79 色彩と妖魔
明日は昼~夕方に投稿しに来ます
《アハハ、そんなこと?》
妖精らしき者は、心底面白くて仕方が無いという風に嗤う。
『そいつは妖精でなく妖魔だ。ニンゲンの善も悪も関係ない。ニンゲン世界の道理など、知った事では無いのだからな』
呪いの兎にそんな事を言われる、この妖魔って一体。
「一族の繁栄を約束して、その代わりに命を貰う事の何がいけないの?人間ってお金で立場を買うんでしょ、命はお金がかからないから別に良いと思うけどなぁ」
確かに、倫理もクソも無い。
「それをやめる事は出来ないの?」
《分からないかなあ、オレはちゃんと先祖と契約しているんだ。契約者は死んでるんだから、こちらから解除しなければ契約続行だよ。そっちから持ち掛けたんだから》
妖魔は箱から降り立つと、テーブルに置いてあるティーカップの端に腰かける。
《契約は絶対だ。アーティファクトのアンタなら分かるだろ?》
妖魔は伴奏でもするように、指をゆらゆらとさせた後にベルジュを指差す。
『まあ、そうだな』
ベルジュ、納得しないで!?
『だが、ワシは呪いの力を集めないといけないのでな。その力を根こそぎいただくぞ』
「ベルジュ、今回はクレリックで送還したりする案件じゃないの?」
『それでもいいが、それだと力を搾り取れんぞ。呪物からは、しこたま力を吸っていかないといけないからな』
「解呪出来ない事は無いんですけど、元は呪物だという事で、神殿預かりになるでしょうね。元の形を残したいのだったら、神殿に言わない方が良いですよ」
セイカさんが淡々と言う。一度呪いを起こした物は、解呪しても神殿で破棄するそうだ。セイカさんってば、クレリックなのに、そういう所は緩いんだよね。
「つまり、どうしたら良いと?」
『ワシが直接、力を吸うしかない』
そこでガイアスさんとイクリスさんが”氷雪”以外の人間を部屋の外に出す。
《なんだぁ?》
ドミ・パリュールの妖魔はカップのふちに寄りかかったまま、こちらを睥睨しながら見ていた。
そういう態度はベルジュで見慣れているのだよ、君ぃ。
「”支配の王笏”」
王笏から黒い荊が出てきて、妖魔に絡みつく。体をゆっくり締め上げて、徐々に荊が太くなっていく。
私は呪いのアイテムを二個も装備して、ほぼ使いこなしてるという事で、もう自分が討伐対象になってしまわないか心配になる。他の人には扱えない呪いの願望器を持ち、支配の王笏をで民衆を支配する。もう私自体が呪物と言えるだろう。
そのうち”氷雪”とか”放浪”に依頼が行ったりしないだろうか。彼らを見て、若干ヒヤリとする。
荊が妖魔を覆う程の量で絡まると、ベルジュは宙に魔法陣を展開してゆく。光が線となり円となり、文字が組み込まれていく。全ての円が繋がり、一際輝いたかと思うと、一瞬にしてドロリとした色になった。
そういうのを見ると、やはり呪物なのだと実感するな……普段はマヌケな兎マスコットなのに……。
その邪悪な魔法陣は妖魔の下に敷かれたかと思うと、そこを中心に、突如ブワッと風が吹いたかのように私達の髪が揺れた。
次の瞬間には、竜巻のように黒い影がベルジュの手に吸い込まれていき、妖魔と宝石はどんどん色彩が抜けて来ている。
《や、やめろ……!》
しかし、そんな事で止まるベルジュでは無い。
《ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、やめて……!》
掻き消えつつ妖魔が哀れに見えてきて、ベルジュに耳打ちする。
「あいつって改心したりしないの?」
『今更同情か?今までの事を考えたら消滅が妥当だと思うがな』
色んな人を呪ってきた君が、それを言うのかね。
『ふむ……』
何か思い当たるところでも有るのか、ベルジュは力を吸い込むのを止めた。宝石と妖魔の色彩は、元の半分以下になっている。
『こやつに言いたい事が有るのなら言えば良い。ワシとしては、この状態ならいつでもこやつを消せる』
ベルジュは一端、魔法陣を待機状態にした。念の為に”支配の王笏”は発動させたまま妖魔に近づく。
《や、やめ……》
妖魔はもうブルブルと震えながら涙を流していた。もはや羽はボロボロになり、可哀想になってくる。
『それも、ただのポーズかも知れんぞ』
《ちがう!そんな、そんなじゃない……》
「じゃあ、もう当主の命を吸い上げたりしない?」
《分かった。でも、この家の繁栄は完全にオレの手からは離れるぞ》
流石に命には代えられないだろう、これ以上は私達の問題では無い。若奥様に伝えて支持を仰ぐしかない。
イクリスさんが若奥様と執事を部屋に連れて来たので、事情を説明する。
「呪いが解けるのであれば、そうしてください。これ以上一門から死人を出したくありませんもの。ドミ・パミュールは、当主の証として形だけ継いでいこうと思います」
「それなら、ネックレスから妖魔を引きはがす事になりますね」
イクリスさんがベルジュの方を見て、ベルジュが更に私を見る。ーーーーーー私が決めろという事か。
これまでのやった事を鑑みても、ここで消してしまった方が良いのだろう。でも、目の前でボロボロになっているこの妖魔を切り捨てるような覚悟が私には無い。はぁ、と息を吐く。
「……人間にもう危害を及ぼさないなら、宝石から離れて」




