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144話--観光と帰宅--

 その後は時間に追われることなくのんびりと過ごした。

 四人を日替わりで一人ずつ安全地帯内を案内したこと以外は何もなかった。

 強いて言うなら、みんながそれぞれのペースで屋台を覗いたり、休憩所で他パーティの装備を眺めたりしていた。

 

 案内と言っても初日に行ってない場所なんてジャックの家と交易所ぐらいだ。

 広間の店並びも一周すれば覚えられる程度だし、案内した翌日には皆、自分たちだけで歩き回れるようになっていた。

 

 四人目の小森ちゃんをジャックの家に案内した時にジャックが「俺の家は観光地じゃねぇんだぞ……」とぼやいていたのは記憶に新しい。

 玄関先で頭をかきながらも結局お茶を出してくれるあたり、本当に面倒見がいい。

 四人とも順番に同じ説明を受けていたので、三回目あたりからは私とジャックの方が気まずかった。


 ジャックに私が初めて十五層から出た時からどのぐらいが経ったか聞いたが十九年ぐらいと言われた。

 この試練場自体が神の保護があるらしく、歳をとりにくくなるとのことだ。

 本来であれば安全地帯でゆっくりと更に強くなって次の階層へと行くのが正しい試練場の進み方だ。と呆れた口調で言われた。

 確かに、初見で最深部まで駆け抜ける方がどうかしているのだろう。自覚はあるが、今さら素直に頷くのも癪なので聞かなかったふりをしておいた。


 通りでジャックが歳をとっている感じがしないわけだ。ここで暮らしている人たちも、見回せば若い顔が多い。

 私もこの中に七年居たらしいけど全然老けていなかった。

 むしろ肌艶は増している気がする。環境が良いのか、魔力が美容液みたいな働きをしてるのかは知らないけれど。


 気になるのは十九年と言う数字だ。私が十五層を離れてから七年弱、地球に帰ってから過ごした時間は十二時間程度。

 つまり地球の一時間でこっちの一年ほどの差がある。

 でも、私の時はこっちの七年が地球の一時間だったような……? 時間の感覚を思い返してみても、どうにも帳尻が合わない。


『回答します。個体名:ルトリエが居なくなったことで時間の流れが正常になりつつあります。正常である場合は時間感覚は地球と同じです』


 流石【全知】。当然のように答えをくれる。

 試練場にいると老化が遅くなるみたいのは何かあるの?


『回答します。時空の神と運命の神による複合された権能の影響です。中にいる者に等しく時間への抵抗が付与されます。体感時間は同じのまま寿命に関わる老化などを十分の一に低下させます』


 思っていた以上に複雑な仕様だ。

 複数の神が力を合わせて世界を作り出しただけある。

 ぼんやりと【全知】の回答を聞いていると、ふ、と引っ掛かりを覚えた。正常になりつつある……? つまり今の時間の流れは――。

 さぁっと血の気が引くのが分かった。【全知】の声が頭に響く。嫌な予感ほどよく当たる。


『回答します。現在はこちらでの一日は地球での一時間です。試練場に来てから地球時間で六時間が経過してます』


 ……良かった、のか? 最初に聞いていた比率よりはだいぶマシだが、六時間分のズレがあるのは事実だ。

 徐々に地球と同じ時間の流れになるということは後ろに予定が詰まっているときに気軽に来れないな。魔力の濃い分、修行には向いているが地味に扱いづらい仕様だ。

 とりあえず今日は親方のところに行って装備を受け取ったら地球に帰ろう。

 余計な寄り道をしている場合じゃない。


 親方から皆の装備を受け取って気持ち上乗せして制作費をこっそりと払った。

 日本円に直すと相当な金額であり沙耶に勘付かれると根掘り葉掘り聞かれそうな額だ。私の装備を作った時の三倍とだけ言っておこう。命を預ける装備だと思えば安い……ことにしておく。


