157話--成長--
控え室に戻ると沙耶とカレンの姿がなかった。
椅子の並びもさっきより少し乱れていて、慌ただしく出ていったのが分かる。
チルシーと凛花さんがモニターの前に陣取って試合を観戦しており、私に気づいたチルシーがぱたぱたと駆け寄って言った。
「姉さまなら試合に行ったよ」
「そういえばリング四つあるんだっけか。ありがとう、チルシー」
「ふふん、お礼は血で……」
「今朝あげたでしょ。飲み過ぎるといくら特異体質でも内側からの魔力の圧に耐えきれなくなって破裂するよ?」
「むぅ……我慢する」
チルシーの肩を軽く押して距離を取らせつつ、適当な事をでっち上げてチルシーに伝える。
うん、と素直に頷いたから、とりあえずは騙し通せたらしい。
あまり考え無しにあげすぎても良くないということを、つい昨日にカレンから叱られたばかりだ。
指摘されるまで特に気にしていなかったのも事実だ。カレンやリシルみたいに要求が派手じゃないせいで、つい甘やかしてしまう。
目隠しを外してモニターを見ると、ちょうど沙耶の試合が始まろうとしていた。
画面の中のリングが一瞬引きで映り、次の瞬間、開始の合図と同時にリングを埋め尽くす量の魔法陣が展開される。
光が重なって、モニター越しでも眩しい。少し気になって魔法陣の種類を数えた。
……八種類。前までは同時に展開するのは二種類が限界だったのに、リリィから特訓を受けてちゃんと成長しているようだ。
展開も無駄がなくて重なり方が綺麗だ。
全身フルプレートアーマーの相手が狼狽えて一歩下がった瞬間、その足元が爆発した。
映像越しにでも分かる衝撃で、砂塵が跳ねて、カメラの映像が少しブレた。
地面に展開されてる魔法陣は地雷に等しい。踏んで即座に離脱するか、構築が完了する前に魔力を流して構築を妨害して破壊するかの二択だ。
あの展開の速さだと普通の相手なら破壊する方が難しいから割と詰みだ。
威力も十分に高く、踏み抜いた方の足の防具が吹き飛んでる。
沙耶は笑いながら魔法陣の数を増やしていっていた。増えていくたびにリングの余白が減っていき、魔法陣の密度が高すぎて画面が白飛びしかけてる。輪郭が潰れて、光だけが残る瞬間がある。
あの量が一斉に起動したら私でも数発は貰ってしまうかもしれない。……と思えるぐらいの量だ。もちろん、何とかする手段はいくらでもあるけれど。
相手が武器を地面に下ろして降参を宣言した。
全てが防具を吹き飛ばした魔法陣と同じ威力だと思うと賢明な判断だ。実況の勝利宣言と共に、沙耶はカメラにピースをしてリングを降りて行った。
別のモニターではカレンがリングに上がっていた。気怠そうに短剣を持って立っている。立ち方がいつも通りで、緊張感がない。
相手は……剣士だ。一番オーソドックスなタイプの片手に剣、逆の手に盾を持っている。構えも教科書通りで、守りから入るつもりらしい。
その装備構成は私も回帰前に試したけど合わなかった。つい盾を投擲武器として扱ってしまい、当時のパーティーの同じ前衛からは「お前、二度と盾持つな」とブチギレられた事すらある。
――なんて、懐かしさに耽っていると勝負が付いていた。
開始の合図と同時にカレンが相手の両手足の腱を斬り、膝をついた相手の喉元に短剣を突きつけて審判が止めに入って試合終了だ。
動きが早すぎて見逃した人もいるだろう。相手が膝をつくまでの間がほとんど無かった。
切り口が綺麗だから回復魔法か低級のポーションでも飲めば、すぐに動ける様になるだろう。
カレンなりに相手に気を遣った結果だと思われる。
「ただいま〜」
「おかえり。やるじゃん、結構強くなったね」
沙耶が戻ってきた。
汗はかいておらず、髪の毛先が少しだけ乱れている。姉らしく労いの言葉をかけて、頭を両手でわしゃわしゃと揉みくちゃに撫でる。
「ちょっ、やめっ……髪が崩れるじゃん……」
「まだ本気じゃないでしょ?」
「……うん。お姉ちゃんと勝負する時まで温存しようかなって」
「へぇ……楽しみに待ってるよ」
実力者と言うほどの者とは同じブロックではないみたいだから、順当に決勝戦で当たるだろう。
カレンもいつの間にか戻ってきており、暇そうに茶菓子を食べていた。口の端に粉が付いてるのに本人は気にしていない。視線だけはモニターの方に向けたままだ。
警戒するべき相手はHブロックに居る、この前ラウンジカフェで会った大柄な女性。
他にも賭け倍率の二位と三位も警戒しておいて損はないだろう。その二人はFとGブロックなので決勝に行くまで当たらない。
本当に良くできた組合せだ。偶然で片づけるには都合が良すぎる。
◇
二回戦目も私たちは何事もなく勝利した。
少しだけ相手の強さのレベルが上がっていた様な気もするけれど、まだまだ余裕だ。勝ち方を自由に選べる範囲内の敵だった。
凛花さんは運悪く二回戦目でエマと当たる組み合わせとなっていて負けた。
試合開始と同時にエマがゴーレムを創り出して凛花さんの魔法を防ぎ、時間をかけて戦っていると思った。
――が、リング内に毒を充満させており、それに気付けず麻痺毒が回って動きが鈍ったところを狙われて敗れた。
ゴーレムだけでも倒し切れるはずだっただろうけど、確実に勝つために動けなくしたのだ。エマらしい。
チルシーは攻撃が軽いせいで苦戦しながらも何とか勝利していた。決め手が薄い分、接戦の様な雰囲気が出て見ているこっちは歯がゆい。
今日は四回戦まで行い、明日は残りの二戦をした後にルーザーズマッチがあり、その勝者を含めた四人でブロックの勝者を決める総当たり戦がある。
決勝は明後日だ。そこまでに骨がある相手と戦えれば御の字と言ったところだろう。




