第十八話《筆記》
受付の人に、木製の参加証を渡す。その後どこかの部屋に案内された。先に行った人たち全員は見当たらず、奥の部屋に10人ぐらいのまとまりで呼び出されている。
「よぉ〜うすぬ。また会ったな。それにサヤとキリエも!!! 今度こそ僕の話に惚れちゃっても良いんだぞ?」
「俺から言わせてもらうけど、世界最後の人類がハイルだけになったとしても、それはない」
二人ともが<うぬす>の言葉に頷いた。ハイルのトークマシンガンは止まらない。弾切れはなさそうだ。しかし命中率が0だから意味はなかった。
「おいおい!おかしーだろ! 世界最後だぜ?最後?本当に良いのか?」
「そろそろ私たちだよ。気を引き締めてこ」
「うん!」
すまないがハイル、この空気はどうにも出来ない。それでも<うぬす>の震えていた足は、ハイルの軽い一言が止めてくれた。
ありがとう。
サヤとキリエ、手を繋いだ二人。強く握りしめていたのはサヤの方に見えた。皆んな緊張しているんだ。ハイルだって……。
「おっしゃぁ! 僕の実力見せてやるからな!」
そんな事はなかった。
待つ事数十分。部屋からどんどんと人が減っていく。そして<うぬす>たちの名がようやく呼ばれた。
奥の扉が開く。
「それでは中に」
「はいはーい! 僕、一番乗り!」
良い加減黙れ。<うぬす>は知り合いだとは思われたくなかった。その為、また距離を空ける。ゆっくり、じりじりと。
全く音すら立てずに下がったはずだった。
「おいおい、うぬす。なーに下がってビビってんだ? お? お?」
ビビってはない。自分自身と、サヤ、キリエの3人を除いた6人から、異様な眼差しを受けた。
この先に何が待ち受けるのか。
「シニスト」のゲームでは、ランジェになった後から始まる。設定資料集の中に試験の設定を一見したぐらいの知識。
全くもって<うぬす>にもわからない。
一番恐るべきは、死があるかないか。唾を重く飲み込む。扉の先に踏み込んだ。
「紙とペン……?」
そこは学校のテスト時とほぼ同じ光景だった。均一に分けられたスペースに、問題がある。制限時間内で正確性を競うゲーム。ゲームにしては苦痛な物だけれど。
ペーパーテスト。響きは良いが、大きな問題点がある。
「うぬす! 点数で勝負すっか?」
「も……」
「も?」
「文字が書けないっ……」
謎の力によって聞き取りと会話は可能。しかし読み書きについては不可能と、前確かめていた。
慌ただしい日々が<うぬす>に本来必要だった思考の時間を奪ってしまう。それが敗因。
この先の結末は語るまでもない。
◇◇◇
「まぁ元気だせって。次の実技で高得点が取れれば入隊は出来るらしいからよ!」
休憩室では皆んなやり切ったという顔。部屋のどこかからか、キリエたちの歓声も聞こえた。
その中に一つ、後悔と絶望、世界の本来あるべき厳しさに打ちのめされた者。<うぬす>である。
「ありがと。ハイル……思ってたより良い奴だなぁ」
「思ってたよりって、余計だわ!」
ここで喚いても結果は変わらない。次にどうすべきか、それだけである。唯一重要な事。もっと考察すべき事象なのだ。
焦りを殺し、唇を軽く噛む。
「なぁハイル。実技って何をやるんだ?」
「例年通りなら〜現職のランジェとの手合わせだな! 武器は人を殺さないように細工されているから大丈夫だぞ! 例年通りなら……」
最後の一言が心配になる。それでも今やるしかないんだ。……本当に今なのか?
「もう一つ質問!」
「どうぞ!」
「入隊試験ってどのぐらいの頻度でやっているんだ?」
「年一だな! そんなに何回もやれる訳じゃないらしいぜ。僕は今年で受かって終わりにするつもり」
年一か……。この世界に居続けるつもりは<うぬす>にない。情報を集めて、早く帰る。それだけだ。生活するには命が足りな過ぎる。現代日本がいかに優れた国か思い知らされる毎日。
思い出せなくなっているカップラーメンの味。
目を瞑る。久しぶり聞こうじゃないか。
クエスト表示!
【進行中のクエストを表示します】
《メインストーリー 帰還》
【クリア条件 この世界の攻略
報酬 現実世界への帰還】
変わらないクエストに嫌気がさす。残された手がかりはこれだけ。ずっと前から確かめていた。
それなのに、世界を知るたびに目標がどんどんと遠ざかる。手の伸ばし方すら教えられないまま、彷徨うしかないのか。
違う。だから調べ、考えるんだ。
「おいっ、大丈夫かよ?」
「………。……………あぁ! ごめん」
とりあえず実技は受けてみよう。それが最善策だと考えられる。実際試す事でしか得られない情報が沢山ある。この世界はそれも教えてくれた。
例年通りの試験だと願っておこう。手を組みながら<うぬす>は、存在が不確かな神に祈った。




