第十七話《試験日》
昨日は眠れなかった。それに、警戒しろと言われても、<うぬす>に出来ることは少ない。当面は普通に生活をしていれば大丈夫かと思う。
それにしても、メリゼルナに気をつけろか。もし、本格的に対立してしまった時はどうしようもない。<うぬす>の胃にストレスがまた増えた。
あの受付嬢じゃなく、壮年の男の人が立っていた。とても誠実にチェックアウトを済ませてもらえた、最高の朝だ。
「今後ともよろしくお願いします」
チェックアウト時の決まり文句すら、清々しい。朝日を浴び始めると、あくびと共に眠気が引いていった。今日はようやく試験だ。
緊張を胸に<うぬす>は宿屋を後にした。しかし、特に行く場所もない。とりあえず警備隊拠点に向かう。まだ開いていないと思うけど。
◇◇◇
「まーじか」
くだらない言葉が漏れてしまう、ありえないほど人の渦。それぞれに共通している点があった。
木製の参加証。皆、警備隊になる為に集まった野郎共。熱気で酔い、ふらついてしまう<うぬす>は、近くの小道に逃げた。
人いなくて一安心。……じゃない。
男女合わせて3人。黒髪ロングの華奢な女と、その知り合いに見える短い茶髪の女。茶髪の方からはエネルギッシュな何かを感じる。二人とも、この世界では珍しい格好をしていた。日本でいう和服に近い。
そして男。この世界に居る変人に目が慣れてしまったせいで、普通すぎだ。語ることもない。強いて言えば、街で3度は見かける顔だ。
持ち物から、この人たちも入隊志望だとわかった。
「そこの今入ってきたやつ。熱気に押されて逃げてきたんだろ? 大丈夫、みんな同じだからな」
普通の男がグッドサインをしながら、後ろの女子二人にカッコつけている。効果はイマイチのようだ。
<うぬす>は危機感からか、数メートル間を作って話す事にする。
「あの熱気は凄いですよね。やっぱり皆さんも試験に?」
「僕はもちろん試験! ちなみに……そちらの美しいお嬢さん方は?
………」
可哀想な虚無の時間。普通の男が耐え切れずに涙を目に浮かべている。<うぬす>はとりあえず自己紹介する事にした。
この空気が続くのは流石に辛いとの判断の上だ。
「俺の名前は<うぬす>。16歳で、ここの町は初めて」
3人ともに反応がある。これは大成功だった。会話の切り口としては、どこまでも平凡。しかしながら、最適解。
心の中でガッツポーズをしてしまう。
「僕はハイル。……よろしく」
普通の男、もといハイルの元気は見違えて無くなっていた。特徴がないのが、やはり特徴的。薄い黄緑の髪。派手さもないのは少し退屈だ。
「私たちも自己紹介しましょ。私はサヤ。隣にいるのがキリエよ。私たちもこの町は初めてなの」
「はいはーい! キリエ、はるか北の地から堂々登場です! ちなみにどっちも16ねー」
「僕もお嬢さん方と同じく……」
ハイルの後は無音。ほぼテンプレになってきた。
サヤとキリエ。どちらも覚えやすい特徴がある。服装もそうだけど、言動がそのまま見た目を形作っている様な。
ハイルは行動と顔のギャップがすごい。これはこれで<うぬす>にとって覚えやすい。
「ハイルさん」
「ハイルで良いよ。どした?」
この世界に来てから敬語拒否が3人目。ライ、ゼリ、ハイル。この世界の人は、そんなにタメ口が好きなんだろうか。
相手に合わせるに越した事はない。<うぬす>は環境への適応能力が上がりまくっていた。
「なぁハイル。警備隊に何でなりたいんだ?」
「僕は……巨獣を倒したい!
そしてモテたい!!!!!!!」
ダメだこりゃ。聞く相手を間違えてしまった。
「サヤさん達は?」
「無視するなよ! 僕を! ほら!」
「私たちは故郷を守る為にランジェになりたいの。今、北の方では魔獣が増えてて……」
「巨獣が現れるんじゃないかってね! あってるでしょサヤ?」
北の地……か。ミーイの忠告通りだった。黎明国の方面は魔獣の動きが活発になっている。
かくいう<うぬす>も黎明国に向かい、日本の情報を得る為に警備隊を目指している。二人とは協力できそうだ。
「ちゃんと話すから! 僕の話も聞いてくれよぉ」
「しゃーねーなー。一回だけだぞ」
「ぅぅぅしゃぁ! じゃあ話すから! お嬢さ……二人も聞いててくれよ」
長い。要約するとこうだ。
ハイルの一族はみんな警備隊を輩出している。そこで、お前も受けろと無理やりらしい。それを満更でもない顔で語っていた。
「それと、ランジェを目指すなら皆んな知ってるとは思うけどよ。魔獣の事について僕が教えてやらん事もないんだけど〜、どうしちゃう?」
「これだけはキリエも気になる! サヤも聞こうよ!」
「えぇー? こいつの話をまともに聞くの?」
ハイルが拗ねてしまった。薄っぺらい同情を<うぬす>はかけている。理由は単純。ゲーム「シニスト」での魔獣、巨獣の認識と合致するか確かめたかったからだ。
ハイルの背中を嫌々さすった。
「ぐすん…。うぬす、良い奴だなぁ。……お礼に話してあげるよ」
うんうん。そう頷いた。
<うぬす>とキリエは言葉に集中する。
「まずは魔獣。これは大抵どこにでもいる。種類も多いから細かい説明は割愛しちゃうな!
そして一番気になってるはずの巨獣。それは……」
「キリエ知ってる! 人類に自然災害と同等の被害をもたらす奴ら! みたいなの!」
「そう! おおむね合ってるぜ! だけど害だけじゃなくて益もある。巨獣からしか取れない特別な鉱物があったりなど。一枚岩の存在じゃないって訳」
大体の認識はできた。「シニスト」と同じだ。実物を見る前に断定するのは良くない。しかし、実物が現れたときには<うぬす>はお陀仏まっしぐら。
見聞の"聞く"だけでも今は大きい。
ハイルは上手く扱えば優秀なのかも知れないと<うぬす>は思った。
警備隊拠点の扉が開き、大声一つ。
「みなさーん! 試験の受付始めますよー!」
<うぬす>、ハイル、サヤ、キリエは一斉に立ち上がる。これからはライバルだ。




