72 本当はやめたい
明日は12時目安です。
”氷雪”が先行して様子を見に行く間、考古学科の職員さんと私は近くの建物の影に隠れる事になった。
近くまで一緒に行くと、戦闘になった時に邪魔になるからだ。
様子を見に行く前にセイカさんにヒールはかけてもらったが、ドキドキというかザワザワするのは止まらなかった。見渡す限り金属のような壁しかないのに、そこだけ土が露出しているのだ。
何も無い訳が無い。
私は心を静める為にベルジュと無限に棒倒しをしている。大体は私の勝ちなので地団太を踏んで悔しがっているのだが、たまに勝った時の「どやぁ」の雰囲気が鬱陶しい。
30回ほど棒倒しをやった頃だろうか。”氷雪”が青い顔をして静かに帰って来た。
「あれは、まずい。想定していたより、ずっと最悪だ」
イクリスさんが、洞窟の方を見て言う。
「どうしたんですか?」
「レッサー・ドラゴンが居た」
……え?
「ドラゴンって、空を飛ぶアレですか?」
私が身振り手振りでジェスチャーすると、ガイアスさんが首を振る。
「この様な地底に居るし、レッサー・ドラゴンは空を飛べない。しかし、街の人間が逃げ出したのはアレが原因だろうな」
「これは……ちょっと困りましたね。住居跡を調べる事は難しくなるでしょう」
セイカさんの独り言ともとれる声に、職員さんも首肯しながらも下を向く。
書庫には二重の扉が有る上に道が狭いので安全だと思うのだが、このままだと住居跡を探索するのは難しくなりそうだ。虎穴に入っても虎児を得らえないどころか、住居跡に入るだけで危険が有る。
「どうするんですか?住居跡を探索するのを諦めるか、レッサー・ドラゴンを倒すかの二択ですよね」
正直、レッサー・ドラゴンを倒すなんて現実味がない。これだけ文明が発達していた古代人さえ、この都市を放棄したのだ。私達にどうか出来るなんて思えない。
皆が黙ってしまった所で、肩にいるベルジュが、あきれ顔(……に見える)をしてボソっと言う。
『どうにか出来ない事も無いぞ』
「!?」
皆が一斉にベルジュを見る。
「どういう事?」
『前に、腕輪の小僧から呪いを吸い取っただろう。ワシは呪いが貯まれば貯まるほど力を付ける。後はいくつかそういう系統の依頼を受けて、呪いをため込めば、足止めくらいは出来るようになるぞ』
それは喜ばしい事だが、前提として私がクエストに同行する必要がある。レイスとか苦手なんだよね。
くわばらくわばら。
『それに一つ忘れておらんか』
「なにを?」
私とベルジュの掛け合いで、どんどこ話が進んでいる。
『【支配の王笏】だ。あれが有れば動きをある程度止める事が出来るぞ』
『どちらの力が上かは分からんがな』と、ヒヒッっと嗤う。
そう言えば、そんな事言ってたな。理解したくなくて、忘れてた。あと、気付いた事が有る。
「私って魔力が有ったりするの?神殿の能力検定でそんな適正は無かった筈だけど」
肩からベルジュが地面に降りて、私を上から下まで眺める。
『魔術師のような体の外に放つようなスキルは持っておらぬな。ただ内包魔力が、そこらの魔法使いよりケタ違いに多い。そこの魔法使い程では無いけどな』
ベルジュはそう言って、サーリャさんと私とを交互に見た。
それは初耳だ。内包魔力というのは体を流れる魔力の事だが、言葉通りで体の外で現象を起こす事は出来ない。魔法使いにはなれないのだが、仮に使えたとしても私は冒険者は選ばなかっただろう。
だから、そろそろ私を街に帰してください。
結局全員で街まで撤退し、またパーティー編成を構成し直す事になった。
斯くして私は一ヵ月の休みを貰い、三日間は怠惰にベッドから出なかった。何もないって素晴らしいね。暇だと言ってうるさいベルジュには、トランプを渡しておいて、今はテーブルでピラミッドを作って遊んでいる。それでも上達していくのだから感心する。
しかし、部屋をぐるっと見ると余計な物が部屋に増えていき、私のシンプルな部屋が、浸食されていっている。これはどうにかしないとな。
残りの日はアリスさんと遊びに行ったり、買い物をしたり。一般庶民と言うアイデンティティを取り戻した。
リフレッシュした後は、結局は次の探索に付いていかねばならないので、マジックバッグを買い直す事にした。サーリャさんに以前教えてもらった店のドアを潜る。
かららら~ん
ドアベルが重厚な音を立てる。
「何でい、嬢ちゃんか。何か足りないものでもあったか?」
カウンターの椅子に座って煙草を吸っていた店主が、煙を吐きながら言う。
「マジックバッグを大きい物に買い直そうかと」
「ふむ……」
今回も支度金は貰っているので、マジックバッグを買い直す金額をもらったのだ。いやぁ、自分のものじゃないお金で買い物出来るのは嬉しいね!とでも思っていないと、やっていられない。
「こっちは容量が一般な宿屋の部屋が3つ入るくらいの容量だ。ただ、時間はゆるやかに進んじまう。こっちは宿屋の部屋二つくらいの容量で時間は経たない。こっちはもう一つ下のグレードだが、容量は少ないが取り出すのが便利だ」
むむむ。唸りながら三つを見比べる。ここの店はサーリャさんお墨付きだ、変な物は出してこないだろう。
ここは便利さんをとって、使い勝手が良さそうなのは一番下のグレードを選ぶべきだが。二番目の物の、鞄のデザインが可愛い。明るい色の皮の透かし彫りで、斜め掛けで持ち手も気にならない。
どうせ行きたくないのなら、せめて装備のデザインを良くしないと、アガらない。店主は他の鞄を仕舞うと奥に引っ込んで、ブーツを持ってくる。
「その予算なら、ブーツも買い替えた方がいい。鞄のデザインでソレが気に入ったのなら、ブーツもこちらの方が良いだろう。微弱だが軽量の魔法がかかっている」
「有難うございます」
店主は荷物を包装して、紙袋に入れてくれる。私に荷物を渡すと「何か有ったら、また来な」と言ってくれた。顔は怖いけど、良い人なんだよなぁ。
あとは呪いが集まる用の依頼をこなす事か。気が重ぉい。
宿屋の部屋=6畳くらい




