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154話--来訪--

 無事に? エマと打ち解けられたようで良かった。

 あの様子だと少なくともリシルを使えば何とかなりそうだ。何かあったらリシルを盾にして逃れよう。

 さっきからエマの腕の中でリシルが脱出しようと、もぞもぞしているが本人がその気になれば簡単に引き剥がせるはずなので放置しよう。


「先輩、このマッドな人は誰っすか?」


「エマ。リシルの研究所の職員でこれからはリシルと一緒に私たちの装備とか作ってくれるよ」


「そうなんすね! よろしくっす!!」


「……よろしく」


 七海の声はいつも通り軽いのに視線はエマの指先と足運びを拾っていた。興味本位だけじゃない、危険度の測り方が戦いを想定しているような感じだ。

 エマは私に向けていた視線を外し話の中心から一歩引いた位置で頷くだけだった。愛想はない。けれど、それが逆に本音に見える。

 少なくとも今は余計な芝居をしないつもりらしい。


 まあ、そのうち打ち解けていくだろう。――打ち解ける、というより慣れる、かもしれないけど。


「あ、そういえば私、アメリカ代表だけど居て大丈夫?」


「代表になってたのか……別に構わないけど、情報漏らしたらリシルは没収ね」


「……絶対に何も言わない」


「エマちゃん……そろそろ離して……」


 リシルが珍しく弱い声を出している。

 逃げようとしているのに腕がほどけない。エマの抱き方は乱暴じゃないのに逃がす気は一切ない。

 あのリシルが強く出れていないのを見るとリシルもエマの能力を高く評価しているのだろう。

 技術者として、使える駒として、という意味でも。


 ……エマをもっと強くすれば、リシルの吸血対象にすることができるのでは――と、考えが浮かんだ。

 悪くないかもしれない。強くなれば自衛にもなるし……日本に戻ったらもう少し真剣に考えよう。今はまず目の前の面倒を片づけるのが先だ。


「そうだ、ちょっと『連合会』の部屋と凛花さんの部屋に言ってくるね」


「……何しに?」


 沙耶が疑り深い目で見てくる。何もやましいことは無いのだが……言葉だけだと信用されないのも分かる。

 この際だから沙耶も連れて行こう。一人で動いて変な誤解を増やしたくない。


「盗聴器と監視カメラを破壊しに。沙耶も一緒に来て手伝ってよ」


「あー……一応日本代表だもんね、うん、行くよ」


 盗聴器などが仕掛けられているのは私たちの部屋だけではないと思う。確認ついでに、見つけたら片っ端から破壊する。

 仕掛けていた奴らには代表者を再起不能にすると言ったが痛めつける趣味は無い。

 手も足も出させない戦いをするだけで十分だ。結果として力の差を実感して心が折れるなら、それは勝手に折れただけだ。



 予想通り、他の皆の部屋にも仕掛けられていた。

 この調子ではエントランスやレストランにも仕掛けられている可能性があるので、作戦や重要な情報の話は自室以外でしないように伝えた。


 結構色々なところが必死になって手をこまねいているのだな、と思った。

 自分の国の力を見せつけて国際の場で優位に立とうという魂胆が丸見えだ。

 人と人同士で戦っている場合ではないと思うんだけれど、これは――ただの私の理想なのだろうか。


「なかなか難しいなぁ……」


 エントランスに併設されているカフェでため息を吐いた。

 沙耶には先に戻ってもらっており、私一人で来ている。試練場から帰ってきてからはずっと誰かと居たので、一人で取り留めのないことを考えるのは久しぶりに感じた。

 カップの縁に指を添える。珈琲の温度はちょうどいいのに何だか落ち着かない。周囲の会話は英語が多く耳に入っても意味を理解するのが追いつかなかった。


「ヘイ、レディ。一人カ?」


「ん……? 私に言ってる……?」


「ソウダ。ジャパニーズハ慣レテナクテナ……」


