97 鉄塔の中の不協和音
前日に出先から帰って来れなかったため、お昼すぎ更新となってしまいました。申し訳ありません。昨日読めなかった方は、96まで戻ってからお読みくださいませ。
可能なら夕方にもう一回更新します。
セイカさんはその後、一週間ほど神殿で奉仕をしてきた後に、ようやく解放されて聖遺物を借りて来た。かなりゲッソリしている事からして、そうとう酷使させられたのだろう。
その間にも一人被害が出てしまい、早急な解決が望まれている。流石に被害者が多くなってきてしまい、詳細が知らされなくても、街の人間にも不安が広がっている。
要するに、速やかに解決せよという事だ。
”氷雪”会議室で地図を広げ、事件が起こった地点をマークしていく。分布図を調べると、とある使われていない鉄塔のある一定の距離で犯罪が起きている事が分かった。
「人が隠れる事が出来るのは、やはりここですよね」
「一般市民に紛れてたらお終いだけどね」
セイカさんが地図の一点を指すのを見て、サーリャさんがツッコミを入れる。私も一回顔を見たとはいえ、大勢の中から探せと言われれば自信がない。鉄塔に一回は行ってみるべきだとは思う。
「とりあえず、怪しい所から探そう。ダメなら他の所を探せば良い事だ。まだ、捜索を始めたばかりだからな」
イクリスさんの提案に、全員が頷く。まだ陽は落ちておらず、空はマジックアワーを映している。完全に暗くなる前に行動しよう。
店を出る時に勘定を払うと、私達は鉄塔を目指す。入り口は錆びており、建付けが悪い。無理矢理開けると、扉がギィーッと悲鳴をあげた。
「本当に、こんな所に住んでるんですかね……」
「ドアを入り口と使っているとは、限らないがな」
私の呟きに、ガイアスさんが返事を返してくれる。
ドアでなければ、窓から出入りしているって事?
鉄塔の螺旋階段を昇る事10階。皆は余裕だが、私の太腿は、もう悲鳴を上げている。てっぺんまでもう少し、と言う所で、豪奢な部屋が現れた。カーペットも赤なら天井も赤。天蓋ベッドの布さえ赤だ。距離感が狂わされて目が痛い。
《おや、無作法なお客様ですね。武装して、この塔にいらっしゃるなんて》
上への螺旋階段から、男が優雅に降りて来た。やはり美貌がこれまで会ってきた、どの人間とも比べられない程だった。いっそ暴力的で背筋が凍る。
私は、反射的にさっとイクリスさんの背に隠れる。本能的に、目を合わせたらいけないと感じたのだ。
《おや、そのお嬢さん。以前にも、お会いしましたね》
ヴァンパイアはその柳眉な眉を片方上げて、こちらを見た。
《先日も、あなたの血を美しいと思ったんです。若くて瑞々しい……中々見られないほどのお嬢さんですね》
「変態だ……変態だ」
私の口から思わず言葉が漏れる。大事な事なので二回言ってしまった。
『セルフィは特に瑞々しくもないのに、不思議だな』
「ベルジュ……」
肩に乗っているベルジュがボソッと言う。失礼な、私はまだ18歳だ。自分で言うのも何だが、鮮度抜群ピチピチで艶々である。
「色んな女性の血を集めてどうするんだ。今まではこの街で事件を起こした事は無い筈だ」
イクリスさんはジリジリと距離を縮めながら責め立てる。
《そうですね、ここまで来たのですから目的だけでも、教えて差し上げても宜しいでしょう》
男は懐から赤い宝石を出す。
『セルフィよ、”解析”してみい』
「あ、うん」
”解析”
宝石に焦点を絞って”解析”をすると、ずらずらと情報が出てくる。
・少女のピジョンブラッド
十代の少女の血だけで作られた宝石。
見た者を、催眠・幻覚・酩酊状態にさせる。
貴族に愛用されて、高額で取引される。
これは、たちが悪い。特に年齢しばりが。辛うじてロリータ・コンプレックスではない所だけは救いであるが、そもそも10代前半自体が保護者無しで一人で夜間に出歩いている事はあまり考えられないので、出歩いていたら歯牙にかかっていたのだろうか。
気持ち悪ぅい。
《この宝石は美しいでしょう?好事家たちに人気なんですよ。麻薬のように何回も入荷しなくてもこれだけで何度だって使えるのです。前に居た所では大体の貴族から搾り取って来たのでこの街に移動してきたのですが》
艶やかな宝石は、鮮烈な赤で、見ているだけで引き込まれそうだ。
「ヴァンパイアなのに、金銭を得てどうするんです?」
セイカさんが厳しい顔をして詰めるが、確かにそうだ。食事と言えば人間の血ではないだろうか。他にお金の使い道とか有る?鉄塔を使っている事からして、食・住は確保されているので、人間の生活に欠かせないと言われる3つの基本要素の、残りである「衣」かな?
《書物だけでの知識では、実戦で敗北する事になりますよ》
ヴァンパイアはセイカさんをせせら笑った。
《私はヴァンパイア・ハーフなんです。ニンゲンとしての食事とヴァンパイアの少女での食事、どちらを摂っても可笑しくないでしょう?食事の為に行動する事の何が可笑しいんでしょうか》
「人間を食べなくて良いのだったら、そちらを選んだ方が、排除される火種が無くなります」
セイカさんがそう言うが、元々話し合う余地も無い相手だ。倫理観が無い相手なのだから。
《それは人間側の都合でしょう。私の大事な住処を荒らすのでしたら、容赦は致しません。そちらの低俗なアーティファクトも間抜けな冒険者も私の障害になりません》
こうして戦いの火蓋は切って落とされた。