 カードに魔力流して残高を確認したが、それでも全然減っていない。

 桁が一つぐらい間違っているんじゃないかと二度見したぐらいだ。

 

 こっちでしか使えない金貨なので、これが地球でも使えれば……と思ったが地球の方でも回帰前に得たゴールドを大量に持っていることを思い出して考えるのをやめた。どちらにせよ、使い切れない数字だ。

 魔界に行く前に次元の袋、救貧で米と野菜の購入で結構使ったがまだ半分は残っている。

 

 久しぶりにハンター同士で売買できるサイトで衝動買いでもしよう。装備や素材を眺めるだけで結構楽しい。

 まだサイトは残っているかは沙耶か七海にでも聞けば分かるだろう。二人の方が最新事情に詳しいだろう。

 そうして転移石のある広間へ考えながら歩みを進めているといつの間にか目の前まで来ていた。

 

 全員が揃っているのを確認して追加されている『地球に戻る』を選択する。転移石の表面に触れると、薄く光の膜が張った。

 いつもの転移の感覚の後、見慣れた光景が帰ってきた。


「うっっっっす!?」


 第一声はアリエスだった。

 飲もうとしている飲み物が薄かった……と言うわけではなさそうで非常に息苦しそうにしている。

 肩が上下していて呼吸が上手くつかめていない。

 その症状に見覚えがあったので外に漏れ出ないように抑えていた魔力を少しだけ制御を甘くした。

 空気中の魔力濃度を試練場に居たときに近づけるイメージで。


 突然の魔力の奔流にアリエスを除いた六人が臨戦態勢をとった。うん、良い反応だ。各々が反射的に魔力を巡らせて身構えている。

 ……ではなくて息苦しそうにしていたアリエスを見る。


「貴女本当に規格外ね……その魔力だけで私よりあるじゃない……」


「魔力中毒の反対の魔力欠乏症でしょ? 地球は試練場と比べて魔力が薄いからね……」


 私も魔力が増え始めた頃に息苦しさを感じたことがあった。肺の奥が空回りしているみたいで妙に不安になったのを覚えている。

 あの時は魔力濃度の高いダンジョンに居た方が身体的に楽だった。外に出た瞬間に息苦しさがぶり返したぐらいだ。


「なった事がないから対策が分からなかったわ……いつまでも魔力を解放してもらうわけにもいかないし、貴女たちはどうやって対策してるの?」


「魔力操作を頑張って体から魔力が漏れないようにすれば欠乏症は感じなくなるよ」


「……魔力量が多いと難しくない? それ……」


「ん。やっぱり怠惰に生きてきたクソエルフ……?」


「言ってくれるわね。五分よ、それ以内に順応するから待ちなさい」


「じゃあ徐々に放出してる魔力量を少なくしてくね」


 カレンがプライドを傷つけたのかアリエスがやる気を見せた。

 相変わらずアリエスに口が悪いが、これは嫌悪からくる悪さではなく扱いが分かってやっている気がする。

 魔力操作をしてるアリエスを見て生暖かい目をしている。さながら折りたたみケータイから最新スマホに変えたおばあちゃんに操作方法を教える孫のようだ。比喩としてどうなんだろうと思いつつ、妙にしっくり来てしまう。


