前日譚(プロローグ)
「警備隊になりたいって……いやいや、お前みたいなヒョロガリがか?」
警備隊拠点の一部に笑いが生まれる。無理もない。異様な格好に、不思議な匂い、何より一番は場違いなほどの肉体の出来だろう。
周りの男達はほぼ180超えの筋肉ダルマ。
しかし、<うぬす>にはやらなくては行けない事がある。ここでは引けない。足を一歩前に突き出す。
「クリアして、とっとと家に帰りたいんだ……!」
---遡る事〜〜〜〜2日前。---
太っていないタイプの引きこもりゲーマー、
上原 和主は一般社会との繋がりを断って早、2年といった具合なのだ。たまたまが家が太くて、親が放任主義だったから出来上がった負の産物である。
食事の量が少ないのは、親からしたら不幸中の幸いなのか、そもそも興味すらないのか、何か言われた事もない。
「つっったぁぁ!」
最近足が動かしてもいないのに、痛みが来る。しかし目は瞑らない。ここで視線をPCから離せば負けてしまう。
【クエストクリア!】
和主の画面いっぱいに表示された勝利の合図。そんな彼のやっているゲームの名を、
「シニスト・モンストル」。通称「シニスト」と呼ばれる、超高難易度VRゲーム。
操作のレスポンス、当たり判定の明確さ、グラフィック、操作感。その他全てにおいて完璧。動きには無理のない補正が掛かる。これによって爽快感まで担保。
国を巨獣から守る部隊、警備隊となって戦う。基本的な武器は10種類ほどだが、自分で倒したモンスターで、自分だけの進化&ビルドを構築していく。その組み合わせは天文学的な数字にまで辿り着くほどに。熱を注いで作った武器には男のロマンが宿る。まさしく神のシステム。
問題なのは、ただ一つ。セーブなしのハードコア難易度設定。イージーモードも存在するが、そちらでは全モンスター討伐しても称号が手に入らない。
ノーマルモード初クリアの競走を、世界中のゲーマーが争っている良ゲー。
指先まで少し痙攣が目立って来た。目も充血して来ているのか……。何徹目ぁ?
ほろほろ休まないと。机の奥に置いてあったエナドリを一気に飲む。
「よっし、よしよしよしよし!
次が次で……あれ?これでラストクエストか!」
《巨獣の王の討伐》
ネットの偉人として和主、いや、ハンドルネームの<うぬす>を刻むまであと一歩。歯ぎしりで欠けた歯の部分の凹凸まで鮮明に感じる。
これさえ達成できれば誰かに認められる。きっとそうさ。小学生5年生の頃、初めて出場した大会で得た声援、誰にも負けなかったという優勝の悦、人生で一度だけ聞いた親からの褒め言葉。脳裏のカセットテープに刻み込まれた音。
大型の剣と、小型の剣を携えた双剣型のスタイル。被弾を抑えつつ火力を出せる最適解。様々なビルドがある中で、弓や銃は後半の資源不足で弾が足りなくなる。軽量武器はダメージを通せる場所が限定されすぎてしまう。
軽い短剣で機動力を担保しつつ、大剣で隙を狙いダメージを与える。この戦法を安定化まで極めたのは和主だけ。彼だけの技術。
リュヌベオプレスが地面に翼を叩きつける。その左翼端に短剣を差し込み、足場を作る。飛び上がり、翼の根元に特大の斬撃を見舞った。
29回目、全て同じ地点に与え続けている。短剣は残り13本。
翼と頭が一番硬い部位だが、機動力を落とさない限り戦い続けてもジリ貧で負けるだけ。
刺さった短剣は振り払われて折れてしまう為、一回一回刺す必要がある。これが難所なのだ。俊敏に動く巨獣は、即死級の近接技と、毎秒飛んでくる遠距離攻撃を巧みに操る。
攻撃を見切り続けているその集中力は、人間の限界をすでに超えている。脳みそが焼き切れそうだ。視界いっぱいの情報、その一片すら逃さない。
画面が暗転してきた。めまいか……?
普段は気にならない心臓の音がやけに大きい、ゲーム機からの発熱だけじゃない……。あつい、あつい。最後に武器を投げる。
………
【ラストクエストクリア!】
音がしなくなっていた。




