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156話--第一試合--



 国際交流戦で使う武器を考えていたら翌日になっていた。

 机の上に並べた候補は、短剣、槍、鎌。メインの武器ではないものだけど、どれも普通に使えるからこそ決まらない。

 握って振ってみて重さを確かめても、手が馴染むだけで結論が出ない。


 結局のところ何を使うか決まらない。どの武器を使っても問題なく扱えてしまう。


「素手でいくかぁ……」


 斬撃より打撃の方が致命傷にならないだろう。

 戦う場所には攻撃などが観戦席に行かないように色々な魔法が展開されているらしい。とはいえ安心しすぎると危ない。

 力を出しすぎて破壊しないように気を付けよう。


「お姉ちゃん緊張とかしないの?」


「うーん、全然しないかなぁ……決勝行くまでは思っているような戦いになりそうにないし……」


 控室に入ってから、会場全体に薄く魔力を張り巡らせて個人戦に参加するハンターの魔力量を感知した。

 雑に垂れ流している者、制御が甘くて漏れている者、息を潜めるみたいに抑えている者。私みたいに外へ一切漏らさない者も、少数だけどいる。

 色々居たが八割ぐらいが全く制御をしていないようだ。


「魔力垂れ流しって恥ずかしくないのかな……?」


「ん。わたしも気になる」


「何かあるの?」


「魔力ってさ、その人の力量とか分かるじゃん? 気にしている人が少ないけど、抑えられる私たちからするとズボンの社会の窓を全開にして街を大股で闊歩しているようなものだと思うんだよね」


 私が言い切ったあと、カレンが小さく頷く。

 回帰前でも魔力を抑えるようにするのがマナーとなったのはダンジョンが出来始めてから二十年程経ってからだった気がする。

 まだ、そこまで人々は順応していない。気付いていないだけ、と信じたい。


「うーん……? あまり良く分からないけど多分それは恥ずかしいって事だね……」


「少なくとも私たちは魔力をちゃんと抑えようね……」


 自身に息子が居たことのない者には分かりにくい例えだったか。

 控室で談笑をしているとスタッフが入ってきて私を呼んだ。


「お時間です。リングまで来てください」


「じゃあ、行ってくるね」


「頑張ってね~」


 沙耶とカレンに見送られて控室を出る。

 廊下はまっすぐで迷う要素はないのに、奥から熱気が押し返してくるみたいに空気が厚い。

 遠くで歓声が波になってうねっていて、足を進めるたびにそれが近づいていく。


「コールがされますので呼ばれたらリングまで入ってきてください!」


「了解」


 案内の人がそう言うと会場の方からマイクの入る音と共に会場を盛り上げる言葉が響く。鼓膜の奥が軽く震える。

 そして、まずは私の対戦相手が呼ばれた。


『さあ! 全てのトップバッターはこの男! 祖国を捨て、力を求めて大陸へと足を踏み入れた開拓者! 日本での名前はもう捨てた!『开拓者』のリーダーが雪辱を晴らすか!? 『叛徒』の入場だぁ!!』


 盛大な煽りと共に歓声が響き渡った。

 どうやら実況と解説は参加国と同じ数居るそうで、いろいろな方向から様々な言語の実況が聞こえてくる。

 耳を澄ませると、言葉が重なっているのが分かる。メイン実況をしている人が日本人らしく、普通に聞き取れた。


 ――この勢いで私も紹介されるのか……?

