第九話《中央都市バルーナへ》
ライ一行。
ライ:リーダー
シエラ:剣士
ルーシー:斥候
ミーイ:馬車守
ユリナ:弓使い
イーラ:ガンマン
朝の警備隊拠点は、前の喧騒とは裏腹に、驚くほど静か。受付台にひとり受付嬢がいるだけで、他には誰も居ない。
しかし、今拠点にいるのが前回対応してもらった人だけ。恥ずかしさを堪えるしかない。視点を定められずに歩き出す。
「……すごく静かですね。今日はなんかあるんですか?」
「ランジェの皆さんは新人の試験を見る為に、バルーナに向かいましたよ」
ほっとした。逃げ出してしまった事はバレていないと思われる。それもそうさ、考えてみれば、一人の脱走なんて業務の濁流に流された木片のような物。だから大丈夫なはずさ。
「うぬすさんですね。参加証を受け取る前に出て行ってしまったので探していました!」
バレていた……!
「こちらが試験の為の参加証となっております。バルーナの受付にてこれをお渡しください」
簡単な書類と、少し硬い木製のカードが手渡された。バルーナ行きの馬車で、ライたちが待っている。早くいかないと。
<うぬす>は息を切らさない程度に走った。
「ごめん。お待たせした」
「いや、出発の時間ピッタリだぜ」
「ね、焦らなくて良いよ。ゆっくりしなー」
今度は自分の意思で馬車に乗り込んだ。この馬車は面白いほど取っ手が多い。そのおかげで<うぬす>でも楽に乗り込めた。
内部は物置のスペースとは違って座りやすく広い。壁の木材に材質の差はなさそうだが、手入れの頻度による物か、物置よりも全然滑らかな触り心地。
それ以上に、シエラからの殺気が止んだのが一番重要なポイントだ。
「うぬすさん? すこし良いかしら?」
この人は多分、ユリナさんだろう。この世界はゲームとは違う。一度会えばログの部分に名前が表示される便利機能は付いていない。不便に思う。
「なんですか? ユリナさん」
「あなたって何でランジェになりたいのか気になりまして。ただ家に帰るだけなら馬車や船を使えばいつでも出来るでしょうし……」
この手の質問が一番難しいと、<うぬす>は思う。前回のように尋問という状況とは違っているが、ただ答えにくく、話したところで信じがたい話。
エンターキーをクリックするように、馬車の床に人差し指の三拍子を刻む。
「俺がランジェになりたい理由ですよね……。ええと、言うなれば帰り方を探す旅の最中。みたいな」
「不思議ですわね。それに……」
ユリナが呟きかけた時だった。突如、馬車が勢いを殺して、急停止する。ミーイがゆっくりと馬を落ち着かせながら、ライに告げた。
「魔獣が出た」
「わかった。うぬすはここで待ってろ」
ミーイを除いた5人が馬車を降りる。<うぬす>はこっそりと外を覗くと、そこには灰色の耳が奇怪なほど尖った狼がいた。
ミミキキオオカミだ。灰色の全長60センチほどの中型種。その大きく発達した耳によって、微細な音も聞き逃さない。しかし、運動能力が魔獣の中では比較的低い。体力が少なく、すぐに休息が必要になる等々。
「みんな陣形を取れ! ルーシーは他の魔獣が近くにいないか偵察」
それぞれが一つの指示で美しい連動を見せる。一朝一夕でなせる連携ではない。そして皆んなが武器を構える。そして踏み込んだ……。
その時だった。
森林の闇から切り裂くように、矢の雨が降り出す。それは本数にして10本を優に超えていた。まさしく死の絶景だ。
ミミキキオオカミたちが一瞬にして死体となる。それは勿論、ライたちの攻撃ではない。<うぬす>は直感する。今、馬車を出るのはダメだと。
迷彩柄のフードを被った集団が、森の中から現れた。この世界にも迷彩柄は一般的な物なのか……?
「ライ・バオックスだな。あんたと我々が探している男が繋がっていると聞いた。どこにいる?」
「探してる男……? そもそもお前ら誰だ。オレの仲間に危害を加えようってなら、こちらも全力を」
迷彩の男が食い気味に言った。
ライたちに害をもたらす気は確かに感じられない。男に至っては武器を地面に置いた。
「いやいや。あんた達と戦う気はないよ。ランジェとして町を守るあんた達は尊敬してるぐらいさ。我々が探しているのは、<うぬす>という男だ」
巨獣
この世界における特定の危険生物
魔獣
その他のそこそこ危険だったりする生物。アカチツイバミも魔獣の一種。




