92 って言う訳だよね
今日は、ちょい夕方もう一回来ます。
気を取り直して、部屋の中で解析の練習をしてみる。
”解析”
本に対して解析を使ったつもりなのだが、関係無い周りの物までも、パパパパパッと視界中に情報が出て、クラクラとする。そもそも物に触れなくても”解析”が出来るようになってしまった。
それによって、逆に無差別に視界に入っている物のすべてにスキルが効いている。
『もっと体から力を抜け!』
”解析”
先程と大差無い情報の海が押し寄せる。
『もっと力を一点に集中しろ!!』
今はソファに座りながらスキルの練習をしているのだが、ベルジュが折り紙で作ったハリセンで太ももの辺りをビシバシしばいてくる。
「ちょっと、そこまでしなくてもいいでしょ!」
絶対に普段の鬱憤を、ここで晴らしてるに違いない。折り紙だから大して痛くは無いのだが、とにかく鬱陶しい。
『フン……ワシの契約者が未熟だとワシが恥をかくからな』
腕を組んで、鼻を鳴らすような動作をする。誰に対して恥をかくと言うのだろう。私は連続使用によって疲れた目を揉みながら考える。このままだと外もろくすっぽ歩けないのでは?
それもそうだけど、使いこなせないとイクリスさんとも一緒に出歩けない事に……!?
「大変だ……練習しないと」
『おお、やっとやる気になったか』
多分ベルジュが思うような理由じゃないけどね。
”解析”
今度は若干見える範囲も情報も絞れてきた。このまま練習したら、数日でモノに出来るかも知れない。ベルジュにそう伝えると、『遅いわ!』と文句を言われる。
急にレベルアップしたスキルに対して、速攻対処出来るものだとは思わないんだけど!
私はあくまで凡人なのだ。お手柔らかに願いたい。
その後も何度も練習して、日を跨ぐこと7日で、何とか落ち着いて出力出来るようになった。
「はぁ~あ、随分と疲れたな……」
私は出勤するや否や、ため息を吐く。
そこへ相変わらずな元気なアリスさんが勢いよく更衣室の扉を開く。
「セルフィ、久しぶり!何かスキル使い過ぎて結膜炎だったんだって?ギルド長も鬼よね、そこまで酷使するなんて」
アリスさんが、ぷりぷり怒っている。
そういう設定かー。私はアリスさんを見ながらスキルがきちんと押さえられている事に安心する。
「ちゃんと病院に言ったから大丈夫ですよ、今はきちんと見えます」
本当は、”見える”の意味が逆だけど。
「鑑定はしばらく休んで、目を休める為に窓口担当で良いって言ってたわよ」
「窓口で良い」じゃなくて「窓口が良い」じゃないかな、多分……。悲しいかな、組織の末端のギルド員は意見を中々聞いてもらえないのだ。
ギルド長、恨みますよ。
その日、疲労困憊で帰路につく。帰りにギルド長室に寄るって報告すると、また何か任せたい事でも有るのか、不穏な笑みを浮かべられた。剣呑、剣呑。
スキルをほぼ使いこなせるようになったので、帰り途中にメッセンジャーに手紙をイクリスさん宛てに頼む。有名冒険者の家だから、メッセンジャーは知っているようだった。
実は、イクリスさんの家の場所を知らないんだよね。この間は、私が逃げちゃったし。彼氏の家を知らないってちょっとヤバい。今度会った時に聞いてみよう。あちらは私の家を知っているので、メッセージを受け取ったら会いに来てくれるだろう。
その帰り道、月明かりの下歩いていると、肩のベルジュがピクリとする。
『この先に何かおるな』
ベルジュが腕で指示した方角から「キャーツ」っと言う絹を裂くような悲鳴が聞こえた。
「なになに!?」
『魔物だな』
「街中に?」
身を隠しながら現場へ行ってみると、そこには首から血を流した女性が倒れていた。顔は蒼白で、息が荒い。ただならぬ様子なので、思わず物陰から飛び出す。
「何事!?」
私は急いで女性に駆け寄るが、幸いにも気を失っているだけで、血も止まっているようだった。
首に穴が二つ並んでいて、出血はそこからのようだった。
ふーっ。
私は腹の底から息を吐く。
女性はちゃんと生きているらしい。
私は女性にベルジュを付き添わせて大通りに出て人を呼ぶ。女性は大通りの衛兵に抱えられて、目覚め次第、家に帰されるらしい。
「でも……」
思わず発動した”解析”スキルで目に入ったのは、マントを羽織った男の影だった。魔物の名前はヴァンパイアと出た。今の私には名称まで分かってしまう。有りがちと言えば有りがちだが、若い女性ばかりを狙う、一種の変態だ。
ギルド長の黒い笑みってコレだったのかな。
明日、何か言われるのは十中八九これだ。
明日の出勤を考えると、足取り重く帰路に就くのだった。
メッセンジャーとは伝言屋の事をさしてます。
個人相手に言付けや手紙を届ける職業です。




