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欠陥聖女の借金生活  作者: 文月風月
第1章 見習い聖女の借金
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1-4

荘厳な装飾が施された聖堂の最上階へ向かって、二人の少女が歩いていた。


見習い聖女から正式な聖女として認定された彼女たちは、聖女として活動する場所と内容を大司教ファリスから通達してもらうために、最上階にある司教の執務室へ向かっていた。新調した純白の聖服に身を包み、身長と同じくらいの大きさの聖杖を二人とも手にしている。だがその表情は、これ以上ないほど正反対だ。


「ねぇねぇユフィ」


「……話しかけないで」


ユフィリアは答えながらも、前を向いたまま足を止めない。背筋はぴんと伸び、聖杖を握る手は整然としている。アイリスと同じく十歳で見習い聖女となった彼女だが、生まれたときからベルナレニス教会で育ってきた生え抜きだ。十二歳の時点でフェーズ1の回復魔法を習得し、十五歳となった今ではフェーズ2の回復魔法すら難なく発動させることができる史上最高の秀才――それが聖女ユフィリアである。


かたや、アイリスはといえば。


十歳で両親に売り渡されてベルナレニス教会に引き取られて以来、朝は起きず、講義はほとんど欠席、見習い聖女としての仕事も適当。さらには五年のあいだ、一度も回復魔法の発動に成功したことがなく、司教や他の聖女たちからは欠陥聖女とまで呼ばれてきた。


いや、呼ばれていたはずだった。


聖女昇格の儀にてアイリスが見せた自己回復能力。それは聖女の能力の原理原則を大きく逸脱していた。さらには大司教ファリスが放った火炎魔法。元々聖女だった司教に、攻撃魔法の能力は備わっていないはずなのだ。


「何なのよ、あんたも大司教様も……!」


「ねぇ、私トイレ行きたいんだけど」


「後にしなさいっ!」


最上階に唯一存在する部屋の扉をユフィリアがコンコンとノックすると、「どうぞ」という穏やかな声が返ってくる。ユフィリアは扉を開けて一礼してから部屋に入り、アイリスはふわぁぁと欠伸をしながらずかずか続いた。


大司教ファリスの執務室は、ユフィリアにとっては緊張する空間なのだろうが、過去に何度も呼び出されているアイリスにとっては、もはや何の感情も湧かない場所だった。部屋の中にはファリス以外の司教も何人か佇んでおり、彼女たちの視線はユフィリアではなくアイリスに向けられていた。


「ご苦労様です、聖女ユフィリア。聖女アイリス」


「と、とんでもないです!」


ユフィリアが畏まってぺこぺこ頭を下げている。アイリスは軽く手を上げた。


「今日は、これから聖女として活動してもらう場所と内容をお伝えするために来てもらいました」


聖女の活動内容は主に二つ。世界各地に点在するベルナレニス教会に在籍し、回復魔法を施す医師のような役割か、魔物狩りや資源発掘を生業にする冒険者集団に在籍し、仲間の傷を癒す役割か、だ。


「聖女ユフィリア。あなたには、ラスガルド王国の王都に向かってもらいます。ギルド所属の聖女として、S級の冒険者パーティに同行してください」


「は、はい……!」


「ラスガルドって、世界最大の王国じゃん。すごいねユフィ」


「ま、まあね……」


ユフィリアが嬉しそうに頬を赤らめるのを見て、アイリスも口の端を上げた。


「そして聖女アイリス。あなたには、朗報があります」


にんまりとほほ笑んだ大司教ファリスが、五枚の紙を机の上に並べた。


「朗報……?」


「良い知らせ、という意味です」


「いや、言葉の意味は分かりますけど」


手招きされたアイリスは、大司教の柔和な微笑みに薄ら寒いものを感じながら机に近づいていく。そこに並べられていたのは、中年太りした貴族のような男や、顔に傷跡を刻んだ初老の軍人のような男の写真だった。名前もメッセージもない。まるでお見合い写真のようにも見える。


「……誰ですか、このオッサンたち」


「全員、あなたの夫候補ですよ」


「……………フッ」


大司教の言葉を鼻で笑うアイリスを、周囲の司教たちが鋭く睨みつける。冗談だと思っている小さな聖女に対し、大司教ファリスは過去一番の真面目な顔で告げた。


「あなたには、この中から誰かを選んで結婚してもらいます。まあ、我々としては全員でも構いませんが」


「い、いやいやいやいや、ムリムリムリムリ」


全力で首を横に振るアイリスの横で、ユフィリアが笑いを堪えて体を震わせている。


(よし、後で殴ろう)


「何も心配はいりませんよ」大司教ファリスが幼児にかけるような優しい声を出す。「どの男性も、血筋のしっかりとした貴族ばかりですから。仕事をする必要はなく、ただ子供だけ産めばそれでよいのです」


その場から逃げ出そうとファリスに背を向けるが、司教たちが扉の前に立ちふさがり、退路を塞いでいた。


「……とはいえ、いきなり結婚しろと言われても戸惑うのも理解できます」


「当たり前です」


「では、あなたにもう一つの選択肢を与えましょう」


絶望的な顔でお見合い写真を見つめるアイリスに笑いかけながら、ファリスがもう一つの提案を持ち掛けた。

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