96 クッキーと聖遺物
病院から戻ってこれませんでした。
明日こそ、お昼更新です。
「ギルド長、昨日も私が現場に居合わせました。アリスさんが被害者だったんですが、何も覚えていないとの事です」
「あら、道理で今日は休んでいるのね。貧血が酷いから休むってメッセンジャーで連絡が来てたから、何事かと思っていたけど」
ギルド長(オネェ&マッチョ)が机に寄りかかって呟く。
「”氷雪の鷹”に頼んだのは正解だったわね、あそこは優秀なクレリックがいるから」
セイカさんてば、実は有名人なんだな。いや、Sランクパーティーになったんだから、冒険者の中でメンバーの名前が周知されていないなんてことは無いか。
おそらく氷雪の会議室にまた集まっているだろうから、手土産を持って行ってみようかな。すれ違えばアリスさんに渡せばいいだろうし。私には王室ご用達のデザートなんかは買えないが、庶民は庶民で美味しい物もあるのだ。
私は庶民の間では有名な菓子店で、マカダミアクッキーとバウムクーヘンのセットを買うと、”氷雪”がいつも集まっている酒場に向かう。マスターに話しかけると、丁度集まっているといるとの事で、そのまま通された。
えっ……顔パス?
ノックをして了承を得てドアを開けると、セイカさんは丁度お茶を淹れている所で、サーリャさんが小走りで迎えに来てくれた。イクリスさんとガイアスさんは軽く手を上げて挨拶してくれる。
「お土産です、市販のですけど……今日は報告に来ただけなので、すぐにお暇します」
「あら、報告だけ?一緒にお茶飲みましょうよ」
サーリャさんが、なでなでと頭をなでてくる。可愛がってくれるのは嬉しいけど、愛玩動物的に接してるソレなんだよね。
「サーリャ、その辺にしておけ」
「あー、やだやだ。独占欲の強い男は嫌われるわよー」
「なっ……!?」
メンバー同士のこの掛け合いも、いつも通りで私も慣れて来たものだ。
そして、報告だけだと言ったのに、何で椅子引かれてるんだろう。座るしかなくなってしまう。
「それよりセルフィちゃん、何を持ってるの?」
「あ。マカダミアナッツのクッキーと、バウムクーヘンのセットです」
「わあ、美味しそう!でもセルフィちゃんのクッキーじゃないのね」
サーリャさんが若干残念そうな顔をする。
「私、クッキー苦手なんですよ。今度ババロア作りますから」
結局、お茶を出されてしまった。お茶を一口飲むと、私は早々に話を始める。
「昨日の犠牲者は、襲われた当時の事を覚えていないんです」
「証言が出ないのだから、道理で犠牲者が出続けるわけだな」
ガイアスさんがお茶を一口飲んでから、優雅にカップを置く。
「今の所、犯人の姿を見たのってセルフィさんだけなんですよね」
「そうですね……黒いマントと言うか、フードを着ていました、シャツは白。肌は青を通り過ぎて白かったですね。髪は金髪で、やはり種族的に病的に顔が整ってましたね。顔を見れば分かるんじゃないでしょうか」
「絵に描いたようなヴァンパイアねー」
「後は……異様に素早かったですね。一回はベルジュの攻撃を避けましたし」
「!?」
皆が驚くのも無理はない。今までベルジュが攻撃を外す事なぞ、殆ど無かったのだから。”氷雪”もベルジュの力は認めている。それなのに遅れをとったという事は、驚嘆すべき事だろう。
「これじゃ”支配の王笏”も効くか、分からないですよね……」
私の呟きをベルジュが拾う。
『今回こそ、そっちのクレリックの小僧が役に立つのではないか?』
「小僧って歳では無いんですけど……神殿に置いてある聖遺物を使えば、出来るかもしれませんね。でも、詠唱が追い付くかどうか」
「ヴァンパイアは聖魔法が効くって言うのは定石だけどね。因みにどんな聖遺物なの?」
サーリャさんがバウムクーヘンを食べながらベルジュと包装紙で折り紙をしている。
「第二級聖遺物。聖人が生前愛用していた聖なる書物ですね。それは、生を冒涜した者に神の鉄槌を下す物です」
セイカさんがテーブルに肘をつき、表情を曇らせて気だるげに答える。そんなに神殿がイヤなのかな。
「僕、神殿が苦手なので気が進まないんですよね」
あー……以前、そんな事を言ってたような。
「仕方ない、神殿に行ってきます」
セイカさんはそう言うと席を立った。
……ポケットに、クッキーとバウムクーヘンを詰めたまま。




