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魔界樹林のヴィヴァント・アポローグ(動植物寓意譚)~生き抜くために、改革します~  作者: 蒼宙 つむぎ


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15.学びと成人の儀

 オークの村で過ごすこと、早くも一カ月が過ぎた。


 ええ。

 いろいろありましたけどね、ゴブリンの集落のことを思えば大したことなかったんですよ。たがが、肉食生活になって便秘になったくらい。たがが、オークの子供たちの体力に遠く及ばず“ひ弱なエーレ”と呼ばれるようになったくらい。どうってことないわよ!!


 あ、文字を教わったのはとても有益だったわ。オークの間だけの文字かと思ったら、魔界の共通語だったので一度覚えてしまえばいいとわかってやる気ががぜん出たわね。

 算術もしていたんだけど、小学一年生の足し算引き算のみだった。しかも三桁までの計算。私には簡単すぎたけれども、オークの子供たちには難しかったみたい。私も先生役としてみんなの指導をしたわ。何度教えてもルドはわからないみたいで、落ち込んでた。アナちゃんはコツを掴んだみたいで、すぐに四桁まで問題なくできていたから今後は掛け算を教えたいと思っているの。九九を覚えるのがきっと大変だろうけれど、彼女ならきっとできるわ。


 そして、一番のよかったことは、魔界樹林のことを学べたことだよね。子供向けの説明だったから、ところどころ簡単に“そういうものです”と言い切られちゃったことには苛ついたけれど、掻い摘んだ話は理解した。



 魔界樹林は、数百年前に人間がやってきて作られたもの、らしい。

 樹林は六つの地帯と中央部の聖域があり、地帯は砂漠・森林・平野・湿地・渓谷・冬山に分かれる。で、ゴブリンの集落の近くに会ったのは森林地帯。オークの村のちかくにあるのは平野に当たるらしい。


 でも、私はここに来る前に平野なんて見たことないから、納得いっていなかったんだけどね。なんでも、違う地帯の境目周辺は一律同じような水場があったり果樹がなっている木が生い茂っていたりするらしい。境目であることがすぐにわかるからそういうものだと言い切られてしまって小さく舌打ちしたのは言うまでもない。


 そして、樹林を作った人間の子孫が森の人。うん。これってとある漫画にも出てきたような感じだよね。え?何の漫画かって?そりゃ、あれだよ。青い服を着た女の子が白い小さな乗り物に乗って空飛んだり、大きな虫たちが人間が暮らせない森に棲んでいて、悪いこと考えた人間が暴走させて大変なことになったけど、女の子がそれを救った……。世界的に有名な映画にもなったやつね。

 勿論、私は漫画を全巻コンプリートボックスで持っていたわよ。あれは、バイブルよ。

 あの漫画では映画以降のことも描かれていて、考えさせられたのよね。ここの森の人も、あの面白い着ぐるみを着ているのだろうか。いや、そもそもの話、魔界樹林の中では息はできるから違うよね。そして、あの漫画では粘菌が原因だった。これも違う、と思う。


 ん゛ん゛!ちょっと脇道にずれちゃったわね。えっと、森の人は樹林が六つ円を描くように配置された中央部分の聖域に住んでいるらしい。らしいというのは、魔界の者たちは誰も入ることが出来ないから、そうだろうと思っているだけだ。森の人に聞いたのかと問うと、『怖くて聞けない』と涙目で言われてしまった。


 森の人は、魔界の者たちは皆声をそろえて『怖い』と言う。けれど、人間が怖いわけではないらしい。魔界と人間界の関所ではそれなりに仲良くしている様に見えたし、実際に私はこっちに来てからだけど、彼らを知ることになって怖いと感じたこともない。


「王城では魔界人は野蛮だとか恐ろしいとか言っていたけれど……。王族の勝手な思い込みなんじゃないかな」


 ぽつりと言葉を落とす。


「ん?エーレちゃん、何か言った?」


 計算問題を一生懸命徳アナちゃんがこちらを見て話しかけてくる。


「何でもないよ。それより、アナちゃんはもう少し難しい計算をしてみようよ。きっとできると思うんだ」


 私がにたりと笑って言うとアナちゃんは耳をピンと立ててこちらを凝視してくる。


「それは、挑戦ってやつね。ええ、私、やってみたいわ」


 アナちゃんは向上心のある女の子なので、闘志がたぎるらしい。他のオークの子供たちはそこまで向上心を持つことがなかったので、アナちゃん個人の性質なのだろう。

 他の子供たちは誰と番うのかが一番大事みたい。女子はいかに可愛くみられるかを日々考え、男子はいかに自分が頼りになるかをアピールできるかを考えている。ちなみに、可愛い基準は前髪で、頼りになる男基準は狩りだそうだ。狩猟が生きていくために必須だからそうなるのだろうが、女子の前髪はよくわからなくてアナちゃんに聞いてみた。けれど、アナちゃんにも理解できないらしいのでそのうち他の女の子に聞いてみようと思う。


「ルド君は狩りが得意なの?」


 そろそろ成人の儀があり、ルドが参加する。その際に何かをするのだと言っていたことを思い出して聞いてみた。ほら、番うことを気にしていたからね。家でもやりみたいなのをずっと手入れしているし。


「ルド兄?ううん。それ程でもないかな。父さんが村で一番の狩猟頭だから期待されてはいるんだけど……。父さんも口下手だからさ、なかなか教えてもらえないみたいなんだよね」


 ベンさんは、多くを語らず背中を見て学べと言うタイプですか。それはルドが可愛そうな気もするな。


「いつ成人の儀だった?」

「えっと、次の満月の日だから……。二週間後かな」

「二週間後、ねえ……」

「うん。ルド兄、大丈夫かな。番えないかもしれないな」

「え?成人の儀で番を決めるの?」

「絶対ではないけれど、大抵はそうかな」


 この場がだんだんと重い空気になり、二人でルドの様子をチラ見してみた。相変わらず計算に四苦八苦している。これでは頼りになる男には見えないだろう。アナちゃんと視線を合わせ大きくため息をついた。


 これは、ちょっとまずいのではないか?

 ルドよ、今が頑張りどころではないのか?



 私はオークではないから彼らのことを全て理解することはできない。けれど、お世話になっている恩もある。


「なんとかするか……」


 あと二週間。できることをしてあげようと心に決めた。


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