149話--交流戦の詳細--
引っ越しが完了して三日が経った。新しい家にもだいぶ慣れてきたが、まだ廊下の角を曲がるたびに配置を思い出す必要がある。
この三日間は、新しい家具を作ったり、ゲート部屋で皆が魔力を増やして順応していくのを眺めていた。
特に戦闘をすることはなく日々が過ぎた昼下がり、呼びベルの音がしたので玄関に向かう。
暇しているのが私しか居ないため、ここ三日間の来客対応は私の仕事となっている。
皆は各々の部屋かゲート部屋に籠もっているし、呼びに行く手間を考えると私が出るのが一番早い。
「はーい」
返事をしながらドアを開けると相田さん達と公募で来た六人が居た。
外の空気が一気に流れ込み、玄関先が少しだけ冷える。
林さんが紙の資料を持っており、四日後に控えた国際交流戦絡みで来たことは明白だった。
「おう、嬢ちゃん。今時間大丈夫か?」
「大丈夫だよ。エントリー予定の沙耶とカレンを呼んでくるからリビングで待ってて」
「ありがとうございます。お邪魔いたします」
林さんが挨拶を言って上がる。靴の揃え方も丁寧で、他の皆もちゃんと礼儀がなっているようだ。
ゲート部屋に行って沙耶とカレンを呼んでリビングに戻る。扉を開けると魔力の圧が肌に触れ、息が少し重くなる。
人数分の茶を――いや、やめておこう。引っ越してから配置が換わっているので、また変なものを出してしまう可能性がある。
こういう場合は下手に動かないほうがいい。
「お待たせ~」
「ん。来た」
沙耶とカレンが私の部屋を経由してリビングに来たのを確認して全員に座るように促す。
椅子を引く音が重なって紙が擦れる音が続いて部屋が一気に会議っぽくなる。
林さんが手に持っていた資料を全員に配り、迷いなく説明を始めた。見出しの太字と、細かい注意事項がびっしり並んでいる。
「では、始めます。開催地ですが今の日本には開催をするほどの設備とリソースが無いため外国での開催となります」
「開催地はどこなの?」
「詳細は伏せられており分かりませんが、多分アメリカのどこかでしょう。向こうからこちらへ迎えが来るそうです」
「へぇ……」
アメリカ、となるとリシルが暗躍している『秘密の錬金術士たち』の本拠地でもある。
回帰前でもいち早く魔石を用いた技術を使って世界に幅を利かせていた。彼らが表向きの運営だけで終わるとは思えない。
「続けます。個人戦は三日間にかけて行われます。団体戦も同様に三日間です。勝ち上がり方式のトーナメントでルーザーズマッチもあります」
「……明確に順位を付けるって訳ね」
「そうです。本当に国の格付けがされます。それと、交流戦の様子は全世界で生配信されます」
本当に興行のひとつとして成り立たせられるらしい。
試合の勝ち負けだけではなく見世物としての価値も求められている。
誰が個人戦を勝つか、どの国が団体戦を勝つか、賭けが公式で行われている。
沙耶が調べてサイトを見せてもらったが私の個人戦の倍率は二倍で全体で見ると四位だそうだ。
名前の知らない者が私より上に三人いる。
沙耶が言うには一位はハンターランキングなるもので不動の一位を取っている人だとのことだ。二位と三位はその一位のパーティーメンバーらしい。
海外のハンター事情まで知っているとは流石だ。
「嬢ちゃんにお願いしたいことが一つあるんだ」
「何? 殺さないようには極力気を付けるけど……」
「ぶちかませ。派手にやって構わん」
相田さんが悪そうな笑みを浮かべた。
言い方は乱暴だが肩の力が抜けた感じがしていて安心した。
この前まで色々と悩んでいた者の表情ではなく全て吹っ切れた者の顔であった。
「――任せてよ。好きにやるね」
「あぁ。頼んだぞ」
「不用意な殺しは本当に国際問題になり兼ねないので最善の注意を払ってくださいね」
「うん、大丈夫だよ……たぶん」
他のハンターたちの強さが分からないのが一番怖い。
相手が強いのか弱いのかすら分からない。
手加減が下手な自覚がある以上、事前にできるだけ情報を集めたい。
「ねぇ、沙耶。他国のハンターってどのぐらいの強さなの……?」
「うーん……動画とか配信見てるけど編集とかで明確な強さは分からないんだよねぇ」
「そうだよね……誰か分かる人いる?」
――返答がない。皆の視線が資料に落ちるだけで誰も断言できないらしい。
未知数の相手ということか。油断せずに真面目にやるとしよう。
その後は迎えが来る日の集合時間などの話をして解散となった。注意事項の確認が続いて最後に持ち物と連絡手段の話した。
人が帰っていく足音が消えると、家の中が途端に広く感じた。
静かになったリビングでソファに一人で腰掛ける。背もたれが新しくて硬く、まだ馴染んでいない。
「ねぇ、ラスト。いつまで首飾りでいるの?」
「……バレておったか」
じわり、と空間に滲むように私の首にかかっている黒い鎖のネックレスが溶けた。冷たい金属の感触が消え、代わりに人の気配が隣へ移る。
瞬き一つするとラストが私の隣に座っていた。近い。肘が当たりそうな距離だ。
「迷惑じゃったか……?」
「うーん、特には? ただ、いつまでそうしてるのかなって気になっただけ」
「ならばもう少し肌に近い物――下着とかでも構わんか?」
「うん。それはダメ」
頬を赤らめて言うラストの言葉を私はばっさりと斬った。言い切ってから念のためにもう一度だけ視線で釘を刺す。
相変わらず変な方向で執着しているようだ。許可の線引きをしておかないと気づかないうちに下着に化けていて、気づかずに履いてしまいそうだ。
「首飾り、腕輪、指輪の三種類以外は認めないからね」
「ぐぬ……本当にダメか……? 妾はもっとお主と――」
「その三つならいつまでもいいよ」
何やら甘言が漏れ出てきそうな雰囲気を醸し出していたので遮る。
余計な方向に話が逸れる前に切るのが一番だ。
言いたかったのかラストが口を尖らせた。拗ねた顔が分かりやすい。
「ちゃんと言いつけ守れたらご褒美あげるから守ってね?」
「……うむ! 忘れるではないぞ!」
ラストが柔らかく笑って首飾りに戻った。首元に重みが戻り、ひんやりした感触が肌に触れる。
私を守りたい気持ちもあるのだろうから邪険に扱うつもりはない。下着は嫌だけど。
窓から差し込む夕日がリビング全体を赤く灯す。床に伸びる影がゆっくり動いて、時間が進んでいるのが分かる。
「シャッター閉めるか……」
重い腰を上げてボタンを押す。壁のスイッチに指を当てると、カチッと小さな音がした。
シャッターが自動で降りてきて部屋が真っ暗になる。
明かりをつけようと歩こうとしたら何かを踏み抜いて少しばかり痛かった。足裏を押さえて一歩だけその場で跳ねたが、誰も見ていないはずだ。




