62 文明は二度滅ぶ
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扉を開けると、そこには下の階へ続く階段が有った。神獣を置いてでも封印していた所とは、どのような場所なのだろうか。
一同、無言のまま階段を降りる。扉を潜ってからは整備された白い床と壁に囲まれて、どこかの城の中でも歩いているようだった。
天井までは10m程も有り、カツンカツンと靴音が響き渡るそのままに歩いていくと、突然大きい扉が現れる。扉と言っても天井までが高く、空に届かんする白い壁の様のように見える。見上げると首が疲れる程だ。
こんな大きな扉が簡単に開くものなのかと思っていると、扉の横に白いプレートがついている。ポーチから出したベルジュが肩に昇ったかと思うと、その板を指す。
『あれに手をついてみよ』
「え、大丈夫なの?」
『アーティファクトを動かせるほどの力を持つお前こそが、その扉を開けるのだ』
「なぜ……」
ベルジュがそう言っていると、考古学科の人が自分に試させろと言う。
ナユさんが念の為にと板の周りをチェックする。
その人が試しても、扉はウンともスンとも言わなかった……だけでなく、強い静電気が起きたらしい。その後、冒険者も試してみるが、悉く反応しなかった。寧ろ、静電気の被害者が増えていくだけだ。
『ホレ、見た事か。ここに居るニンゲンで開けられるのは、セルフィだけだぞ』
うーん、以前ベルジュが言っていた「血」とやらによるものなのだろうか。ごくりと喉を鳴らせた後に、プレートに手を置く。
スッ
何と、扉は青く光り、横にスライドして開いた。確かにこれは、誰にでも簡単に開けられるものではないな。
試練を受けるのに石碑を読めなければ行けないし、その後も麒麟と戦わねばならない。その後もこの扉を開けるのも誰にでも開けられる訳では無い。
ドアを開けた先は僅かな凹凸も無いような白い白い壁と床だった。まるで、自分が何かの箱に入れられてしまったような閉塞感を覚える。
何回かドアの横の板に触れて開けながら進むと、今までの4倍は有るプレートがあるドアに着いた。
「ベルジュ、これは?」
『最後のドアだな。お前なら大丈夫だから、行くがよい』
ベルジュが言うならそうなのだろう。どうせ呪いは効かない身なのだ、行くしかない。
「大丈夫?」
隣を歩いてくれているイクリスさんが、心配して声をかけてくれる。
「だ、大丈夫です」
私は、そうっと手を伸ばす。
板に触れた途端に、板が青く光って緑の文字が走る。次々と読めない文字が浮かび、人間の物では無い声が響く。
「ニンショウカンリョウーーーーシカクカクニンーーーーカンリョウ……76%……81%……98%……ゲートヲヒラキマス」
その声と共にあっという間に板を埋め尽くした文字は消え、板の光も消える。それが完全に収まると、ドアが音もせずに横にスライドして開く。
「わっ……」
ナユさんが、思わずと言った感じで後ろに庇ってくれた。
しかし、扉の向こうを見た何人かから声が漏れる。
そこは或る種、異様な光景だった。殆ど歯抜けの無い、きちんと整列された本棚。石板などは見つからないが、その本が異様に奇麗だった。美しい表紙の色に、中の紙の上質さ。
すべすべとした質感に流麗な文字が書かれていたーーーー残念ながら、今読むことは出来ないが。
ほぼ完全と言える状態の本が、部屋を埋め尽くしていた。城の中の図書室ですら、ここまで上等な本は見た事が無い。
考古学科の職員が唖然としていた。
『これは、ワシが作られたよりも前の時代だな』
「えっ」
ベルジュはフンと鼻を鳴らすが、その内容は驚嘆すべきものだった。
「あの、それはどういう事でしょうか……」
職員の一人が、ベルジュにビクビクしながら話しかける。
『ワシを作った人間が、「失った過去の文明を再現出来た」と言っておった。だから、その時ですら失われた文明の時代が有ったという事だろう』
ベルジュは5000年前のアーティファクト、つまり現在の私達に再現できない技術で作られている訳だ。そのベルジュを作った人ですら「失われた過去の技術」と言っていた。これが指すのはーーーー。
「文明は二回滅んでいたんですね……。これは学会で大きな議論が交わされることになるでしょう」
その辺の事は分からないが、すごいという事だけが分かる。
「どうやら年代順に並んでいるようなので、この中でも古い時代の物を持って帰ってみましょう。数字だけは今の時代と、そう変わらないので、まずはそれをマジックバッグに入るだけ入れましょう。残りは後日ーーーーと言いたいところですが、そちらの方が居ないと扉が開きませんね」
ま、まさか。
「申し訳ないのですが、次回も同行をお願いします」
職員さんの言葉に私は肩を落とす。国から言われれば否やを言えるわけが無いのだ。……隣国に引っ越しちゃおうかな。
国から莫大なお手当が入るにしろ、私は普段は一介の冒険者ギルドの職員だ。私の安心・安全ライフはどうなってしまったのだ。
はっ、もしかして。私は鞄の上に乗っているベルジュをマジマジと見る。
『なんぞ』
「ベルジュって、本当に呪われたアーティファクトだったんだね……」
『ようやく、ワシのすごさが分かったか!』
私の人生が下り坂になったのは、あれからだ。ベルジュがやる気に胸を逸らせているが、私は急激にやるせなくなり、ベルジュの体をにぎにぎして心を落ち着かせた。
平常心、平常心。ベルジュがモゴモゴ文句を言っているが、私は心を無にして、雑音を心から消した。




