46 恋は片道切符
只今、昼12時、夜20時更新となっております。
一日1本の場合は、20時目安とさせていただいております。
帰りは3日かけて地上へ戻り、私は久しぶりに奇麗な空気を肺の隅々までいきわたらせた。あぁ、黴臭かった。冒険者の方々には悪いが、私にあの空気は体に悪い。
それに、春のローブが無かったら、1人で暗闇に放られた時に体温が下がってあぶなかっただろう。
2回も命の危機に瀕したのだ、流石にもう勘弁して欲しい。
このままギルドに報告しにいくのにも今日は疲労しているという事で、私だけが簡単にギルド長に報告する事にして解散した。
ギルド長室に行くと、いつものように紅茶が出て来た。
「あらぁ、大変だったのね」
「大変とか大変じゃないとか、そういう問題じゃなかったですよ」
「そうね、でも、今度行くときはベルジュちゃんには犬の散歩用の、伸縮リードをお勧めするわ」
今度っていつ!?
次回は無いですよ!!
「疲れてるだろうから、3日休んで。その日に”氷雪”とナユちゃんにも来てもらうわ」
「はぁ……じゃあ、その時に一緒に詳しい話をします」
「分かったわ。ご苦労様」
私は紅茶を一口だけ飲むと、ギルド長室を後にした。
ギルドから家に帰る途中で市場を通る。流石に今日は出来合いの物でいいだろう。辺りを見回すと、持ち帰り用のお弁当屋を見つける。今日はここでいいか。
散々悩んでメンチカツ弁当と野菜サラダを買い、のろのろと家へ帰る。
どさっと荷物をテーブルに放り出すと、まずは埃っぽい体を洗い流す事にした。少し熱めのシャワーで髪をワシワシと洗い、体を泡で流す。さっぱりした所で、タオルドライだけしてソファにどさりと腰を下ろす。お弁当を広げながらベルジュを見る。
『なんだ?』
スンスンと遠くから嗅ぐと、湿気っぽくて埃臭い。良く見ると、土埃がやたらとついていた。流石にあのダンジョンの中で奇麗サッパリとはいかずに、如何なアーティファクトと言えど、清浄機能は付いていない。要するに、薄汚い。
私はお弁当の蓋を締め直し、ベルジュの首根っこを摘まんで洗面所に行ってお湯を張り、もみ洗いをする。
『何をする!!』
「いや、バッチイからテーブルに置いておけなくて。私のベッドとか乗られたら嫌だし」
『多少汚れていても、如何な脆弱な人間とは言え、然う然うに死なんだろう』
「そう言われても、私が我慢できないし」
こうして洗い終わるとタオルドライをしてから、キッチンの窓に下げてある麻ひもにピンチでぶら下げる」
『ニンゲンが、ワシにこのような事をして良いと思うのか』
「思ってるよー、ここの部屋の主は私だしね」
私は再びお弁当の蓋を再び開けて、サクサク衣のメンチカツを頬張る。うーん、おいしい!メンチとお米の止まらぬローテーションで、瞬く間にお弁当箱を空にすると、サラダをもぐもぐとする。本当はサラダを先に食べるべきだったけど、お腹空いてたからな……。うっかりうっかり。
体を洗いご飯も食べた。後は髪を乾かして歯磨きをすれば寝れる。時間は早いが疲労がすごいので、髪の毛を乾かしながらもウトウトしてきた。何とか歯磨きも終え、後はベッドにダイブだ。久しぶりのお布団で、まさに夢見心地である。
何かキッチンからギャーギャーと叫ぶ声が聞こえたが、睡眠欲には勝てずに布団にもぐった。もう、お布団しか勝たん。
3日後はこれまた晴れていて、夏の暑さでお湯の中を歩いてるような気持ちでのろのろとギルドに出勤する。
更衣室で荷物を置いていると、アリスさんが、私以外は既に応接室に着いてると教えてくれる。ヤバイ、
遅刻した覚えは無いが、そう言えば”氷雪”はダンジョンに潜る前も結構早く着いていたと思い直した。
