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159話--皆の四回戦--

 一回戦の時と同じく、試合開始の合図と共に沙耶は魔法を展開した。が、それより速く相手は沙耶に詰め寄り、剣を横薙ぎに振った。

 交流戦が始まってからずっと初動の魔法展開だけで勝利していた沙耶が初めて開始位置から動いた。

 ほんの半歩、足先をずらして攻撃を避けた。


「速いね~」


「アレを避けるとか本当に魔法使いかよ……」


 相手は剣士。技能である【俊足】で距離を詰めたが、通常の魔法使いなら避けることはできなかっただろう。

 魔法を展開する前に斬られて終わりの速度だった。

 

 それなのに沙耶は身を翻すように避けるのではなく、肩と腰を少しだけずらして最小限の動きで躱した。


「ごめんね、いつもそれより速い相手と訓練してるからさ……」


 多分これは私の事だろう。普通に動いても今のよりは速く動けるし、私の技能は【俊足】ではなく【神速】だ。

 長く使っていると技能そのものが体に馴染んでいって練度が上がり、一定以上まで馴染むと技能自体が上位のものに変化する。

 変化した瞬間、魔力の効率も効果も上がるから同じ感覚で使っているのに出る速度や効果が変わる。

 更に使っていくと、今度は技能自体の効果を自分で調節できるようになる。

 

 私の【神速】は魔力の消費量を増やして、その分だけ速度の上昇量を増加させている。


「そういえば当たり前すぎてこの事、誰にも言っていない気が……」


 よし、国際交流戦が終わったら配信で言おう。

 知っている人は知っているだろう。

 相当数使っていれば自然と変化するんだから私が言うまでも無いと思うけれど、言えば伸び悩んでいる人たちに道を示してあげられるかもしれない。

 

 先の事を考えていると、モニターのスピーカーから急に音が大きくなった。実況の声と歓声が重なって部屋の空気まで少しざわついた気がする。

 顔をあげてモニターを見ると沙耶と剣士の男がもう打ち合っていた。


 何で相手の土俵で……と思ったけれど、沙耶は打ち合いながら空中に魔法を展開し、同時に足元へ魔法陣も置いている。

 剣士の男は自分と同じ力で打ち合ってくる敵を警戒しながら、死角から飛んでくる魔法と足元に増えていく魔法陣にも気を配らないといけない。

 

 盾でも持っていればまだしも、両手が剣で塞がっている。

 中々に大変そうだ。沙耶の方は余裕があるわけじゃないが、口元だけが楽しそうに上がっている。


 そのまま魔法を含めた攻撃の物量で沙耶が押し切って、無事に四回戦目を勝利で明日への進出を決めた。

 実況が勝利を告げると、沙耶はカメラへ手を振り、インタビューに答えてリングを降りて行った。


 別のモニターを見ると、今度はカレンの試合が始まっていた。

 欠伸をしながら短剣を持ち、相手の攻撃を全て受け流している。剣先が何度も迫ってくるのに、カレンの腕も肩もほとんど動かない。相手が息を乱して動きが遅くなるまで待ってから、短剣を首に突き付けて試合が終了した。

 

 相変わらず、他の普通のハンターより一段強い。

 そのままモニターで他の試合も流して見ていると、控室の扉が開いて沙耶とカレンが帰ってきた。


「ただいまぁ……」


「ん。戻った」


「おかえり――、ってなんで沙耶はそんなに疲れてるの?」


 いつも通り無表情のカレンと、疲労困憊の沙耶が椅子に向かって歩いてきた。

 沙耶は杖を置くより先に背中を丸めて肩を落として大きくため息を吐く。

 

「どうも何も報道陣に囲まれちゃって……応対するのが面倒すぎて、試合より疲れた……お姉ちゃんとカレンさんは大丈夫だったの?」


「私は高速で移動してカメラから逃げて戻ってきたから……」


「ん。わたしも」


「速く動けるの、いいなぁ……」


 遠い目をしながら沙耶が言った。髪を直そうとして手が途中で止まる。

 【魔法】スキル持ちの沙耶には高速で移動する手段が今のところは無い。

 

 自分の居る場所から自分の魔力が届く範囲の指定した座標に瞬間移動する【転移ブリンク】という魔法があるが、技能書無しで会得するには相当難易度が高かった。

 リリィが知っていたので、沙耶と一緒に理論と魔法陣の構築を聞いた。けれど難しすぎて、私は少ししか理解できなかった。

 

 転移先の風速、座標、物質の構成状況を、転移先に配置する魔法陣に代入して構築しないといけないらしい。しかも、自分の居る場所の魔法陣も同じように構築しながらやらないといけない。

 計算と構築のどっちも同時に間違えられないのだ。

 技能書で習得すれば、その辺の計算を無視して座標の入力と魔力の消費だけで発動できるようになるとのことだ。

 

 瞬間移動に近い魔法なので私も使えるようになりたかったが、少しでも魔法陣の構築を間違えると発動しなかったり、体の一部分だけ移動先に転移させられたりするらしい。

 

 自分の魔力で発生させているものなので、防御など無視して持っていかれる。

 流石にそんなリスクの高いことはしたくないので諦めた。

 

「ん。チルシーだ」


 カレンがテーブルの上に置かれているお菓子を食べながら、モニターを見て言った

 チルシーの四回戦が始まっており、私もそれを見ることにした。

 

 試合開始と共にチルシーが画面から消えた。高速で移動しており、カメラだと性能的に捕えきれていないようだ。

 次に映ったときには相手の肌が露出している部分に小さな切り傷が増えていく。

 相手の攻撃は当たらず、相手は同じ場所を狙われて傷が深くなっていく。力の弱いチルシーらしい戦法だ。


 体格から来る非力さに関しては正直どうしようもない。だから別の方法で補うのが今後の課題だろう。

 魔力の量は試練場で増やした後の沙耶と同じぐらいはあるはずだ。ちゃんと学ばせないとダメだろうな……。


 チルシーの魔力の量が多いのは私が血を頻繁に飲ませてしまっているからだ。

 その部分も含めてカレンに怒られた。

 

 相手はチルシーの動きが追えていないのか、防戦一方だ。盾を振り回しても空を切るだけで、たまに刃がかすったみたいに新しい傷が増える。

 そのまま三十分が経つと、相手が膝から崩れ落ちた。無数に切り付けられた傷から血が流れ出ており、出血多量で気絶したのだろう。

 審判が駆け寄って手を上げ、実況が勝利を告げる。

 

 相手が範囲攻撃の手段を持っていたら勝敗は逆だった。リング内全域を対象にできる範囲の攻撃さえあれば、の話だけれど。

 まあ、でも勝ったから今日は良しとしよう。

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