76 ゴースト・クエスト
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廃神殿から外に出ると、丁度太陽が昇って来た。長い事のような感じがしたのだが、数時間の事であったようだ。
「朝日が眩しいな」
ガイアスさんの低い声が無人になった村に響く。もうね、本当に疲れたよ。
「取り敢えず、街まで帰りましょう。ギルドに報告もしなきゃいけないとですしね」
黴臭い地下から建物の外に出て、新鮮な空気を吸う。既に朝日が昇っていた。はぁ、今回は短い依頼で良かった。柔軟をして体をほぐす。陽の下に出るのは良い物である。すべからく陽の元の依頼であれ。
村の入り口で待たせておいた、幌付きの荷馬車に乗って帰る。これ、お尻が痛いんよね……。
「運転はこっちでやっておくから、うとうとしてて良いよ」
御者席から、イクリスさんの声が降って来る。
もそもそと座ると、サーリャさんが寄りかからせてくれる。夜中からの行動だったという事で、眠くて仕方が無い。脳みそが回転を拒否しだすと、頭がぽやぽやし、馬車の揺れも相まってコックリコックリと船を漕ぎだした。
次に目を覚ますと、いつのまにか城門の前にいて、陽は高く昇っており、体中がバッキバキである。
貸し馬車を帰し、ギルドに依頼完了の報告をしに行く。
「そんな依頼は出ていない?」
確かにギルドからの依頼書で向かったのに、ギルド長に報告しに行くと、逆に驚かれる。
「そんな、依頼書ならここに……無い。ドッグタグも無い!?」
依頼を受けて出て行く時に受け取った筈の、依頼書もドッグタグも無い。実は、こういった事例は稀に有り、「存在しない依頼」は”ゴースト・クエスト”と言われる。
”ゴースト”とされているのに何故みんなが知っているかと言うと、受付嬢をやっていると、大体の人は出くわすものらしい。
結局依頼達成料は発生しなかったのだが、今の私達の目的はベルジュの呪いの力を集める事なので、意味は有ったと言えるだろう。
『それよりも、だ』
”氷雪”の会議室会場でベルジュが私を手でビシッと指し示す。
『お前も”支配の王笏”を上手く使えんと実践で弱いな。力は有るのだから、練習するべきだな』
「どういう風に練習するの?」
まさか自分に向けて水を向けられるとは思わなかったので、きょとんとしてしまう。街で全員ひれ伏せさせるとか?
『こやつらを実験台にすればよかろう、かなりの耐性が有る筈だぞ』
そんなバカな。
「そうだな、練習になるなら俺達が適任かもな。他の人を練習台にする訳にいかないからね」
イクリスさんの許しが取れたとしても、あまり気の進まない提案だ。
「しかし、どこでやるかだね」
かくして”氷雪”で「支配の王笏」の練習をする事になってしまった。
とりあえずギルドを出た所で解散になったので、フラフラしながら帰途へつく。一晩で終わった依頼とは言え、報酬が出ないと、こうもテンションが下がるのか。
カンカンとアパートの階段を昇り、鍵を開けて自分の部屋のソファに倒れ込む。本当はベッドにダイブしたいが、この埃っぽい体のままベッドに飛び込みたいが、ソファにはカバーが有るので許される。
もうだめだ。今日はシャワーも浴びるほどの気力も体力も無い。
何とか荷物をテーブルに放り投げ、ベルジュをドール用のベッドに戻してからソファに這いずって倒れ込む。
まだ陽は高いが、そんな事は関係ない。体が休息を求めているのだ、さよなら太陽。
次に目が覚めると、昼過ぎだった。お腹が鳴って、前回の食事から時間が過ぎた事を伝えてくる。今日は外で買って来よう。
私はサッとシャワーを浴び、着替えて出かける準備をする。面倒なので薄い萌黄色のワンピースにカーディガンを羽織る。いつのまにやら涼しくなったものだ。部屋の中心で先日買ったばかりの刺繍をしていた。刺繍本の通りに刺してるかと思うと、何やら怪しげな魔法陣を作っている。ベルジュのポテンシャルには驚かされるばかりである。
それでも呪いのアーティファクトなだけあって、呪い関係に特化している。
ベルジュはこちらに気付くと、針を止め、肩にジャンプしてくる。準備を終えると、鍵をかけて市場へ出かける。
市場で、何をテイクアウトしようかとウロウロしていると、香辛料の匂いにつられ、カレーを持ち帰りにすることにした。
明日は”氷雪”と”支配の王笏”訓練だ。




