90 オーバースペック解析眼
今回から新たな章です。二話更新なので、一話遡ってお読みください。
明日もお昼更新です。
イクリスさんと両想いになって、ハッピーライフを送る事が出来ると思っていたが、次の日に私に異変が起こった。
「うわー!?」
私が以前、蚤の市で買ってきたピアスを”解析”した時に目に入ったきた光景に思わず叫ぶと、テーブルで不死鳥を刺繍していたベルジュが、てこてこ歩いてきた。
『なんぞ、騒々しいな』
「わー!?」
『だから、どうしたのだ』
「”解析”をピアスに使った時に、今まで見えなかった項目がずらずらっと……」
今までは
・中世後期の真鍮製ピアス。魔法効果なし、
程度だったのが
・中世後期アスター工房制作のピアス。職人が恋人に送った品、耐久度67%、店頭価格、銀貨1枚。
と出た。
やたらと情報が出て、恋人に送った物が蚤の市に流れていたなどという複雑な背景を知りたくもないのに知ってしまった。それをベルジュに言うと、面倒くさそうに頷かれた。
『先日、レッサー・ドラゴンを討伐しただろう。それでスキルの熟練度が上がったのであろうな』
情報過多で、視界がうるさい。
しかも、蚤の市で銀貨1枚と銅貨50枚で買っちゃったよ。ぼられてしまった!店頭価格なんて出るなら、その時に発現してほしかった。先日までは”解析”でそこまでは分からなかったので、ショックを受けて私は撃沈した。
更に、ピアスだけでなく、手を触れていない、視界に入って来ただけのベルジュの情報まで入ってくる。
・5000年前の古代イスタール王国の、堕ちた神官が1000人の血で作った呪われた願望器である。願いを叶える事が出来るが、使用者の魂を取り込む。使えるかどうかは使用者の資質次第。
・耐久度99%、得意技:折り紙、刺繍、トランプタワー、ペーパーのレース切
スキル:シールドバッシュ・呪殺
「うっ、要らない情報まで入ってくる……」
『それは、急にスキルが強くなった事で、使いこなせていないのだろう』
腕を口にやり、ふぅむとベルジュが考え込む。
『それは回数をこなさないといけないだろうな』
「あ、ベルジュの耐久度99%だったよ。1%は、どこにやっちゃったの?」
『なんだと!?』
ベルジュは狼狽えて、体をぐるっと見回す。
「やっぱり5000年モノともなると、アーティファクトとは言え、劣化しちゃうのかな」
『そんな訳は無かろう!』
「いや、でも事実1%減ってるから」
ベルジュは慌てふためいて自分の体をあちらこちら見回しているが、現実って残酷だよね。99%なのは覆しようが無いのだ。
それはそれとして、私はピアスを置くと、室内着から外出着に着替える。イクリスさんと付き合う事になったので、一緒に出掛ける事を考えると、洋服を買っておきたい。私は自分で買うと、無難な物に落ち着いてしまうのだが、そうも言ってられまい。
要するに、視界に入れなければいいのだ。
夏の時はサーリャさんに沢山洋服を買ってもらってしまったのだが、季節も変わったので、自分で服を選びに行く事にする。イクリスさんには今日会おうと言われたが、一緒に出かけるための服が欲しいから一人で行きたいと言ったら、手で顔を覆った後に蚊の鳴くような声で「分かった……」と言われた。
相手好みの服を一緒に選ぶのも一つだと思うのだが、異性とショップに入るのは勇気がいる。私は買い物に付き合うのは良いのだが、付き合ってもらうのは気が引ける派だ。
いつもはスッキリとした服装を好んで買っているのだが、ちょっとだけ可愛い寄りの服を買う。相手に喜んで欲しい気持ちは有るが、好みに寄せすぎると自分ではなくなってしまうので、あくまでも気持ちだけでだけど。
ショップを二軒周り10着くらい買うと、今日は新規開拓した紅茶の店に行く。芳醇なオータムナルの味が染みる。アップルパイも美味しい季節で、空気も澄んでおり、一番好きな季節だ。
私がしみじみ味わっていると、前からタタタと足音がしたので顔を上げると、アリスさんだった。
「やっぱセルフィじゃん、一緒に食べてもいーい?」
「どうぞ」
アリスさんは素早くダージリンと苺のショートケーキを頼むと、私にニコニコとした顔をして向き直った。
「セルフィってイクリスさんと付き合う事にしたの?」
「ん”っふっ」
思わぬ質問に、アップルパイが鼻に入った。
「な、なんでですか」
イクリスさんの告白は昨日の事だ、いくら何でも耳が早すぎる。
「昨日、セルフィの家に一緒にケーキ食べようと思ったから家まで行ったんだけど、イクリスさんと抱き合ってたよね!」
「ん”っ」
だ、だきあ……!?
「買い物もお洋服だし、セルフィって分かりやすくて、本当ーに可愛いわ」
「アリスさん……」
それからも色々と尋問され、言えるところギリギリまで吐かされる。アリスさんはコイバナも大好きなので、ニコニコだ。
「あ、職場恋愛は気つけてねー!でも、相手は有名人だから、周りに知られるのは時間の問題かも?」
アリスさんは笑みを浮かべながら、もくもくとケーキを頬張る。
相変わらずアリスさんは食べるのが早い。風のように来て風のように去って行った。そのおかげでアリスさんの余計な個人情報を見なくて済んだ。
しかし、この日の解析眼はまだ問題では無かった。これはまだ序の口だったのである。




