第一話《生還せよ》
【……起動中。仮アバターの生成完了。バイタル正常。これより転送を開始する。】
音が聞こえる。抑揚のある機械音だ。しかし感情は感じられない。ゲーム開始時のアナウンスという所が妥当だろう。
そもそも俺はどうなったのか。ベットの上でVRをしていたはずだが、この場所の材質は石と木材の中間のような硬さである。
頭をべたべたと触っても、VRはどこにもない。そして不思議な事に起き上がれないのだ。
【身体を完全に起動しますか? YES/NO】
また謎のアナウンス。聞き覚えがある。毎日聞いている声。「シニスト」のナレーションか? わけもわからないまま、従う。
YES。
《メインストーリー 帰還 を開始》
【報酬 現実世界への帰還】
視界が広がった。
「-....-ん、、森……?」
圧倒的な大自然。イメージは熱帯の森林だ。肌がジメジメと嫌な潤いに包まれていて、汗を拭おうにもポンチョのような服装で下着もない。
足の方は湿った土がまとわりついた。
おそらく、日本にこんな場所はない。
そもそも生態が全く違うように見える。だって、目の前に身長170センチの俺よりも大きい虫が飛んでいる。そんな生物聞いたことないぞ。
焦りをよそに、巨大な羽虫は視線に気付いたのか、ゆっくりと向かってくる。
呼吸が詰まったのがわかった。何か見てはいけない物を直視してしまった子鹿のように。
俺は必死に走った。草で、すねが切れて血が出てても止まらなかった。初めて間近に死を感じる。
「はぁはぁはぁはぁ……。ふぅ、うっ」
振り向くと虫はいなかった。しかし、走り慣れていないのが大きな問題。呼吸が……息が、肺の変なところに吸い込まれる感じがして、咳き込んでしまう。
それで息が詰まり、また呼吸が乱れる負のループに陥る。泥まみれになり、地面にへたり込んだ。
「ふぅ、、」
眠くなってきた。抗えないタイプの睡魔。
起きれている内に出来る限りの情報を整理しよう。確実なのは、ここが日本ではない場所という事だ。理由はわからないが森に放置されている。
そして一番の謎はアナウンスの声である。初めはゲームのような雰囲気だったが、現実らしさを肌がひりひりと知らせている。頬をつねった。やはり痛い。
落ち着け、ゆっくりと呼吸のテンポを落とすんだ。目標は人と会う事だ。何もわからない以上、無駄に体力は使えない。
謎の声にあった、【メインストーリー】は落ち着ける場所が見つかり次第考えよう。
五感がどんどん鈍く、意識も遠のく。
【アバターの損傷中度。機能の一部停止を実行します】
このアナウンス音は聞こえていない。すでに意識を失っていた。




