかり。
最初は穏便に済ませるのがベスト。
それかニックの様な戦い方が出来るなら、それもいい選択だ。
「お互い武器はなしにしましょう! ね?」
「はい、わかりました……」
シーシは手の後ろで握っていたナイフを落とした。危ない、この条件を押し切らなければ命に関する。それは避けなければ。
「入場の後、二人で宣言しましょう。嘘をついたらその時点で負けだと。これなら公平ですから」
シーシはこくこくと頷いた。
会場の中から、第六試合の終わりを告げる実況が聞こえて来る。ここで勝たなくては。
戦い終わった入隊希望者が出てくる。一人は泣いていて、その隣で雑巾の様に倒れている。
あいつのは嬉し泣きなんだろうな。
「先に入ってってください。靴がずれてしまって」
「あっ、はい……」
シーシの少し後に、コロシアムの砂場に出る。
実際にスポットが当たると、人の多さに驚く。その視線全てが<うぬす>とシーシの二人で独占していた。緊張が……。
「おーい! うぬす! 負けんなよ!」
背面側から応援が来た。ハイルだ。普通に嬉しい。手を振りかえす。
「負けるなよー!! キリエも応援してやるんだからさっ!」
女子から、そうキリエとサヤからの応援。めっちゃ嬉しい。恥ずかしくて反応できないが、心の底でガッツポーズ。
試合開始のコールが始まる。
「それでは第七試合、シーシvsうぬす。開始!」




