第十四話《試験まで》
【身体を完全に起動しますか? YES/NO】
YES。やっぱりこの感覚は慣れない。脳みその中から直に話しかけて、どうやってか呼応している。
理解できない物が一番怖いというのは、<うぬす>は身に染みて理解した。前夜に。
「おーい。起きるっす。はーやーくー!」
女の人の声……? 今は起きても大丈夫だろう。節々に酷い痛みが走っている。それでも起きられるのはアナウンス睡眠の回復効果に他ならないだろう。
「……誰ですか?」
「アタシっすか? アタシは〜。んー、ババロアの部下のゼリ! とりあえずウヌスサン?の看病をしとけって」
「そうなんですか! ありがとうございます。あとババロアさんにもお礼を言っておいて欲しいんですけど、お願いできますか?」
深々と頭を下げる。一つ、疑問が浮かんできた。
あんなに強い人がなぜ……
「ババロアさんって何で道端で乞食を……?」
「それ気になるっすか? 今回は特番に教えてあげるっす!!」
ゼリが口を<うぬす>の耳元に近づける。子供の頃の内緒話をしている気分だ。誰かに見られていたら恥ずかしいけど、朝だし人も少ないはず……。
それで、なになに。
「兄貴は、財布落としちゃって、そのまま町で3日も一文なしだったんすよ〜。ま! それだけなんでアタシはこれで!」
帰ろうとするゼリを制止した。
懐から布を取り出すと、<うぬす>はゼリに手渡す。ペンチと、その隣で倒れていた奴の財布。
「これは何っすか? 貰って良いっすか?」
「昨日ババロアさんから貰ったお金なんですけど、俺が持ってるのもなんですし……。ゼリさんに看病のお礼ですから!」
ゼリは躊躇いなく貰ってくれた。多分この世界で一番輝いた目をしていたと思う。……多分ね。ゼリはスキップをしながら、人混みに消えていった。
人、いたんだ…。
「とりあえず警備隊拠点に行くか」
昨日の大怪我は確かにあった。
しかし、歩いているのは<うぬす>の足に他ならない。治癒能力の高さだけが異世界の特典か?
それなりに嬉しいんだが……。出来れば怪我をしない為の力が欲しかった。憂いても仕方なしと、走ったが、すごく痛い。
「んぐ。肺がいてぇーっ」
立ち止まり、ぐっと背伸びをした。痛気持ちいような。実際の所は痛いだけだが、生きている事を実感している。
……くそ痛い……。やっぱり激しく動くのは控えるべきだった。<うぬす>は胸をさする。
まだ朝方なのに、町に妙な熱気が帯びている。普通の勢いではない。花火大会のような、クリスマスイブの8時半のような。
人が笑顔で何かを祝い、その影が鳴りを潜める時間。そう、間違いない。お祭りだ。
呼吸を整えた<うぬす>は、意を決して通行人に話しかける事を選択した。温厚そうで、暇そうなおっちゃんを選んだ。
「すみません! 今日お祭りでもあるんですか……?」
「祭り? ……あぁ! ま、そんな所だな。なんてったって明日はランジェの試験さ。ここも入隊希望者でごった返す。稼ぎ時だ!」
「教えてくれてありがとうございます!」
渡せる物もあまりない、おっちゃんも気にしてなさそうだ。言葉でお礼をして、去ろうとする。
その時だった。
「待った待った! 大事な物落としてるぞ!」
危なかった。落とし物。そう<うぬす>の落とし物というのは、木製の参加証。これがないと警備隊入隊の試験に参加すら出来ない。
再発行に関しては知らないし。
ともかく助かった。
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
「そんなに言わなくても良いって。あんたも入隊希望だったのか、そーかそーか! ほら持ってけ」
おっちゃんからリンゴ? を渡された。後で食べるか決めようと思っていた。
しかし、おっちゃんが少年のような濁りない目で<うぬす>を見つめている。早く食べてみてくれ! と伝わってくる。
「いただきます」
リンゴ……だが、少しみかんのような酸味がある。シャキシャキしててとても美味しい。甘味は少ないから、ジャムなんてのが良さそうだ。
「どうだ?」
「美味すぎます!! ちなみに、何て果物なんですか?」
「ミンゴっていう名前さ。うちのは新鮮だから、いつでも買いに来いよ!」
ロッキーのランニングの様にこの場を去った。いよいよ警備隊拠点。ここから<うぬす>の冒険が本当に始まる!
……扉を開けた先にいたのはペンチだった。
不運にも目があってしまう、数十秒。静寂の中、ペンチは声を張り上げる。
「こいつだ! 昨日財布を奪いやがったのはこいつに違いない! ほらランジェのみなさん! 捕まえてくれよ! なぁ!」
嫌な再会というやつだ。……言い返してやりたいのに声も出ない。
<うぬす>は怯えていた。




