51 悪夢と砂糖菓子の女の子
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少女はストレートの腰まで有る桜色の髪をサラサラと流しながら、薄紫のノースリーブのワンピースを着ていた。ふんわりした裾を摘まんで、優雅にカーテシーをする。病的に白い肌と整った顔立ち、淡い薔薇のような唇と、まるで良く出来たアンティーク人形の様だった。
「ようこそいらっしゃいませ、私の楽園に」
こんな趣味の悪い色の楽園が有るだろうか。暗い足元に、カボチャのようなオレンジ色の空。木の周りを覆うように壊れた玩具や、破れたぬいぐるみに囲まれているからこそ、少女の色彩は浮いていた。
姿だけを見ると、”砂糖菓子のような女の子”という表現がぴったりなのだが、その存在はあまりにも異質だ。
「ここに大人の人はいないのかい?君も帰れなくなった子なのかな」
イクリスさんは慎重に声を掛けているけど、その異様さから言って、原因は十中八九、その子で間違いない。イクリスさんも、そう考えてはいるだろうけど、情報を引き出せるほど引き出そうということなのだろう。
「”私の楽園”って言ったよね、ここは”私の”世界なの。分からないかなぁ。それに、大人の人なら居るけど、ホラ……」
呆れながらも少女が指差した先には、5人の鑑定科の制服を着用した人達が倒れていた。なるほど、私が知っている顔ぶれだ。
「こんな所に人を閉じ込めて、どうするつもりなんですか」
珍しくセイカさんが前に出ると、女の子は嫌な顔をする。
「あら、私って神官が嫌いなのよね、すぐに私達を異端扱いするから。寧ろ、私は無理矢理に作りだされた被害者じゃない?」
「そ、れは……」
セイカさんの勢いが、急激にしぼむ。そんな光景を見つつ、私は感心していた。外から見るとクタクタな、ただのぬいぐるみの人形だったのに、中に入るとこんな美少女が居るだなんて。
ベルジュも中に、美少年が入っていないだろうかと一瞬考えたが、あんな性格の美少年はお断りである。
ベルジュは、見たまま兎なのだろう。この少女も、ベルジュのように、何か欠点が無いものだろうか。
私がそんな事を考えている間にも、女の子の話は続く。兎にも角にも、彼女の話を聞くのが先決だ。
「私は遊び相手が欲しいだけなの。でも、呼ぶと皆入ってはくるけど、寝るだけで、そのまま壊れちゃうのよね」
ふう、とため息を吐きながら、足のつま先で地面をトントンする。
この空間の中で、意識の無い大人、うず高く積まれた壊れた玩具たち。これを意味するのは……。
「君が呼び寄せたから、人間が壊れた玩具になった?」
皆が思っている事を、イクリスさんが口にした。
「わぁ、せいかい、せいかーい!正確には、勝手に壊れちゃうんだけど……。私の中に来て喋れる人なんて、そういなかったけど、あなた達は違うのね!ふふふ」
少女は破顔して、ヒラリヒラリとさくら色の髪を揺らして踊るように回る。
「良かった!やっと遊べる人が来て」
しかし、次の瞬間には目が狂気に染まる。
「お兄ちゃんたち、一緒に遊ぼ?」
どろりと空が溶けて、一面紫になり、辺りも靄に包まれた。少女は、その靄に躊躇なく飛び込み、あっという間に見えなくなってしまった。
「かーくれんぼ、かくれんぼ。私の事を見つけてみせて?」
きゃらきゃらとした声が響くが、この靄の中を探すのは至難の業だ。
「これは、はぐれるのが一番やばいな。皆固まってくれ」
イクリスさんが厳しい声を出す。
「セイカ、サーリャ、魔法の灯りで照らせるか?」
「やってみるわ」
2人が頷いて灯りを点けると、やや視界が開けた。開けたと言っても、依然、少女の姿は見えない。
「これは……効率が悪いけど、地面に印を付けながら歩くしかないね」
幸い、玩具で出来た道はさほど広くなく、印を付ければ何となく行けそうではある。ここにはマッピング出来る人は居ないので、しらみつぶしに歩くしかない。行きつ戻りつ、懸命に歩いていると、たまにクスクスという笑い声が聞こえて、「そっちじゃないよー」と言われる。見通しの悪い道を、もう小一時間歩いている。
どこから私達を見てるんだろう。まるで、この空間の全部に目が有るようだ。
……空間全体?
「彼女は”私の楽園”って言ってましたよね。これって、彼女からはどこからでも見えていて、結局私達はどこに行っても捕まえられないんじゃないんですか?」
私が言うと、全員が顔を見合わせ、何とも言えない表情である。
「聞いてるか分からないけど、絶対勝てる遊びなんて、遊びじゃないよ」
私は、姿を見せない少女に向かって呼びかける。そうすると、あっという間に靄が晴れて、少女が現れた。
「そうなの? へー、そうなんだぁ」
どうやら、この子は遊ぼうという割に、遊び方というものを知らないようだった。少なくとも誰かと同条件での遊びはした事が無い様だ。
「それなら、こんなズルをしないで、普通にかけっことかした方が良いと思う」
私は走らないけどね。
「本当!?じゃあ、かけっこって言うのをやってみたい!」
少女の目からは狂気が抜けて、年相応の表情になった。……相変わらず空はオレンジ色で晴れてはいないけどね。でも、それは多分、少女は青い空を見た事が無いのだ。
「じゃあ、誰が一緒に走る?」
少女はワクワクとしているが、どうか私以外の人としてください。お願いします。
短編載せました。暗い話が好きな人はどうぞ。スカッとした話では無いです。
ここは神ノ樹通り裏路地12番街骨董店
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