第十二話《買い出し》
<うぬす>予想
銅貨1枚=約10円
銀貨1枚=約1000円
金貨1枚=約1万円
狭い裏路地、臭いゴミ、昼間の明るさとは対照的な場所。なんとも不穏な事に、ガラの悪いのに捕まってしまった。
「おいおい、あんた金もってんだろ?」
「あーいやぁ……あはは」
<うぬす>はライから受け取った金貨を隠しながら、天を仰いだ。
◇◇◇
遡る事数分前。
警備隊入隊試験が始まるまで、暇になってしまった。<うぬす>は悩んだ結果、買い物でもしてみる気になったのだ。
物の価値などほとんどわからない。シエラから簡単に教わっただけ。それでも、好奇心によって突き動かされてしまうのがゲーマーである。
ここでギザ十でも持ってたら、乙な物。それは置いておこう。
「すみませーん。これって何ゴルドですか?」
指差したのは肉の焼き串。匂いに釣られてしまったが、実際何の肉かもわからない。しかし美味そうだ。これ以上の理由なんて必要ない。
「1本ゴルド銅貨16枚だよ。3本買ってくれたら1本おまけ、つけちゃうよ」
そのまま営業トークに乗せられて、3本セットを買ってしまった。……苦手な味だったらどうしよう。<うぬす>は一抹の不安と一緒に串焼きを食べる。……これは!
「香ばしい……そしてスパイシーだっ! 肉も適度にほぐれている……っ!!」
「だろ? なぁ兄ちゃん、もういっ…」
「要らないです! では〜」
この町の活気はやはり凄い。数歩進んでしまえば、先ほどの屋台の影すら見えなくなっている。それほどの波が人で形成されていた。
しかし、どこからともなく視線を感じている。裏路地からだろう。その場所に輝きは拾えない。なんとも湿った雰囲気。
<うぬす>も本来なら近づこうとしない。理由がなければ……。
「なぁ、そこの人……。ほら……そこの……」
ライたちに貰った服。この世界に違和感のない格好だった。最初その声の向けられる先を探したが、その視線が自分に対しての物だと<うぬす>は気づく。
「どうしたんですか?」
あまりに無防備に、危機感もなく、その声の主によっていった。すっぽりと考えが抜けている。
声の主は20半ばの男だろうか。ボロぬのに包まれ、嫌な臭いがする。おそらく、物乞いの様だ。
「その串を1つ。いただけませんか……?」
「……あぁ、んー。1つなら」
「ありがとうございます。ありがとう、ありがとう。このお礼はまた……」
串を食べた男は去っていった。そよ風が頬にあたったみたいに。残った串を頬張り、裏路地から出た。この町の広さはどの程度なんだろうか。
検証と考察。辺りを嫌なほど見回す<うぬす>は、現地人にはバルーナに来たばかりの田舎者に見えていた。
奥に、更に奥に入る。足取りが止まることはないが、人気が少なくなっていた。
裏路地に感じた冷たさが、大通りにまで広がっている。それでも、まだ町の終わりに着かない。
「いてっ!」
何かにぶつかった。壁か?
額を撫でる<うぬす>の胸ぐらを誰かが掴む。持ち上げられ、裏路地に投げ込まれた。
酷く冷たい道だ。
「おいおい、あんた金もってんだろ?」
「あーいやぁ……あはは」
目付きの悪い男。背丈は180ほど。あまり良い物とは言えない服とは対照に、高価そうな装飾品が身につけてある。
それを見せびらかす様に、<うぬす>に見せた。
「あーあー、こっちにも傷が付いちまったよ。どうしてくれるんだ? あぁぁ?」
「いや、それには当たって……」
足元を強く蹴られて、体勢が崩れ落ちる。
スネの痛みもさることながら、地に頭をぶつけ血が出ている。
本当に迂闊だった。なぜ日本と同じ感覚のままだったのだろうか。立ちあがろうとする<うぬす>に蹴りが畳み掛けられる。
「ほら、出せよ」
夕暮れを始める空が、充血した目のせいで一層赤く、遠くなる。ライから貰った金貨は渡せない。
チンピラの足を持ち上げ、なんとか転ばせる。
「これでも喰らえ!」
口に目掛けて銅貨を投げた。勿体無い。……もったいねぇぇぇよ。しかし、これが功を奏した。
「うぐぅ」
チンピラの口から入った銅貨が喉に詰まり、焦って開けた目にも銅貨が。想像しただけで辛いぜ。
<うぬす>はなんとか裏路地から抜け出した。
薄暗い空に浮かんでいたのは、チンピラの仲間だった。その内の数名は刃物を<うぬす>に向けている。
……これは不味い事になった。
いや、本当に。




