82 決戦前夜は噴水の横で
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ダンジョンへ入る当日の朝。集合は朝の7時。国が介入する案件なので、めちゃくちゃ早い時間だったらどうしようかと思ったら、案外普通で安心した。
なんでも、扉を開けるのに欠かせない私が冒険者でも無い一般人なので、スピードを調整してくれているらしい。マジックバッグに生き物が入る事が出来たら、私も目的地まで一歩も歩かずに着く事が出来るのに、誠に遺憾である。スピードが遅いのは、仕方ないと思って諦めて欲しい。
遺跡内は二晩テントで休憩を取り、あっと言う間に石碑前である。
実は、その二晩の間”氷雪”と私は携帯食料を食べずに、ドライフルーツとナッツとオートミルを蜂蜜で固めた、手作りグラノーラをこっそり食べていた。グラノーラだけでは飽きるので、チーズスティックもマジックバッグに忍ばせている。ずるいと言われようが、私にしてみれば食に対する縛りがきつすぎた。
しかし、ここまでの道のりを見ていると……王国の騎士って魔物慣れしてないな。対人訓練を重きに置いていると言うのは本当の様だ。何と言うか、頼りない。
これで本当にレッサー・ドラゴンと戦う時に戦力になるのであろうか。心配しかない。
私(と、ベルジュ)と”氷雪”が先頭に立ち、パネルを触りながらドアを開けていく。その度に後ろから時折「おおっ」と言う歓声らしきものが上がるのに若干辟易とする。
流石に考古学科の職員さんのように、こぞってパネルに触りたがるような事は無かった。それだけは何よりである。
二時間程歩いて、街の真ん中の、例の公園で休憩をとる。ここまで来たと言う事は、レッサー・ドラゴンの巣穴まで、更に2時間かかるという事だ。ここが最後の休憩地点になる。ここでもう一晩よく休んでおかないと、戦闘に差支えが出てしまう。
遺跡の住居跡は当然ながら灯りは無い。そういう街の機能は失われているのに、この奇麗な公園は異様なほど奇麗だ。街中も、レッサー・ドラゴンが暴れたであろう、なぎ倒された場所以外は住居に傷一つ無く、当時の文明の高さが伺える。
魔法使いの小さい灯りだけが廃墟の街を照らしている。
今の時間は夜。噴水の縁に座り、噴水に絞った灯りを見る。水面に光がゆらゆらと揺れていて、何とも幻想的なものである。それをじっと見ていると、後ろから人影が水面に映る。振り返るとイクリスさんが居た。
「眠れない?」
イクリスさんは、困ったように眉を八の字にしている。
「流石に緊張しますね。セイカさんに鎮静魔法を掛けてもらってるとは言え、完全に未知の世界ですから」
「セイカに睡眠魔法かけさせようか?」
「いえ、出来るだけ魔力は使わせたくないんです」
「……そっか」
噴水の水音だけが、ちゃぷちゃぷと響いている。
「冒険者の皆さんは、いつもじゃないとは言え、こんな風な依頼をこ過ごしてるんですね。素直に尊敬しますよ」
そうすると、うーん、とイクリスさんはしばし考えている。
「それでも、俺達は好き好んで冒険者稼業やってるから。セルフィさんは完全に巻き込まれだからね。ちゃんと守るよ」
「もう、フラグみたいな事言わないで下さいよ!」
「いや、本当に大丈夫だって」
ぽかすか軽く胸を殴る私の手を、イクリスさんがそっと掴んだ。目が合ったその瞬間に息が止まり私の顔が熱を持つ。
「あの、戦う前から、ホント勘弁してください……」
私が下を向いて顔の熱を冷ましていると、イクリスさんはそっと手を放してくれた。
「さて、そろそろ寝ようか。明日は戦闘になる訳だからね。本当は前に出てこないで欲しいけど、こればっかりはね」
そう呟くイクリスさんに、テントまで送ってもらう。
おやすみの挨拶をして別れると、テントの中でサーリャさんが待ち構えていた。
「あいつに、何かされてない!?」
サーリャさんが私の肩を掴んで、ガクガクと揺らす。
「何かって何ですか、こんな所で何か有る訳ないですよ!」
私がそう言うと、サーリャさんはギリィと歯を噛みしめる。
「最近のあいつって、セルフィちゃんを見る目がイヤらしいのよね!」
「いやら……!?」
「いい、充分気を付けるのよ」
気を付けるも何も私は……いや、早計だ。ここでフラグを立てる訳にはいかない。ここは心を無にするんだ。その結果、私の頭の中は空っぽになり、ほどなくして寝落ちしたらしい。私も図太くなったものだ。
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