53 閑話5 ポケットマネーと冒険者ギルド裏事情
※ちょっとだけタイトル変えました。
「ふぅん、大変だったのね」
「はい、もう夢から出られないかと思いましたよ」
私が哀愁を漂わせているのに、ギルド長の返事は雑な物だった。
「あ、今回は依頼が国からじゃないから、報酬はそこまで高くないわよ。鑑定科の室長のポケットマネーからだから」
ソファに座った私の前に金貨袋が置かれるが、中を見てぎょっとした。個人からの依頼にしては、かなり多かったからだ。それだけ部下思いって事だよね。鑑定科室長への好感度がギュンとあがる。
この金額を多くないと言うギルド長って、一体……。ギルド長の私生活も謎のベールに包まれているな。
「今回の依頼って、大きな遺跡の発掘の鑑定を行ってたんですよね?同時に結構な数をこなしてるんじゃないですか、皆さんの顔が死んでましたし」
「そうねぇ。まだセルフィちゃんに依頼は来てないけど、大規模だったらしいから、また何かしら来るかもね」
あの死んだ魚の目をした面々の中には入りたくないものだ。
それは、フラグってやつですよね。ギルド長には、散々フラグを立てられて辛酸を舐めて来た。いい加減やめてください。ここ最近の仕事量は、内勤のそれとは比べ物にならない。これは、給料プラスαでも割に合わない。
「それよりも、今日の「仕事」ね」
そう言って、黒い布切れを渡してくる。
はいはい、いつものですね。
”解析”
たちまち目が熱を持つと、とある人間の影が浮かび上がった。影の形から、やや中性な印象を受けるが、ほぼ男性である。庶民通りを通り抜けて、職人通りへ。そこから更に奥に行くと、とあるレストランまでたどり着いた。
「ここって”遅咲きのノクターン”ですね。裏口に回っているみたいですけど」
”遅咲きのノクターン”は客層が男性ばっかりの、男性冒険者が多い、The・酒場オブ酒場だ。
「セルフィちゃん、お疲れ様」
毎回のように蒸しタオルが出てくるので、軽くもんでからそれを目に乗せて休める。
「今度はどんな奴なんですか?」
「薬の密売よ。裏口から入ってたのね……明日は突撃だわ!」
蒸しタオルの隙間からギルド長を見ると、闘志を燃やして、ぎらぎらとしていた。ああなってはギルド長のパッションは止められない。本当なら自首して欲しいが、明日の予報は「辺りに血の雨が降るでしょう」だ。でも、犯罪者だから仕方ないね。
ソファに寄りかかって目を閉じている間に、最近疑問に思っていた事を質問してみる。
「窓口って、なんで女の子しかいないんですか?指輪やアンクレットを配布しているとは言え、前に来たカスハラ男みたいなヤツが来たら、どうしてたんですか?男性も居た方がいいですって。これは一種の性差別ですよ」
目を軽くしばたたかせてピント調節をしていると、ギルド長が意外そうに「アラッ」っという。
「そう言えば、セルフィちゃんってずっと鑑定室に居たから知らないのね」
「何をです?」
「窓口奥の、書類決済しているユーグさんって居るでしょ?あのコ、元冒険者なのよ」
「へー……えぇっぇえ!?」
ユーグさんとは、青白く瘦せ型でメガネをかけており、およそ冒険という言葉とは程遠い雰囲気である。
「それで、何か有ったらこう、魔法でズドンと」
「人は見かけによりませんねぇ」
あのユーグさんが!?冒険に行ったら途中で息絶えそうだと思うのは、私の偏見だろうか。
他にも経理のシンさんとか、事務員のカルルさんとかも元冒険者なのだそうだ。シンさんとカルルさんは二階が仕事場なのだが、ユーグさんは普段受け付け嬢の後ろでデスクに向かい、決済をしているが、いざとなったら表面に出るそうだ。
あの日は、たまたま席を外していたらしい。
「このギルドは、まだまだ秘密がいっぱいですね」
ギルド長の謎の人脈とかね。
私が言うと、ギルド長は手のひらを口に持っていき「うふふ」と笑った。
「女は秘密が沢山有るものよ」
あなた女じゃないでしょう。
「それよりも、最近は”氷雪”の出入りが多いから、出待ちしてる子もいるみたいよ。」
ギルド長はこちらに意味深な視線を投げてくる。
うわぁ、私って最近は”氷雪”と行動する事が多いけど、いつか刺されたりしない?
私が恐れ慄いているのを見て、ティーポットの周りで呪いのダンスをグルグル回っていたベルジュが、トコトコ歩いてくる。
『なんだ。奴らを呪殺すれば解決するのか』
ストーーーーップ!
「ステイ、ステイ、まだ何も起きてないからね」
『じゃあ、最近この建物の近辺に居る女どもを呪えばいいのか?』
「なんでまだ何も起きていないのに、先手打って殺そうとしてるの」
『何かが起こってからでは遅いのだぞ。転ばぬ先の杖というものだ』
どこで、ことわざとか覚えて来たんだろう。ベルジュが強請ってくる本も、検閲しないといけないな。
私達の侃々諤々の議論は、ギルド長に部屋を追い出されるまで続いた。




