13.オークのご家庭にお世話になります
ゴブリンの集落から自分の荷物を持ち、オークの村へと再びやってきた。雌達が荷物を持ち、私は背負われて、あっという間に戻ってきたのには驚いた。
「こんなに早く着くなんて思わなかったわ」
「ああ、エーレちゃんが疲れていると思ったのよ。長時間森にいるのは辛いだろうし、境目もね、目が回ったでしょう?」
「ありがとう。なんだろう……。森の中でほんの少し息がしにくいというか、ね。境目はやっぱり目が回ってきつかったわ」
「私たちも一日中森にいるのは体に負担があって難しいのよ。エーレちゃんみたいな華奢な子は本当に辛かったと思うわ。境目はね、私たちは何度も通ってきたから慣れたのよ。最初の頃はみんな同じだったわ。だから気にしないのよ」
「うん。……えヘヘ。ちょっと甘えるのって慣れてないから、恥ずかしいわ」
背中から下ろしてもらいながら少しもじもじとしてしまう。顔はきっと赤くなっているだろう。頬が熱い。
「あらあら、本当にかわいいわ。森の人の小さな子たちと本当にそっくりだし。あ、そうだ。手紙を書いてあげるから、少し待ってなさいね」
「ありがとう」
オークの雌達は本当に優しい。ゴブリン達も優しいけれど、心が休まるのはオークの雌達の側だと思う。
そして、ここでも気になることが出てきてしまった。森の人の小さな子って?森の人はすく数人いて、小さな子もいる。ということは、森の中に村があるのだろうか――。
「エーレちゃん、今日は私の家においで。夕飯とお風呂に入ろうか」
「お、お風呂?!お風呂があるの?!」
「あるわよ。あと、洋服も必要ね。誰か余った服持ってないかい?」
「うちの子の服があるよ。大きくなって着れなくなったから持ってくる」
「うちも見てくるよ」
数人の雌達が急いで家に確認を取りに行ってくれた。いや、ありがたい!服も新調したいと思っていたのよね。そして!何と言っても、お風呂だよ!ずっとさ……、川で水浴びだけだったのよ。私としては、ちゃんとした湯船に浸かって疲れを取りたいって言うか、癒しがね、欲しいって言うかさ。ストレスを感じていたみたいなんだよね。月の物が止まっちゃって……。ゴブリンのところではそれでよかったと思うのよ。ほら、そのための物がないからさ。
「あの……、えっと……」
「ん?どうしたんだい?」
「私、一応女の子で、えっと……、月の物もここに来る前に来たんだけど……」
ん~。こういう話って、言いにくいよね。言い淀んでしまうわ。
「あら、そうだったのね。下着とか、揃えなくちゃね」
オークの雌は頭を撫でてくれた。うん、心がほわほわするよ。
「ありがとう。でも、ちょっと止まっちゃってて。そのうちまた必要になるとはおもうんだけど……」
「そうだったの……。人間は毎月なんでしょう?オークはね、年に二回なんだよ。ゴブリンやエルフは話したがらないからよくわからないのよね。ドワーフは人間に近いから毎月あるらしいわ。ドワーフにも手紙を書いておこうね」
「はい!」
うん。オークのおかんはやっぱりいい!
そうしておかんオブおかんのリーダー的存在の雌に手を繋いでもらって彼女の家にお邪魔することになった。
オークのお家にお邪魔して、やっぱりここでお世話になることに決めてよかったと思った。ちゃんとした家だったからね!