「今年寄り扱いしたわね?」


「こっわ、なんで分かるの?」


「否定ぐらいしなさいよ……貴女、考えてることが顔に出やすいのよ」


「……そうなの?」


 沙耶たちの方を見ると全員頷いていた。そうなのか……。

 これからはなるべく気をつけよう。と心の中でだけ決意する。


 そうこうしているうちに宣言の五分が経ち、放出してた魔力を完全に抑え込んだ。

 ふう、とアリエスが息をついて立ち上がる。さっきまでの苦しそうな様子が嘘のように落ち着いていた。


「なるほど、欠乏症は自身の魔力が濃くて空気中の魔力が薄い時に均一を保とうとする魔力が体内から空気中に逃げることで起きるのね」


「原理は知らないけど多分そう」


「だから外に漏れ出ないように意識して操作すれば症状は起きない……と」


 研究者らしく考察を述べるアリエス。言葉にするとただの理屈なのに、さっきまで実際に苦しんでいたのを見ているから説得力がある。

 それを見たカレンがアリエスに近づいて行った。


「ん」


「何すんのよ!?」


 カレンがアリエスの左肩を人差し指で突くとアリエスから魔力が漏れ出した。肩先から煙みたいにじわじわと漏れ出していく。

 新しい玩具を見つけた子供のような笑みを浮かべカレンは言った。


「ん。操作が甘い。もっと偏りを無くさないと今みたいに外部刺激で漏れる」


「ぐぬぬぬぬ、自分の子孫に言われるなんて癪ね」


 この調子ならアリエスはカレンに任せても大丈夫だろう。

 リシルのこともそうだし、やっぱりカレンは身内の扱いが上手い。良くも悪くも容赦がない。

 歩きながらアリエスに地球のルール等を説明した。信号の意味や、やってはいけないこと。

 「決まり事が多いわね」と言っていたが頭の良いアリエスなら大丈夫だろう。むしろ一度覚えたら私より忠実に守りそうだ。

 

 今も法律が機能しているか分からないが実家の本棚に眠ってる六法全書でも後で渡して自分で学習してもらおう。

 分厚い本の山を前にした時のアリエスの反応が少し楽しみだ。


 家に戻るとリビングのソファでイルが寝転がりながら端末で配信を見ていた。片足をソファの背もたれに引っ掛けて完全にだらけきった姿勢だ。


「ずっと見てるけど飽きないの?」


「うむ。妾と相対した人の子はお主を除いて皆、決死の表情か絶望に満ちておった……。こうして人の子の営みを気付かれる事なく眺める事ができるのは楽しいぞ」


「のめり込むのは良いけど投げ銭はダメだからね」


「む!? 聞こうとしとった事じゃったのに……禁止と言われれば仕方あるまい……」


「どうしてもしたい時は私に言ってね」


「うむ!」


 イルは分身体の中で一番好奇心が高く家電や端末などの新たしいものに興味津々だ。

 リモコンやケーブルも分解されかけた。

 

 配信に関しても投げ銭は悪ではないが意味を知らずに投げるのが良くない。

 もっと文化に触れて理解したら小遣いか何かをあげてそこから好きに使うようにしよう。お金の価値も一緒に教えないといけない。


 リビングでくつろいでいるとチャイムが鳴った。

 短く乾いた電子音が響く。

 尋ね人なんて母さんか相田さん達の二択だ。大体こういうタイミングで来るのは後者だ。


「おう……? また結構な大所帯になったな?」


「そうだね……。七人分の戸籍って作れる?」


「問題ありません。顔写真を頂ければ明日には証明書を持ってきます」


 林さんがメガネをくい、と上げながら答えた。疲れているはずなのに声は落ち着いている。

 ルトリエ含めた五人、アリエスとリシルの戸籍を作ってもらおう。あって困ることはないと思うし、むしろ無い方が後々面倒だ。


「わざわざ来たってことは何か用事があるんでしょ?」


「ああ。交流戦に参加してもらおうと候補にしていた奴らが軒並み連絡が取れなくなった」


「協会内にスパイが居たようです。気づいた時には行方を眩ませてました」


「それでだが……もしかすると嬢ちゃんたちの以外の参加者ーー公募枠のレベルが低くなり過ぎちまうかもしれねぇ」


 一難去ったらまた一難だ。

 さて、どうするべきだろうか……。


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― 新着の感想 ―
妨害してきたのが誰だか分かりきってるよね まあ、小物すぎて名前忘れてしまったが…
主人公が人類最強各なのはわかるがいまいち周りの娘達も含めて強さがわからなくなってきた。 主人公>>>>超えられない壁>>>>娘たち>>>たぶん超えられる?(ほぼ無理)>>>全人類(兵器とか含む)でいい…
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