 長い金髪の筋骨隆々の女性が私に話しかけてきた。

 ――デカい。エルアより身長も肩幅も大きい。立っているだけで存在から圧を感じる。

 通りすがりの客が一瞬だけ視線を向けて、すぐ逸らしていく。普通の人なら近寄りたくないだろう。


「なに? ナンパならお断りだよ」


「ハハハッ! 聖女、礼ヲ言イタクテ言葉ヲ覚エタンダ」


「特に何かした覚えないと思うんだけど……初対面だし」


「ソウダナ……。ソレデモ私ハ礼ヲ告ゲヨウ。感謝シテル」


「人違いだと思うけど……」


 こんな大柄な女性と会ったら間違いなく覚えているはずだ。全く記憶にないというのは本当に会ったことが無いのだろう。

 それに、身にまとっている雰囲気が常人の物ではない。視線が揺れず立ち方に隙がない。かなり強いハンターなのだろう。


 観察をしていると手が差し出された。指が太く、無数の傷が刻まれている。


「日本デモ友好ノ証ニ、ハンドシェイク――握手ヲスルンダロ?」


「うーん……別にいいけど……」


 差し出された握手に応じた瞬間、不敵に笑った。

 次の瞬間、魔力が動いたのが分かる。空気の密度が変わるみたいに肌がざわついた。それが目の前の女性から発せられた魔力だと理解するのに時間は要らなかった。握る手の圧も一段上がる。


 目を凝らすと、魔力の循環を二方向で回しているのが見える。私が講座で世界に発信したのは一方向だけの循環のはず――まさか、自力で辿り着いて、使いこなせるまで鍛錬したのか?

 ミシッ、と握手している手が軋む。骨が鳴る一歩手前の圧だ。痛みを感じる前に嬉しさが来て、思わず笑みが零れる。


 礼には、礼だ。

 体内の四方向で回している魔力の循環を見えるように、魔力を体外に滲ませる。派手に解放する必要はない。この相手に見える程度で十分だ。

 大柄な女性は目を丸くして言った。


「ジーザス……」


「そこまで研鑽した褒美だよ。まさか――そこで満足するわけじゃないよね?」


 目の前の女性からは自身の強さに対する絶対的な自信が感じられた。確かに、強い。

 でも、もっと先がある事を知らせてあげよう。強さで先に立つ孤独は今も、回帰前も嫌と言うほど知っている。誰も追いつけない場所は景色がいい代わりに孤独だ。

 

 魔力の循環に関する理論はルトリエから明かされたが、まだまだ先があるらしい。

 私自身もう少しで次の段階に至れそうな感触がある。けれど、こっちに戻ってきてからこれ以上に強くなる必要があるのか? と疑問が浮かんで、モチベーションが下がっていた。


 そんな考えも今、吹き飛んだ。

 ちゃんと着いてきている者が居る。それだけで十分だ。独りじゃない。追ってくる者がいるなら私が前に進む理由になる。


 力を入れて握り返す。大柄の女性の表情に苦痛が混じる。笑っているのに眉がわずかに寄る。

 やがて力が弱まったのを感じ、私も力を弱めて握手が終わった。握り終えたあとも手のひらが熱く相手の体温が残っている。


「ハハッ……ハハハッ! 急ニ、スマナカッタ」


「うん。これ以上魔力を解放し続けると建物が壊れちゃうからね」


「出ルンダロ?」


「出るよ。どっちも」


「ソノ時ハ――本気デ、頼ムゾ」


 余計な言葉は不要だった。

 そう言って大柄な女性は席を立って去った。歩くたびに床がわずかに鳴り、視線が集まるのに本人は気にしていない。

 私はその背中を見送ってから、ようやく息を吐いた。

 少しだけ、ほんの少しだけ国際交流戦が楽しみに思えてきた。


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― 新着の感想 ―
アツいなぁ~。正直地上にアキラに匹敵する人間がいるとは思えなかったけど、そりゃそうだよな。地上の人間が一番研鑽の積み方知ってるしな
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