でも、”私以外は”という事はナユさんも着いてるんだな。くっ、15分前行動したつもりだったのに。
2階の応接室に入るとみんながソファに腰を下ろしており、即座に私も下座に座った。
「遅くなってすみません」
「あら、時間前よ」
時間には間に合ったようでホッとした。それにしても、みんな早いな。
私が席に着いたと同時に、お茶が運ばれて来る。お茶が行き渡った所で、ギルド長が聞き取りを始めた。
「なるほど、大変だったわね。お城から報酬が入り次第、またお呼びするわ」
ギルド長は聞き取りながら報告書を制作して、ペンを置く。
「あとは紛失したり壊れた装備は多分お城から補填されると思うわ。遠慮なく言ってちょうだいな」
「お、助かった。あのナイフ、高かったんだよねー」
ナユさんが言うのは、スキルを使った時に放ったナイフの事だろう。あれだけのナイフだから、結構高かった筈だ。補填くらいしてほしい所だろう。
そして、私もお城から貸してもらっていた装備を返す。本日はそれだけで解放されて、帰宅する事が許された。
「セルフィちゃん、帰りにちょっといーい?ご苦労様会で今日くらいは、一緒にお昼ご飯どう?」
ナユさんが突然声をかけてきた。
確かに今回は(大半はベルジュのせいとは言え)ナユさんに迷惑をかけた。お昼ご飯だけなら付き合っても良いか。お城から報酬が出ると言っても、それはそれだ。
「はい、いいですよ」
ナユさんは、自分から言い出した事なのに、目を丸くした。
『不埒者!!今回の事を盾にするなど!』
「ハイハイ、ベルジュは大人しくしてようね」
私はハンカチでベルジュを風呂敷包みにし、鞄にしまった。鞄の中で何かを叫びながら手をつきだしているのだろうが、蓋をしてしまうと、そこまで気にならなかった。
ナユさんはお洒落なカフェへ私を案内すると、席へエスコートする。作りはレトロで大きいお店ではないけれど、庭にはバラが咲き乱れ、外でも風が気持ちよく、暑さが気にならなかった。良く見たら、今日の彼はいつもより少し服装がぴしっとしてた。
お茶とデザートが運ばれて来て食べ終わるまで雑談をする。そうして食事も終わりと言う所で、彼がふと真面目な顔になる。
「セルフィちゃん、ちょっと手を出して」
ナユさんは、私の片手をそっと上向きにさせて、小さな袋を乗せた。
「………………………………?」
「開けてみて」
訳も分からないまま手の中に有る小さな袋を開くと、サファイアを嵌め込んだネックレスが出て来た。確か、これはあのダンジョンで出て来たサファイアで、ナユさんがいの一番に所持を所望していた。
「パパラチアサファイア、宝石言葉は知ってる?」
ナユさんは妙に静かに言った。
「「一途な愛」「運命的な恋」ですよね、これは……」
「本気だから、付き合って欲しいな」
顔が、かぁっと熱くなる。軽い言葉を皆に掛けているので、私に、こんな事をするとはするとは思わなかったのだ。
「女の子にあげまくってたりは……」
「しないよ。ご飯代とかは奢ってあげたりはしたけど、女の子にアクセサリーはあげた事無い」
どうしよう、どうする?
「俺は遠くに行かなくても稼げるし、その辺の冒険者より安心出来ると思うよ」
でも。
「ごめんなさい。今は仕事で精一杯で恋愛とか考えられないです」
私は貰ったネックレスを丁寧に袋に包み直して、ナユさんの前に戻した。
少しの静寂。
「そっか。ダメだとは思ってたけど。でも、仕事は仕事だから気にしないで相手してね」
「はい、申し訳ないです」
「お金払っとくね。のんびりしてから帰ると良いよ」
ナユさんが、会計ボードを持って席を立つ。
「有難うございました」
後ろから声を掛けると、背中が一瞬だけピクリと動いたが、振り返らずに扉を閉めた。