「エーレちゃん、私の旦那と子供たちだよ。みんな、エーレちゃんだ。人間の子でね、いろいろあって魔界に来たんだよ。なかよくしてあげてね」
「エーレです。よろしくお願いします」
ちゃんと、お世話になるお家だからね、挨拶は肝心だよね。
「わぁ!可愛いね!細い!金髪ふわふわの髪!瞳の色が……不思議な色だね」
おっと……。早速私の特徴をついてきたか。
「えへへ。人間界では、よくある色だよ」
なんとなく、はぐらかしてしまった。
「そうなんだ……。森の人と同じだね。いいなぁ」
へぇ……森の人も同じ色なのかな?珍しい色の瞳なんだけどな。
「森の人に会ったことないから、わからないや」
きっと、ここには人間界の王族の事なんて誰も知らないと思う。けれど、私はまだ完全に心を許していないから言わない。
「そう言えば、皆さんの名前を伺っても?」
「私らかい?私はダーラで、旦那はベン、子供は男の子がルドで女の子がアナだよ」
「ダーラさんにベンさん、ルド君とアナちゃんね。よろしくお願いいたします」
オークさん達は名前があるようだ。よかった。会話がしやすいよ。
「エーレちゃん、よろしくね。アナと一緒のベッドで寝ようね」
「あーー!ずるいぞ!俺も一緒に寝る!」
「駄目よ!お兄ちゃんは雄だもん。エーレちゃんは私と一緒よ!」
「ルド、そんなことしてると嫌われるぞ。ちゃんと距離を取らないとな」
お!オークさん達はそのあたりはちゃんとしているんだ。
「嫁になってもらいたいなら、順番があるんだぞ。いきなりは駄目だ」
ん?嫁?順番はいいとして、いきなりとか、何言ってんだ?
「こら!エーレちゃんは人間だからね。変なこと言わない!ごめんよ、エーレちゃん。雄共は馬鹿が多くて困るね……。アナ、ちゃんと守ってやるんだよ」
「わかった、母ちゃん」
うん。雌達はちゃんとしている。これなら大丈夫だろう。きっと。
その後、ダーラ母ちゃんが豪快に肉を焼いた夕ご飯を食べてお腹がいっぱいになった。野菜がほぼ無かったのが気になるけれど。う~ん。便秘になるかもしれないな。
「エーレちゃん、お風呂に入ろう」
アナちゃんが誘ってくれた。
「そうだね、アナが一緒なら大丈夫だろう。行っておいで」
「「はい!」」
大きな返事をハモらせて思わず笑っちゃった。
そして、アナちゃんに連れていかれたのは露天風呂だった!贅沢かよ!
「うわぁ!すごいね!」
「ふふ。こんなお風呂は初めてでしょう?入り方を教えてあげるね」
彼女は湯船に浸かる前に体を洗って汚れを落とすことを教えてくれた。なんというか、日本のお風呂の文化そのものだ。こういうのって安心してしまう
そして、アナちゃんがお姉さんぶっていて可愛い。
「エーレちゃん、初めてなのに慣れている感じだね」
「あ~。人間界にいるときに本で読んだの。遠い国のお風呂の事かいてあったなって思い出したのよ」
「そうなんだ!人間界も広いのかな?遠い国とか面白そうね」
湯船に浸かってまったりと彼女と話していると、オークとかどうでもいいやって思ってしまう。感覚が人間に近いからだろうか。
「エーレちゃん。お兄ちゃんには気を付けてね」
「ん?藪から棒に何?ルド君は危険なの?」
「ヤブカラボウ?よくわかんないけど、お兄ちゃんはもうすぐ成人の儀式をするのよ。だからお嫁さんが欲しくてね。雌が気になって仕方ないのよ。雄って、獣よね」
おっと……。それは良くありませんな。
前世の“黒木 美穂子”の頃、全く恋愛ごとに関与していなかったので男女のあれやこれを知らない。とは言え、自分の身を守るのは、最後は自分しかいないとも思うからね。それなりの知識はある。
「獣……。怖いね。私は誰とも結婚するつもりはないからな……。アナちゃんやダーラさんと離れないようにするわ」
「うん。そうしてね。けれども、結婚はする気無いの?」
「あ……。うん。今のところはね。まだ子供だし、じっくり考えてその気になったら、かな。アナちゃんは?」
「私も同じ。子供だから急がないかな。雄もここの村だけじゃないしね」
アナちゃんは思っていたよりしっかりしている。人間もそうだけれど、女の子の方が精神年齢が高いというのは間違っていないと思ってしまった。




