78 魔法陣と妖精
明日はお昼過ぎ~夕方更新です。宜しくお願いします。
門番に名前を言って用向きを伝えると、すぐに邸宅に案内される。ドアを開けると、そこには執事さんと思われる老齢の紳士が居た。そのスーツは絶対執事さんだ、断言しても良い。老齢の執事さんである。
執事さんは、そつなく応接室に私達を案内し、部屋の中の主に許可を得てドアを開ける。
私がときめきながら執事さんをチラ見していると、邸宅の奥様が応接室で待っていた。本当なら当主が出迎える筈なのだが、亡くなっているそうだ。その奥方である大奥様も病床に伏しているらしい。私達を迎えてくれたのは若奥様で、そのご主人がガイアスさんのお知り合いなのだそうだ。
若奥様自らが応接室の奥に案内してくれる。テーブルの前に有るお高そうな椅子に緊張しながら座る。汚したりしないか心配である。
座っていると、然程時間がかからずにメイドさんがワゴンでティーポットとカップを運んで来る。優雅な手つきで淹れた紅茶は香り高く、すぐに庶民の手の届かない値段の紅茶だと分かる。私は震える手で紅茶を飲むと、一口飲んだ後は粗相をしない内にソーサーに戻す。
弁償する機会が来ない事を願おう。私のおどおどした様子を感じたのか、今の所はベルジュも静かであった。
若奥様は執事に合図をすると、依頼に有った、ドミ・パリュールを持ってこさせる。受け取ったのはガイアスさんだが、断りを入れて私に渡してきた。
箱を壊さないように、そっと蓋を開ける。
どうやらプラチナとガーネットで出来た、ネックレスとイヤリングのセットらしい。
息を吸ってスキルを使う。
”解析”
・呪いのドミ・パリュール
持ち主の命と引き換えに家を繫栄させる。呪いは所持した当主のみに引き継がれ、養子などには相続出来ない。
予想はしていたけど、まごう事無き呪物である。相続した時点で命を吸われるとは、中々にえぐい。よくも今まで嫁いで来た人が居るものである。でも、引き換えに家門が繁栄させるのなら良いって考えなのかな。貴族は分からないものだ。
「ベルジュ、これはどうしたら呪いを吸収出来るの?」
私の肩から箱を覗き込んでいるベルジュはフムと一つ頷いた。
『このネックレスの大きな石をよく見てみよ』
ベルジュに言われるままに、近距離で一番大きな石を覗いてみる。
……魔法陣だ。
『そこのニンゲン、敷地の四図を持っておるか。持ってこい』
ちょっと!?
警備上そういうのは見せられないでしょ。
私がアタフタしていると、若奥様はしばし考えてから首肯する。
「ガイアスさんのご紹介なので、館内以外の見取り図でしたら」
執事さんに合図をして取りに行かせる。
「石の中の魔法陣なんて珍しいな、オレも見てみてもいいかい?」
「あ、どうぞ」
すぐ後ろから声がかかり、イクリスさんが被さる様に石を覗いてくる。
「…………何も、見えないけど」
「えっ」
ハッキリ見えるんだけど?
セイカさんとサーリャさんには、見えたらしい。
ガイアスさんは無理だった。
『魔力の関係だな。魔力が少ないか、無い者には見えない』
そんな事をしている内に、執事さんが地図を持ってきた。
『ホレ、広げて見てみい』
見たからって、何もわからないんですが。
……いや、待って。私は窓に駆け寄り、窓を開けて素晴らしい景色が一望出来るテラスへ出た。
地図を見る
外を見る
地図を見る
外を見る
これは……。
『気付いただろ、この屋敷自体が敷地の建物の位置によって、巨大な魔法陣となっておる』
「どうすれば良いと思う?」
ベルジュに相談をすると、にべもない返事しかよこさなかった。
『鉄塔の一つでも壊せば楽だと思うがな』
「そういう訳にもいかないでしょ。それ以外でよろしく」
そう言うと、ベルジュは心底面倒くさそうに息を吐く。
『全くニンゲンは愚昧暗愚だな。手っ取り早い方法を取らずに回りくどい事をするものだ。建物の位置関係で、余計にこの石の威力が上がっておるのだ。本来なら屋敷ごと壊した方が早いくらいだぞ。
屋敷と宝石の魔法陣がリンクして固定されておるので、宝石は持ち出されても戻って来るし、強固な呪いを発しているのだ』
ベルジュが私の肩からぴょいっとテーブルに降り立ち、ドミ・パリュールをテーブルに置くように言う。
『出て来ぬか、お前が出てこないと言うのなら、ワシがお前の力を全て食らい尽くしてやろう』
ベルジュがそういうと、テーブルに黒い霧が発生し、一気に部屋の中は暗くなった。
霧が晴れると、宝石ケースの上に、ベルジュと大きさが大差ない生き物と思しきものが浮かんでいた。
陶器のような滑らかな肌、長いまつ毛に彩られえた春の森を思わせるような大きな瞳、プラチナのくるんとした髪の毛、そして背中の羽ーーーーーーーーーー。
………………妖精?
《アーティファクト様が何の用ですか?》
『貴様、家の者に災いをもたらしているだろう』
慇懃無礼と言う言葉を体現した態度である。何百年と受け継がれてきたのだから、こう、慎みを持って欲しいと思うのだが、この妖精は、そんな単語は知らないといいたげな、ふてぶてしい態度である。
さて、こいつから何を聞きだせるかーーーーーー。