 どう紹介されるかは知らないので小さくため息を吐いて目隠しを装着する。うん、何も見えない。


『続いて対戦相手は我が日本! 消えた聖女が帰ってきた! どれだけ強いかは誰も知らない! 日本の底力を見せつけられるのか!? 『聖女』、入場だぁぁ!!』


 よかった。変なことは言われなかった。

 そのまま真っすぐ歩いて会場に入る。足裏に床の硬さが伝わってくる。相手の奴より歓声が少し少ない気がした。様々な方向から観察の視線が私に刺さる。


 リングに上り、魔力を張り巡らせる。視界がない代わりに、周囲の輪郭を魔力で掴んだ。四方は五十メートルぐらいのリングか。

 本気で戦うには少し狭い気もするけれど、広すぎても逃げ回って戦いにならないのも好ましくないのだろう。審判と対戦相手が居るところまで近づくと対戦相手が口を開いた。


「チッ、本当に目隠しなんざしてんのかよ。このクソアマが」


「……あぁ、思い出した。決定戦の時に『覚醒の丸薬』を使っても私に手も足も出なかった奴じゃん。あれからちゃんと訓練した?」


「くたばれ、クソが。負けても言い訳できるからいいよなぁ、女はよぉ」


「主語が大きいねぇ……。全世界に放送されてるの知らないの?」


「うるせぇ。勝てば全てが許されるんだよ」


「まあ、それもそうか……」


 暴言には煽りで返す。そのぐらいの方が見ている者たちも楽しく見れるだろう。

 互いに踵を返して審判に指示された所定の位置へと向かった。足音がリングの床を叩いて、観客のざわめきに混ざる。


「殺し以外は全て許容されます。準備は良いですか?」


 相手が構える。呼吸が荒く、武器の先が小さく震えているのが分かる。

 私も自然体で立ち、準備はできた。――が、審判が開始の合図をしない。


「あの、武器は……?」


「要らないよ。素手で十分」


「舐め腐りやがって、このクソアマがぁ!!!」


 私へ向けて駆けて来た。踏み込みが乱暴で、床が鳴る。審判が慌てて「第一試合開始!」と合図をした。

 相手の武器は――ハルバード。風を裂く音が近づき、大きく振りかぶって私へ振り下ろす。


 右手の指で摘まんで受け止めた。刃の勢いが指先で止まり、金属の震えが骨に伝わる。

 そのまま左手で押すと相手は反対側の壁へと叩きつけられて煙が舞った。


「壁に叩きつけられたダメージしかないでしょ。わざとそうしたからね、これも返すよ」


 摘まんでいたハルバードを投げるとカラン、とハルバードが地面に跳ねた。

 血を吐き捨てて壁の方から歩いてくる。目だけで怒っているのが分かる。


 無言でハルバードを拾い、さっきとは違い深く構えた。腰が落ち、重心が前に出る。


「何でそんなに私の事嫌ってるの?」


「何もかもが気に喰わねぇ。それだけだ」


「うーん、あ、確か沙耶がアンチとファンは表裏一体って言ってたけど――」


「――殺す」


 暴風のような魔力が吹き荒れた。空気が一段重くなる。

 その中には明確な殺意と共に私へ無数の攻撃が繰り広げられる。軌道、踏み込み、振り戻しの速さ。

 全部が一直線で、殺意の割には単純な攻撃に感じる。


 全て片手で軌道を逸らす。指先で弾くたび、刃が空を切って別方向へ流れていく。

 確かに前に決定戦で戦った時よりは強くなっているが……装備の力に頼りすぎていて攻撃が単調だ。


 ため息を吐いて空いている手で拳を握る。顔は――やめておこう。力加減を間違えると確実に殺してしまう。

 腕を振り抜いて防具で固められた腹部へと拳を叩き込む。防具を破壊する感覚と肉を叩く感触が伝わってくる。


 相手の男はピンボールの玉のように体が跳ねて轟音を立てて壁に叩きつけられた。

 ……殺してないよな?


 魔力反応が消失したのが感じ取れ、審判が慌てて駆けよってバツの字を作った。

 医療班と思わしき白衣を着た者たちが担架を持って走ってくる。靴音がばらばらで、焦りだけが揃っている。


『勝者! 『聖女』さんです!』

『えー、会場が壊れてしまったので修繕をします。次の試合は十五分後です』


 歓声と共に第一試合が幕を閉じた。

 壊してしまったのは申し訳ない。

 拳を開いて次の試合はもう少し骨のあるやつと戦えればなぁ、と思いを馳せた。

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