第十一話《到着》
ライは門番と話し、通行証のような書類を見せた。門番は二人揃って確認した後、通された。
これが……中央都市バルーナ。
そこらじゅうの屋台に人が集まり、歩きづらいほどに歩行者にまみれ、子供の声がこだまする。その中に屈強な人が混じっていて、おそらく警備隊だと思う。
「これ、貸してやるよ」
ライが唐突に、布袋を渡してきた。小さな袋だが、ずっしり重い。口紐を解き、中を見つめる。
まるまるとした金属が乱雑に詰め込まれている。それを一つ手に取ると、硬貨だと分かった。こういうのは何となくわかる物だ。
「お金……?」
「そーだ。利子は無し、期限は1年。優しいだろ?」
「ありがとう」
<うぬす>、この世界の金銭感覚や稼ぎ方を知らない。それはあまりにも、生きるのに不便だ。露天に並ぶ果物すら買えないなんて、子供じゃあるまい。しかし、子供以下というのが事実。
ここは恥ている場合ではない。
「悪いが、少しだけ物価について教えてほしい」
「ランジェ拠点に着くまでならいくらでも教えてやるぜ、シエラがな。オレはやらなきゃいけない事がある」
ライはグッドサインをしながら、視線を流す。その先に居るのは帳簿をつけているシエラだ。
正直教えてもらえるだろうか……。
「……何?」
「物の値段を教えてもらいたくて」
「無理」
「そこを何とか……!」
説得は数十分続いた。そう、シエラが根負けしたのだ。やると決めた時の<うぬす>の諦めの悪さと言ったら、とにかく酷い。彼の気質というのは、弱いのか強いのか判断しかねる。
「少しだけよ」
「ありがとうございます!」
綺麗に要点がまとめられた解説は、嫌そうな顔と早口で3分もせぬ間に終わった。それでも理解できたというのは、その教え方の上手さが伺える。
シエラは舌打ちした後、寝てしまった。
「ありがとうございます」
無視か……。しかし結果は、とりあえず基礎的な物価を知れた。大きな収穫に他ならない。
<うぬす>は袋から鈍いながらも光を反射する銅色の硬貨を取り出した。
日本に居た時、りんごが1個約200円という具合。そしてこちらの世界で、りんごの様な果物。便宜上カタカナの"リンゴ"はその銅色の硬貨20枚で帰る。
金銀銅と色によって価値も違う。銅は100枚で銀。銀は10枚で金。国ごとに貨幣が違うが、コマン語が公用語の国では基本使えるらしい。
金貨1枚=1万円のイメージだろうか。
この通貨の名を、ゴルド通貨と言う。
「……ライ、」
「どーしたよ。そんな顔して。真っ青だぞ?」
巾着袋の中には少なくとも10枚も金貨が入っていた。恐ろしい。こんな大金をパッと貸してくれるのも怖いし、借りれたとて持っているのも安心できない。……少し返そう。
「すまん、ライ。流石にこの量は怖えです」
「ランジェになった時、武器を買う資金はどうするよ? 持ってた方が良くねぇか?」
<うぬす>は静かに、金貨を8枚返した。ライは受け取りを渋る様に、悩んだが、押し負けた。
「ま、これは返されてもらっとくか。ランジェ拠点に着いたぞ、ほら」
馬車が停車する。ミーイが馬をなだめて、揺れがおさまった。ずっと座っていたせいか、足の痺れを感じる。
ゆっくり降りて、礼を言う。満点の青空はこの世界に<うぬす>が来たことを祝福するように眩しい。
「ありがとう、ライ。本当にありがとう。この恩はまた何処かで絶対に」
「いいって事だぜ。とりあえず試験がんばれよ」
ルーシーが馬車の幕から顔を出して、一言。
「ね、今年の試験気をつけて。それだけ」
シエラだけに無視されてしまった。しかし、ほぼ円満な別れだ。これこそが思い描く冒険譚。
<うぬす>はバオックスの町の警備隊拠点よりも、一層大きな扉の前に立った。
「よし、行くぞ!」
一歩踏み締めた。扉が開き始めると中の騒音が更に大きく聞こえる。受付台の数もさることながら、人の多さは恐ろしい。
行列の出来るラーメン屋よりも長い行列。
<うぬす>が受付を終わらせたのは夕方になったのでした……。
次回から試験編ですね!
短編小説を書いている影響が出そうなので、一旦完結済み休載にします。ファンって人は居なさそうですから、特に宣言する必要はなかったかも。




