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160話--襲撃--



 国際交流戦の一日目が終了した。

 日本代表としての結果は明日へ進出を決めたのが四人、二回戦敗退が一人だ。他国の代表たちも多くて四人、少ないところは全員敗退していたりしているので結果としては上々だろう。


 ホテルに戻り、七海たちと合流する。

 ロビーの空調の匂いに、外の露店の煙が混ざっている。好き放題に露店の食事を食べていたのか、小森ちゃんの口元にソースがついていた。

 赤茶色で光の当たり方で少しだけ艶が出ていた。


「ん。これは……」


「えっ、あっ。付いてましたか!?」


 カレンがジト目で小森ちゃんに近づき、指で口元を拭う。指先についた分をそのまま自分の口へ運び、舌先で味を取った。

 小森ちゃんが息を止めているのが分かる。目だけ忙しく動いて、逃げ道を探しているようだった。


「ん。もちもち……」


 小森ちゃんの両頬に手を当てたままカレンが言った。小森ちゃんは助けてくれ、と言わんばかりの視線を私に送っていたが、気づいていないふりをする。

 食いしん坊のカレンの前で口元にソースを付けていた小森ちゃんが悪い。七海は何も言わずに肩だけ揺らして笑いを堪えている。


 このまま眺めていてもいいが、一日中試合だったため少しだけ空腹が主張をしている。

 昨日食べたレストランに皆で行くとしよう。



 次の日はすぐにやってきた。相変わらず私は全ての一試合目なので開始も早い。

 服を整えながら時計を見て、欠伸と伸びで眠気を追い出してからベランダに出る。

 三十五階だが特に気にすることはない。手すりに指を置くと金属が冷たかった。


 手すりを越え、地面へ向かって落ちる。風が耳の横を抜け、髪が後ろへ引っ張られる。

 目の前の景色が縦に流れて足元の影が近づいていく。地面に到着する寸前に地面を魔力で強化してから着地をした。


 これをしないと地面に大穴が空いてしまう。大人しくエレベーターを待てば良い、と言われればそれまでだが地上に向かうだけなら待つよりも飛び降りた方が早い。

 着地をミスったところで体が地面に埋まる程度だから時間のかからない方を優先したかった気分だ。


 軽く準備運動をして日課となっている早朝の散歩をする。朝は空気が澄んでいて息を吸うと肺の奥が少しだけ冷えるように感じた。


 ――パン、と乾いた音が鳴ると同時に背中の左肩らへんに何かが当たった。シャツを引っ張って確認すると肩口の生地に小さな穴が空き、そこから糸が出ていた。

 指で触ると穴の部分から足元に金属らしい何かが落ちた。石の上で短く音がして止まり、拾い上げると潰れた銃弾だった。

 銃撃された……? 日本では考えられない治安に眉を顰めながら後ろを見るが人影はない。


『プランA失敗。プランB移行』


 小さな声で何かを言ったのが聞こえた。日本語ではないのは確かで、どこの国の言語かは分からなかった。

 私を狙撃した者は既にその場から姿を消しており、その変わりに私の周囲に得体の知れない気配が複数あるのが分かった。


「表舞台に立つとこんなのばっかり……」


 回帰前もパーティーで活動していた頃は暗殺、夜襲、謀略なんて日常茶飯事だった。

 ため息を吐いて、飛来してくる銃弾を全て手で掴む。指の腹に金属が当たり、握った瞬間に弾の回転が止まる。皮膚越しに弾の熱が少しだけ伝わった。

 銃弾さえ残っていれば弾の材質や形状で分かると使っている銃の種類や、分かる人がいれば製造国などまで調べられる。


 剣を出して弾が飛んできた方角へと駆けた。気配を消すことに長けているのだろうけど私には無意味だ。

 両手足を切り落とし、そいつの身に着けていた服を丸めて口に詰める。こういう暗殺とかしてくる相手は口の中に毒を仕込んでいる場合が多いため、自ら命を経つ方法をあらかじめ封じておく。


 傷口には闇を纏わせているので出血多量で死ぬことはないだろう。闇に蝕まれるので、死んだ方がマシと思える痛みがあるだろうけど、私の知ったことじゃない。


 他の襲撃者も全員同じ目に遭わせて一か所にまとめる。

 少しばかり魔力を解放したからか、それを感知した他国のハンターと治安部隊のような人たちが、私と襲撃者の山を取り囲んでいた。

 靴音が増えて無線で話してるの音が混じる。銃を構える腕が数本見えたが、引き金に指は置かれていない。

 私の手元と襲撃者の山を交互に見て、誰も近づけないでいる。距離を取りつつも、視線だけは外さないようだ。


「聖女、コレハ一体ドウイウコトダ? ト、聞カレテル」


「ランドルフじゃん。どうも何も襲撃されたから全滅させただけだけど……」


 治安部隊と話していたランドルフが私に話しかけてきた。鎧の擦れる音が一歩分近づいて、視線がこちらへ向く。

 どうやら通訳のようなことをしてくれるらしい。


「ソノ証拠ハ? 傷一ツ負ッテイナイカラ怪シマレテルゾ」


「この程度のレベルの相手に負傷する方が難しくない……?」


「……確カニ、ソレモソウダ」


 ランドルフが治安部隊に説明をしてくれている。

 多分英語だと思うが、こういう時に話ができると便利なのだろう。

 近い将来に魔石の技術が進めば、話した言葉をその場で変えてくれる装置が出てくるはずだ。

 前に拠点に来たパワードスーツの人が、似たようなものを使っていた。


「コイツラノ身柄ヲ預カッテモイイカ?」


「いいけど、調査の報告はちゃんとしてね。それが無かったらこの襲撃者を仕向けたのはこの国――アメリカだと断定するから」


「ソレハ……怖イナ。報告ハスル」


「じゃあいいよ」


 ついでに掴んだ銃弾も渡す。ランドルフは首を傾げたが受け取って治安部隊へ回した。

 慌ただしく襲撃者を回収して、治安部隊とランドルフは撤収した。周囲の輪がほどけ、視線が私から離れていくのが分かる。

 そこへ、輪の外側から沙耶たちがやってくる。歩幅が早い。沙耶の声が先に届いた。


「お姉ちゃん……居ないと思ったらこっちでも相手してたんだね」


「こっちでもって……沙耶たちの方にも来たの?」


「うん。無理やり起こされて機嫌の悪かったカレンさんが相手を細切れにしちゃって正体が分からなかったけど……」


「あー……うん。誰にもバレてないよね?」


「リシルさんとアリエスさんが薬剤で分解して綺麗に洗浄してるから多分大丈夫……」


 どうでもいいことで起こされた時のカレンは非常に寝起きが悪い。自分に利があることだと仕方なく起きるけれど、それ以外は今のようなことになったりする。

 私たちはもう慣れているので、カレンを起こすときは食事で釣ったりするのがベターだ。

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