66 そういうところ
明日も、お昼更新予定です
ダル絡みをしてイクリスさんに送ってもらった次の日、菓子折りを持ってお詫びに行き「何か失礼な事したりしませんでしたか?」と聞くと「何も無かったよ」と言いつつ、目が泳いでいた。やっぱり何かしてしまったようだ。
ベルジュに聞いても『おもしろかったぞ』としか言わずに、後は何一つ教えてくれなかった。
酒は呑んでも呑まれるな、とはよく言ったものである。
イクリスさんは、少し考えた後に食事に誘ってきた。
「この間の店より軽い物を出すカフェが有るんだけど、お昼ご飯まだだったら一緒にどうかな」
もちろん私に否やはない。
イクリスさんに連れて来てもらったのは、シャワーのように藤棚から下がっている藤と、花壇はカスミソウとアガンパスで彩られた白い建物が美しい、幻想的なカフェだった。ちょっとした別世界である。確かにこの間よりは行きやすい店では有るのだが、やっぱりハイソな香りがする。
私達は、白いウッドデッキのテラス席に案内される。そこは素晴らしい景色を一望できる、絵画の中に入ったかのような錯覚を起こさせる、特等席だった。
ウェイターさんにメニューを渡されるが、メニュー表に料金が書いてないではないか。怖い!!
「何でも好きな物頼んで」
イクリスさんはそう言うが、本来奢るのはこちらではないだろうか。私は震えながら無難な注文をしておく。
「BLTサンドと、アイスレモンティーお願いします……」
「じゃあ、俺はペペロンチーノ大盛と果実水を頼む」
値段を見ずに食事頼めるのすご。オーダーを取り終わったウェイターは素早く引っ込むが、ややもすると飲み物を置いて下がって行った。氷がカランと音を立てて結露しているグラスは、如何にも涼し気だ。
緊張しながらレモンティーを飲んでいると、イクリスさんから優しい声がかかる。
「本当に何も無かったから、安心して良いよ」
ホッ
「むしろ、俺が何かしそうであったと言うか……」
!?
私がおろおろしていると、メタリック色ばかりの派手派手しい折り紙を折っていたベルジュが、呆れて言う。
『そいつのような腰抜けは、どうせ何も出来ぬわ』
何か、とか、何もって何!?
どっちにしろ何も起きなかったって話だよね?
ただでさえ最近はイクリスさんにドキマギさせられる事が多いのに、これ以上は心臓が持たない。
「ご、ご飯なかなか来ませんね」
私が苦し紛れにそう言うと、タイミングが良いのか悪いのか、すぐに料理が置かれた。食事している間、食器の小さなカタカタと言う音がしていた。
静かな空気で、ベルジュだけが折り紙から紙ナフキンに変えて、鶴を折る事に集中している、妙な空間になっている。
私はもひもひと具を落とさないように気を付けてサンドイッチを食べる。具の多い物より少ない物の方が良かっただろうか。
具をべショッと落とさないように、注意深く食べる。
「ふはっ」
!?
突如、向かいから、思わずと言った感じで笑い声が漏れていた。
「な、何で笑うんですか!」
「いや、一生懸命に食べてるのが可愛くて」
「かわ、かわわわ!?」
こんな直接的な事を言う人だっただろうか。慌ててレモンティーを飲んで顔の熱を冷ます。
「心臓に悪いから、やめてください……」
何せ相手は有名なランクAパーティーの人気者だ。ただでさえ、一緒に出歩いていて、いつ刺されるかと心配しているのに。いや、ベルジュがいるからその辺は平気なんだけど。
「あんまり言っても嫌われちゃうから、この辺にしとくよ」
2人が食べ終わって席を立った瞬間、追い付く暇も無くお会計に行かれてしまう。また払われてしまった。
「すみません、ごちそうさまです」
おずおずと言う私に、顔にニッコリと笑みを讃えると、しっかりハートを撃ち抜かれた。
「サーリャに手作りお菓子作るのを打診されたんだって?俺も楽しみにしてるよ」
これは、作らねばならなくなってしまったな。私でも出来る、お菓子のレシピを探しておこう。
道すがら今後の方針を話し合う。
15階層の石碑を突破しただけで満足していたが、その奥にも部屋が有るのではないかと言っているらしい。確かに資料的に本などが並んでいた割に住居跡などが無かった。図書館のように本を並べているだけの遺跡な可能性がなきにしもあらずだが、その奥を探ってみたい、と”氷雪”に依頼が効いているらしい。
今回の重要人物と思われる私は、ソレはちょっと聞いてませんねぇ……。
少なくとも、他の人がやっても開閉が出来ないのだ。ベルジュによると、権限を持っているのが私だけで、同じ事を出来る人間は中々いないだろうとの事だし、私にも情報共有してくれないと。
そんな事を話している内に、日が暮れて来た。
そうして、その日は家まで送ってもらって解散になった。




