55 他人のお金での買い物は楽しい
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「待ってたわ、いらしゃい!」
時間は午後1時、先ぶれを出していたせいなのか、ノックする前にドアが開いた。冒険者の勘、恐るべし。
今日のサーリャさんは、ノースリーブの水色のワンピースと、濃い色のロングスカートだ。私は薄いグレーのオフショルダーのセットアップである。
「とりあえず座って座って。先にお茶を飲んで、一息ついてから出かけましょう」
「あ、有難うございます」
サーリャさんがソファを指示したので、そこへ座らせていただく。流石、上級冒険者、お家ひろーい。サーリャさんは私が紅茶好きだと知っているので、ティーパックでお茶を淹れてくれる。……有難いけど、ちょっと渋い。
「あ、これガイアスが昨日くれたんだけど、フロランタン食べる?」
「いただきます!」
ガイアスさんがくれるお菓子はハズレが無い。条件反射で、即座に返答する。
私達が雑談している間、ベルジュの中で流行ってる折り紙を渡しておいた。いたずらに本を買って渡したら、予想外に嵌ってしまって、とくにする事が無い時には折り紙をさせておく事にしたのだ。静かになるしね。
その間に、私達はお茶とお菓子をいただく。ガイアスさんがくれた物なら、絶対美味しいに決まってる。
「それで、装備を整えたいんだっけ?馴染みの店が有るから、このサーリャさんにお任せよ。恰好を一級冒険者にしてあげるわ!」
「いえ、普通でお願いします」
目立っても困るのでかぶりを振ると、サーリャさんが残念そうな顔をする。
「また、セルフィちゃんを着せ替え出来ると思ったのにぃ」
あやうく着せ替え人形にされるところを回避出来たようだ。セーフ、セーフ。ちょっとだけ雑談をし、商人街へ出る。
歩く事20分ほど。大通りから一本入った所だが、隠れた名店で、”氷雪”もちょくちょく訪れるらしい。
扉を開けると、ベルの音が響く。店内は少し薄暗いが、艶のある柱が美しく、よく手入れをされていて、年代を感じさせる。
「いらっしゃい……と、サーリャかよ」
奥から、50代くらいの小柄な男性が出てくる。厳しい顔で目が鋭く、少し怖い。
「あら、ご挨拶ね。今日のお客さんは、この娘よ」
そう言って、サーリャさんは私をズズイと前に押し出す。店主らしき男性が私を上から下まで見て、ため息を吐く。
「とても冒険者には見えないが?入る店を間違って無いか」
し、失礼な。
「相変わらず、口が悪いわねー。この子は確かに冒険者じゃないけど、ちょくちょく国のフィールドワークに出てるのよ。良い物を取り揃えたいって言うのは当然でしょ。ちなみに資金は潤沢よ!」
サーリャさんが豊かな胸を張る。
「ほう……国からか。そりゃ深層に潜る事も有るだろうな。ちょっと待ってろ」
店主(と勝手に決めた)は、あちらこちらから装備を引っ張り出してきて、カウンターに並べる。
「これは、星屑のローブ。火にも水にも強く、行動が素早くなる。こっちのブーツは修道士のブーツ。長距離向きの、足首に負担がかからないものだ。サイズは欲しいのを言え」
ローブは蒼色で、裾の方が仄かに光っている。こげ茶のブーツは少しごついが、足首を守ってくれそうだ。
そしてカウンター後ろの積みあがった箱をガサガサし始めた。そして、皮で出来た斜め掛けのバッグをぽんと出す。
「これは、小さいがマジックバックだ。嬢ちゃんの予算だとワイン樽一個分が精々だな」
すごい。一店舗で全てが済んでしまった。しかも、マジックバッグまで手に入るとは。確かに一級冒険者とまではいかずとも、装備だけは一丁前である。
途中でサーリャさんがお金を出そうとするのを止めるのが大変だった。「必要な課金なのよ!」と言っていたが、意味が分からない。
そうして装備を整えた後に、ナイフの方も程々の物を買った方が良いと言われた。戦わなくても、簡単な作業をする時に、安物だと簡単に折れてしまうそうだ。確かにそれは盲点であった。
防具の店を出て、武器の店に行く。ナイフは手ごろな物を、と普通にミスリルナイフにした。防具でかなりお金使っちゃったからね……。もしまた行く事が有ったら、ナイフも良い物が欲しいな。
いやいやいやいや、本当にフィールドワークは嫌だと、何度言えば皆は分かってくれるのだ。
武器や防具の店では、流石にベルジュも大っぴらに出るのはまずいと思ったのか、鞄の中で静かにしていた。
「一日で買い物終わって良かったわね。でも、荷物持ちが来るとは言っても、一週間分の水と食料は個人で持っていた方がいいわよ」
サーリャさんが店を出てから体をグッと伸ばしてほぐす。半日突き合わせて申し訳ない。
「そろそろ良い時間なので、晩御飯食べませんか?大衆食堂で良ければ、美味しい所を知ってるんです。お礼に奢らせて下さい」
「本当?セルフィちゃん行きつけのお店、行きたいわ!」
そう雑談しながら、”夜霧のワルツ”に案内したのだった。




