98 チャージおかわり
明日は土曜日なので、昼過ぎ~夕方に更新します。
”炎の檻”
何と、開幕から問答無用でサーリャさんが、炎魔法でこの部屋を囲った。今や私達は炎によって、外界と完璧に隔絶されている。ちょっとちょっと、私達はどうするの!?私が驚いて固まっていると、サーリャさんは次の魔法を唱えた。
”アクアベール”
焦ったが、炎で部屋を覆って敵を閉じ込めて、自分達は水で覆って動けるようにした訳である。これが数多の戦いをしてきた冒険者か……。
ギルドの講習会で、職業の特性を学んだことが有るのだが、持続する効果の物は、通常はいくつも魔法を同時に行使するのは難しいらしい。
同時に複数の事を考える事が出来るのは、並列思考が出来る人だとか。私は常人なので一つの事しか出来ない。セイカさんが以前四つの魔法を同時に使っていたが、それはそれ。
要するに、サーリャさんもセイカさんも優れた魔法の使い手だという事だ。
「”支配の王笏”」
私が念の為に持ってきた”支配の王笏”の先端から黒い荊が伸びてきて、ヴァンパイアを捕える。そこをイクリスさんとガイアスさんで銀を塗布した武器で攻撃しようとしたが、蝙蝠に化けて体を霧散させチリッっと掠っただけだった。
”支配の王笏”は名残惜し気に荊が縮んでいく。
とは言っても、そこからプスプスと煙が立ち浸食をしている。体を分散させたは良いが、この閉じられた空間には行き場が無い。
サーリャさんの炎の檻も、徐々に狭まって来た。
あとの仕上げはセイカさん任せーーーーーーーと言った所で邪魔が入った。何をか言わんや、ベルジュである。
『ちょっと待てい!』
この状況で!?
『以前のレッサー・ドラゴンの時に、かなり呪いの力を使ってしまった。チャージしたいから、しばし待て』
呪いの……チャージ……。
パワーワードだな。
「あ、はい」
セイカさんも毒気を抜かれて、聖なる書物を下げてしまった。
『ぬんっ』
ベルジュが腕を前に出すと、蝙蝠から黒い霧なような物が、どんどん吸い込まれていく。その様子は、さながら竜巻の様であった。
《くっ、私のような高貴な者に、何と非礼な……!》
非礼も何も、多分ベルジュの方が格は上なんだよなぁ。黒い霧は吸い込まれていく量がどんどん減って行く。ある程度吸い込んだところで、ベルジュの動きは止まった。良い感じで集まったのだろう。
『それ、小僧もういいぞ』
「あ、はい、”聖なる賛美”」
セイカさんが唱えると、辺りは太陽よりも眩しい白い光に包まれた。
《ぎゃああああ》
ヴァンパイアはもう蝙蝠の姿すら取れなくなったらしい。聖なる光に照らされて、プスプスと体が焼かれている。叫びと共に全身が焼かれたかと思うと、サアッと灰になって、服以外は残らなかった。
見ていて、あまり気持ちの物じゃ無いな。
「思ったよりも、早く終わっちゃいましたね?」
「あー……はい。サーリャさんの魔法が非常識だったのと、ベルジュさんが途中で呪いを吸い込むなんて言うと思わなかったので。聖遺物は殆ど意味無かったですね……」
セイカさんが「あんまり出番、無かったな」と呆然と言った感じで呟く。せっかく嫌ってる神殿で、一週間も奉仕したのにね。でも、それは、みんなが優秀過ぎたと言う事で。
流石の私も、ベルジュがあんなタイミングでチャージしたいなどと言うとは思わなかったけど。
「それにしても、どうしましょう、この宝石たち」
大きめの宝石箱に、結構な数の宝石が有った。数を見ると、どうやら把握してなかった被害も有ったようだ。
これが、今回の犠牲者たちの血液なのであろう。
ヴァンパイアの言う事が本当なら、麻薬のような効果が有る。もちろん、市場に流せるわけは無い。
「神殿で一つずつ解呪になります。これだけあると面倒ですね」
セイカさんがため息を吐くと、サーリャさんがセイカさんの脇腹をつつき始めた。
「どうせ、あなたが手伝うんでしょ~。いくつも同時に解呪出来る神官なんて、そう居ないんだから。断言しても良いわ、絶対呼ばれるわね」
「そんな断言はいりません」
セイカさんが心底嫌そうな顔を作る。まあ、この二人がわちゃわちゃしてるのはいつもの事なので、放って行こう。
宝石箱をガイアスさんが手に抱えると、部屋を後にした。
ヴァンパイアはこの部屋で一人きりで、何を思っていたんだろう。
薄気味悪さを感じて、私は腕をさすった。




