7.いい香り?
この話を読む前にご注意を!
ご飯は食べましたか?
食べてから、少し時間は経ってますか?
もしまだなら、少しお時間おいてから読んでもらった方がいいかもです(汗)
今日も朝が来た。そして、今日もなんちゃって珈琲片手に朝日を眺める。
――眩しい。
それにしても、大豆珈琲は物足りない。カフェインたっぷりの本物の珈琲が飲みたいものだ。珈琲の木はどこかに自生していないだろうか。
「そもそも、魔界では珈琲は飲まない?」
人間界では趣向品として男性に人気だった。煙草も男性の趣向品だった。女性はそれらを好むとはしたないとされていたから紅茶をみんな飲んできた。
勝手なものだ。
男だからいい?
女は品よくしないといけない?
そんなの、知らないわ。
私は好きなように生きるし、何かを強制されたくない。
親だからとか家族だからとかで、勝手に決められたくもない。
だから、好きなものを飲んで、迷惑をかけない程度に好きに生きる。
「まあ、たばこは臭いが受け付けないから吸うつもりはないけれどね」
ともかく、何としても珈琲を手に入れたい!
今日もやっぱりゴブリンの集落へと向かう。手作り石鹸の乾き具合、熟成具合を確かめたい。
「エーレ!おはよう」
「エーレちゃん!石鹸見に来てくれたの?」
村の子供の雌たちが声を掛けてくれる。
「うん。そろそろ使えるかもって思って。ミントが爽やかな香りがしていいと思うんだ」
雌たちは目を輝かせて頷いている。これはきっと……。
「ミント以外にもいい香りのものを混ぜると、ね。ほら、体からいい香りなんてしたら……。いいと思わない?」
雌たちは更に目を輝かせ、若干鼻息が荒くなる。
ええ……。いい雄を射止めるためにはいろいろと頑張りたいよね。
「ねえ、いい香りのする草花とか、何か知らない?」
私は魔界のことは何も知らない。だったら、知っている者に聞けばいい。
「えっとね、花とかいい匂いするのはあるけどちょっとね……」
「ああ……。そうだよね。私達にはね……」
気まずそうな雌の児ゴブリン達。何かあるのだろうか。
「どうかしたの?」
「ん……。人間にはいい匂いではないみたい、なのよ」
「へ?人間には?」
「そう。ちょっと受け付けられない、と思うのよ」
「ん?受け付けられない香り?」
「ん……。実際に嗅いでみる?その、大事な時のための香水があるのよ」
「え!嗅ぎたい!」
雌たちの大事な時に使う香水とは、何だろうか。
知らないなら、知ればいい。
一人の雌が自宅へ急いで取りに行き、いざその香水の瓶を受け取った。
「エーレ、栓を抜いたら、ゆっくりと、ね。鼻を近づけ過ぎないように、ね」
そんなに?強烈なのかな?
「うん。離して、こう扇いで嗅いでみる」
手を手前から自分に向けて扇ぐようなふりをしてみた。
「あ、それなら、私たちが香水の瓶を持ってあげるから」
え?私が持たない?
「あ、落とすと大変だから。ね」
ふーん。落として割ったら大変ってことか。
「わかった。じゃ、お願いする」
雌たちの香水だからね。無茶は言わない。
「じゃ、いくよ」
「サー!イエッサー!」
勢いよく敬礼をした。
そして、雌が半歩手前に立ち、ゆっくりと栓を抜いて、ゆっくりと私に向かって扇いだ。
「う“!!!」
鼻が!もげそう!
え?なにこれ!!
めっちゃ臭い!!!
慌てて鼻をつまんでみたけれど、遅かった。
もう、鼻の奥にこの刺激臭がこびりついている。
「う“ぇ!!!」
無理だ!!
この腐敗臭?
いや違う……、これは嘔吐物の臭いだ!!!
う“えぇぇぇぇ……。
私も匂いにつられて、――吐いた。
「エーレ、大丈夫?」
「やっぱり無理だったね」
「人間はこの臭いは駄目だって森の人が言ってたもんね」
「言ってた。顔真っ青だった」
森の人って、前に児ゴブリンが言ってた魔界樹林に住む人ね。たぶん人間なんだろう。
私は綺麗な水をきれいなコップでいただいて口をゆすいだ。
確かに私が持っていたら、落として割っていたに違いない。
「えっと、これは私には受け付けられない匂いだとわかったわ……。他には何かないかな?その、人間にもいい香りだと思うものが欲しいわ」
手に入るなら洗濯の石鹸にいい匂いをつけたい。前世で言うところの柔軟剤とか香りのビーズってやつ。あんなのが欲しい。
「あ、じゃあこれは?きっといい匂いだと思う」
「そうだね!森の人も好きって言ってた!」
「うんうん。花のようないい香りだって!」
ほほぅ……。花のような香りとな?
「それを、嗅ぎたい。今すぐ!」
雌の児ゴブリンに詰め寄り、有無を言わさなかった。
「エーレ、ここからまた同じように栓を抜くから。たぶん大丈夫だろうけど、ゆっくりね」
「わかった」
場の雰囲気が、緊張に包まれた。
香水瓶を持つ雌ゴブリンの手が少しだけ震えた。
周りの雌たちもゴクリと息を飲んだ。
私は大きく深呼吸し、伝える。
「では、お願い」
ゴブリンも首を縦に振り、栓を持つ手に力が入る。
キュ……ポン!
栓を抜いた。
ゴブリンがゆっくりと手を扇ぎ……。
「わぁ!!メチャクチャいい香りじゃない!」
本当に花の香がした。
ううん、花だけじゃない。
果実の香りも若干する。
「エーレも好き?」
「うん!これが欲しい!なんの草花なの?」
「えっと……。これはね」
「うん……。これはすぐには手に入らない、のよね」
「ん?今の時期の草花じゃないの?時期が違うなら無理か……」
季節によって花が咲く時期も違うだろうし、草も枯れたようになることだってある。
「いや、これはね……」
「うん、草花では、ないんだ」
「ん~?」
「これはね、魔界樹林の虫の体液なのよ」
…………ふう――。
そう来ましたか。
虫の体液、ね……。
「エーレが欲しいなら、私たちが案内するよ」
「うんうん。ちょっとだけ、気をつけないといけないんだけど、なんとかなる……よね」
「そうだよね。いつも大人たちがしていること、見てるもん。きっとできるよ」
ほほぅ。
子供たちだけでは一度も採取できていないってこと、ね。
「大人を連れていくのは駄目なの?」
子供だけでは魔界樹林に行くのは、ねぇ。危険なんじゃないかな。
「ん……、どうする?」
「母ちゃんに聞いてみる?ほら、成人の儀式のときに使いたいって言ってたよ」
「あ、そうだね!言ってみよう!」
よかった……。
流石に私も一応十歳の子供だし、怪我をしたくないもんね。
そして、中身はそこそこ年齢いっているからさ、危険な目に子供たちを合わせるなんてできないわけよ。
「じゃあ、今からお願いしに行こうよ!」
見た目の子供らしく、無邪気にはしゃいでみた!
だって、魔界樹林に探索に行くんだよ!面白そうじゃない!
そうして、そのまま大人のゴブリン達の下へお願いをしに行くことになった。
初の魔界樹林探索。
初の魔虫。
いったいどんな虫なのだろう。
いい匂いだから、きっと可愛い見た目に違いない!
テンションが上がりまくって楽しみにしている私だったが、これが大きな間違いだっただなんて思いもしなかった。
種族によって、いい香りは異なる、ということで(汗)




