↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/44

第十九話《実技》

 深々と頭を下げて願う。その姿は宗教の敬虔な信徒に見える。しかし、<うぬす>は無宗教だ。改めて思い知らされるが、人間は縋っていないと落ち着けないんだ。

 そう、現世では「シニスト」だけが居場所だと思っていた。だけれども、祈るしかない。無力だからだ。


 集められた入隊希望者。

 警備隊(ランジェ)拠点の入り口の扉が開かれる。それは出口とも取れた。

 メリゼルナが急に現れる。そして、大声で語る。


「次の試験は実技である。例年通りならば現職の者が相手だ……。しかし今年は私の裁量でやらせてもらおう」


 軽々と、それが空気かの様にメリゼルナは大きな箱を掲げる。嫌な笑いを浮かべた。


「命の保証を私はしない。残る奴は残れ。去る者は今のうちだ」


 臆病なやつらが数名逃げた。とても恥ずかしそうに、肩をすぼめながら。<うぬす>に引き下がる選択肢は取れない。

 あの3人も残っていた。


「試験内容は希望者のトーナメント。試合内容は問わない。ただ、決められた相手に勝てば良い。"負け"を言わせるだけ。簡単な試験だ!」


 その祈り手は解かれた。いとも容易く。

 トーナメントの相手はくじ引きで決まる。ここが最後の望みだ。


 順番が来て、箱の中に腕を入れる。<うぬす>たち入隊希望者は中の紙を弄(まさぐ)った。少しでも自分に有利があると願って。


 ハイルとサヤたちとは戦いたくない。紛れもない本心である。

 書かれた番号は7だ。

 それなりに上の番号になってしまうらしい。一息つく暇すら与えて貰えないのか。

 <うぬす>の体は刻一刻と限界に近づいている。


「君……? 相手になってくれるのは」


 振り向くとメガネの女が居た。その印象はどこか偏屈そうだと思う。長く、手入れの行き届き終わっていない髪。曇っているメガネ。

 幸運なのは、外見は<うぬす>と変わらないほど貧弱。しかし、世の中はわからない。警戒に越したことはない。


「私……この試験初めてで、へへっ。あっ、名前はシーシです」


「よろしくお願いします」


 言葉と対応に<うぬす>は困る。


 割り振りが終わったらしい。

 それにしても、やりにくい人だ。距離感というか、今から戦う相手に対して馴れ馴れしい。

 変な感じに<うぬす>は戸惑い、緊張が悪い方向で緩んできてしまう。


◇◇◇


 全員が番号を書かれた紙を握っている。


「くじ引きは終わったな。着いてこい」


 メリゼルナが先導し、警備隊(ランジェ)拠点の地下へと階段を下っていく。薄暗く、石の冷たさを鮮明に感じる様になってきた頃。

 先の曲がり角から明かりが漏れていた。


「ここが試験会場だ。自分の番号が来るまではゆっくり座っていな」


 まるでコロシアムだ。石造の壮大な装飾に、真ん中には砂だけが照らされた円形の舞台。その舞台を囲うように大量の椅子が並べられている。

 大量に吊り下げられた明かりが、本来は暗いはずの地下を満遍なく照らしている。発光により生まれる熱で、少し暖かい。


「普段はランジェ同士の模擬戦。または余興に使われる。中々入れる機会はない。とくと楽しめ」


 豪快な笑い声をあげて去っていくメリゼルナからは、圧を感じた。<うぬす>以外のほとんどの入隊希望者も同じく。

 それで決意が揺らぐ者たちは居ない。軟弱者は上階にて去ったから。ここからが本番だ。何を残して、どう見られるか。


 勝負の内容は相手と自分で決められる。ここがポイントだろう。考え続けろ、<うぬす>。


「両者位置に着いて、

第一試合 開始!!!」


 早速、第一試合が始まっていた。

 一旦試合に集中しよう。何かわかるかも知れない。<うぬす>は試合に釘付けになった。

 袖のない服の筋肉質な男と、飄々とした細身の男の戦い。火蓋を切ったのは筋肉質の方。


「この試合は殴り合って負けた方が負け、それでいいよな」


「良いとも。その形式でやろう」


 筋肉質が地面を踏み込む。その勢いのまま殴りかかった。この試合なら目で追えそうだ。<うぬす>の集中力も高まる。

 飄々は避けだけで反撃に出ない。


「おらっ!おらっ! 攻撃しねぇと勝てねぇぞ!」


「そうかい……じきに分かるさ」


 攻撃が止むところを知らない筋肉質の男。殴り、蹴り、そして回避の隙をついたアッパー。


 それさえ当たらない。何故か当たらないっ。試合の内容は捉えているはずなのに理解ができない。頭を掻きながらも<うぬす>は予想する。

 飄々は、スタミナ切れを狙っていると。


「攻撃をやめてしまうんですか?」


「ハァハァ。くそっ! この野郎!」


 どんどん勝つ可能性を、自ら失っていく筋肉質。動きに無駄が増えている。一度引くべき、最後の機会が今であった。


「そろそろですね。お望み通り反撃に出るとしますよ」


 筋肉質が休もうとするタイミングで、飄々が攻撃を仕掛ける。対応し、疲弊。それが繰り返され続けていた。

 筋肉質が地面に倒れ込む。

 飄々はその頭上に足を運ぶ。


「負け、と言えばこれ以上の攻撃はしませんが、どうしますか?」


「……参った、俺の負けだ」


 第一試合終了。なんとも恐ろしい試合だった。<うぬす>の観察によってわかった事がある。

 飄々は半端ない目をもっていた。筋肉質の攻撃の後、わざと隙を作って誘発させる。そう見えて仕方がない。


「第一試合勝者、ニック・ナンペレー!!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。